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一人遺産分割協議2

2021/12/25 土曜日

 一人遺産分割協議は不可能なのか?先に紹介した登記研究の見解の登場からしばらくして、1つの通達が発出された。平成28年3月2日民二第154号である。その内容を抜粋すると以下のとおり。

 Aの遺産分割協議がなされない(Aの相続人はBとC)ままBが死亡し、Cのみが相続人である場合に、CはAの遺産分割協議を行う余地はないから、CがA及びBの死亡後にA名義の不動産を直接取得した旨の書面を取得してもこれは登記原因証明情報としての適格性を欠く。つまりAから直接Cへの相続を原因とする所有権移転登記はできない。
 一方で、Bの生前に遺産分割協議が行われており、その旨の書面は未作成でも、当該協議は有効なのだから、CがBの死後に作成した遺産分割がなされたとのことの証明書は、登記原因証明情報としての適格性を有するため、Aから直接Cへの相続を原因とする所有権移転登記が可能となる。

分解してみると・・・。

「Cのみが相続人である場合に、CはAの遺産分割協議を行う余地はない」としていることから、一人遺産分割協議は公式に不可能とされたようだ。

さらに
Bの生前に(Cを取得者とする旨の)遺産分割協議が行われていれば、Bの死後であってもAから直接Cへの相続を原因とする所有権移転登記が可能としている。

 これはB生前に遺産分割協議は行ったものの、その旨の登記申請を行っていないという状態である。過去に複数の相続人によって行われた遺産分割協議に基づく登記申請を相続人が一人となってしまった後に行うというものである。
 お気づきのとおり、これは一人遺産分割協議ではない。遺産分割協議が行われた時点では相続人は複数いたのだから、まったく問題はない。遺産分割協議から登記申請までの間がだいぶ空いているだけのことである。
 これは当然のことである。「それがどうした!当たり前のことだろう。」というのが正直な感想である。
 ただし、遺産分割協議を行い遺産分割協議書を作成したが、その旨の登記申請をしていないという状況なので、あまり想定できない。売買にしても相続にしてもサッサと登記申請まで行うのが通常だろう。

画期的なのはその次である。
「その旨の書面は未作成でも、当該協議は有効なのだから、CがBの死後に作成した遺産分割がなされたとのことの証明・・・」とある。
遺産分割協議書が作成されていない場合でも一人だけ残っている相続人が過去に行われた遺産分割協議の結果を証明することで足りるということだ。

これらはどういうことか。具体例で考えてみよう。
父A、母B、子Cという3人家族でAが登記名義人となっている不動産がある。3人で住んでいた自宅と考える想定しやすいかもしれない。
令和元年にAが死亡してしまった。その後令和3年にBも死亡してしまい、残っているのはCだけで今に至る。

A死亡後からB死亡時までにBとCで遺産分割協議を一切行っていなければ、これをC名義とするには、2件の登記申請が必要となる。直接AからCへの所有権移転登記はできない。
これが一人遺産分割協議は公式に不可能とされたということである。

次に、A死亡後、BとCの間でCが取得する旨の遺産分割協議を行い遺産分割協議書(BとCの印鑑証明書付き)を作成したが、何らかの理由で登記申請までは行っていなかったという場合を考えてみる。

おそらくBがCに対して「私は老い先短い。やがて私も先に死ねばこの家はあなたのものになるのだから、今の段階であなたのものとしよう」などと申し出たのを受け、Cが「母ちゃんありがとう。それでは親父が残したこの家と土地はオレが引き継ぐよ。遺産分割協議書も出来あがったのだから登記申請はそのうちやっておくよ」とは言ったものの、実際には(他の添付書類の手配ができていなかった、登録免許税が工面できなかった、単に面倒くさい等の様々な理由が考えられるが)登記申請は行っていなかったのだろう。この場合は作成済みに遺産分割協議書を添付すれば何の問題もなく直接AからCへの所有権移転登記が可能である。
これが私が「それがどうした!」と評したものである。

最後に、A死亡後、BとCの間でCが取得する旨の遺産分割協議を行ったが、その旨の遺産分割協議書を作成していなかった、または不十分な記載内容のものしか作成していなかった。そのため、登記申請も行っていないという場合を考えてみる。

Bが「私は老い先短いのだから、やがて私も先に死ねばこの家はCのものになるのだから、今の段階でCのものとしよう」などと申し出たのを受け、Cが「母ちゃんありがとう。それでは親父が残したこの家と土地はオレが引き継ぐよ。」とは言ったものの遺産分割協議書は作成せず、当然その旨の登記申請も行っていない、という場合である。

このような場合でも、現時点で生存しているCが「Bが生存中に二人でこの家と土地をどうするかの話し合いをして、わたくしCが引き継ぐという結果になりました!」という内容の証明書をCが作成して、Cのみの印鑑証明書を添付すれば遺産分割協議書に代わるものとして登記原因証明情報となるのだ。

これは自己証明というものであり、「自分がもらったぜ!」という内容の証明書を当の本人が作成したものにすぎず、自分以外の者が取得したという内容であればともかくとして、あまり信用力、証明力はないような気もするのだが・・・。

しかし、遺産分割協議は要式行為ではない(口頭でのみ行い書面にしなくとも有効)ものであり、遺産分割協議の結果を証明できるというBの地位をもCが承継したとも考えられるので、自己証明でも問題ないということだそうだ。

登記名義人の死亡後に残された相続人間で「不動産の相続はどうしようか?」といったことぐらいの話はしていてもおかしくはない。むしろよくあることではないだろうか。これも立派な遺産分割協議である。
遺産分割協議はなされていたが、その旨の書面を作成していなかっただけである。
何もしていなかったのではないのである。

結局のところ、現時点では相続人が一人の場合でも相続人が複数いる間に、遺産である不動産の帰属について何らかの取り決めをしている限り、この取り決めにしたがった登記申請ができるということだ。

これは一人遺産分割協議の問題ではない。相続人が一人になってしまう前に遺産分割協議はなされていてその結果をどのように証明するのか、という問題にすぎない。

つまるところ、証明力にやや難がある自己証明で足りるのか?ということである。
従来から自己証明で足りるという見解もあったそうだが、私は自己証明というものの証明力の弱さから否定的に考えていた。

商業登記では自己証明ということがよくあるので、これに倣って一人遺産分割協議の場合にも自己証明を肯定する見解があったのであろう。しかし商業登記の場合はそうでもしないと他に手段がないことが多いためであり、一人遺産分割協議の問題では自己証明を否定しても、登記申請を2件に分けて行えば目的は達成できる(登録免許税は割高になるが)。他に手段がないわけではない。
しかし、本通達は自己証明でOKとしたのである。私はこの点が画期的であると考える。
本項は一人遺産分割協議をテーマとしてきたが、話は変わってしまい、自己証明の信用力、証明力の問題となってしまったのである。

長々と書いてきたが、相続人が一人しかいない場合でも遺産分割による登記申請が可能ということだ。

しかしこれにはまだ残された問題があるが、これは後日。