取締役の欠格事由1
2022/2/08 火曜日
かつては成年後見人や被保佐人が取締役に就任することはできないとされていた。成年被後見人や被保佐人の判断能力はそれぞれ「精神上の障害により事理を弁識する能力(事理弁識能力≒騙されて不利な契約等をしないということ)を欠く常況にある」や「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」から、高度な経営判断が求められる会社の役員の任には堪えられないハズである、ということなのだろう。
就任できないということは、在任中に成年後見開始の審判を受けると任期途中でも退任しなければならないということである。
しかし、親族経営の会社には高齢の親族が取締役として名を連ねていることは多々あるだろう。実際には経営には携わっていなくとも、役員報酬を受け取るためには取締役として名を連ねていなければならない。
また、事理弁識能力と会社経営者に求められる能力は必ずしも一致しないという指摘もあり、たとえ事理弁識能力がなくとも残された判断力、敢えていえばこれまでに培ってきた勘や経験で十分に会社に貢献できるぞ、という指摘もあった。これをノーマライゼーションというらしい。ノーマライゼーションは本来の意味とは少し違うかもしれないし、これだけで本が書けるほどのものなのでこれ以上は立ち入らない。
また、成年後見開始の審判や保佐開始の審判と同時に取締役への就任能力を否定(取締役の欠格事由に該当という)したり、選挙権等の公民権を否定することは制度の趣旨にそぐわない過剰な禁止であり、これ故に成年後見制度への偏見が強くなり、利用を阻害しているという指摘もあったようだ。
成年後見事件を担当させていただいている身からすると、成年被後見人の取締役就任能力を否定することについての賛否は難しい。いうまでもなく会社の経営というのはとても難しいものであり、誰でも彼でもできるようなことではない。そのため今まで一度も会社経営をしたことがない成年被後見人が新たに取締役に就任することは否定しても差し支えないだろう。取締役は高度な経営判断が求められこれを誤ってしまうと、とてつもない賠償責任さえ負う可能性があるのだから。仮に私が担当している成年被後見人の方が見知らぬ会社の取締役に就任したいと言ったら全力で諫めるであろう。
しかし、これまで長年取締役を務めてきたという方であれば、取締役に就任しても差し支えないと思う。成年被後見人といえどもできることはあるだろうし、その人にしかできないこともあるだろう。
令和元年の会社法改正で成年後見開始の審判や保佐開始の審判が取締役の欠格事由から除外されたので、今後は成年被後見人や被保佐人でも取締役に就任することはできるようになった。成年被後見人や被保佐人を取締役に選任するか否かは会社や株主の判断に委ねれば足りるということのようだ。 しかし、注意すべき点や残された問題点もたくさんあるので、これは別の頁で。

