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取締役の欠格事由4

2022/2/28 月曜日

この頁では成年被後見人が取締役に就任する場合の登記手続を考えてみよう。この頁を書いている時点では制度開始から日が浅く、それほどの実例もないことからある程度は想像で補うことしかない。

添付書類は選任を証する株主総会議事録が必要なのはいうまでもない。設立時であれば定款などでもOKだろう。

①就任承諾書
就任承諾書は成年後見人が作成すること(成年後見人が作成名義人となるってこと)となる。つまり署名押印するのは成年後見人ということである。
記載例は
「成年被後見人Aが貴社取締役に就任することを承諾する。A成年後見人B 印」
となるのであろう。
押印の有無についてはこの後で述べる
成年後見人と成年被後見人双方の住所と氏名を記載するようだ。

②後見登記事項証明書
就任承諾をする成年後見人が誰なのかということを証するために添付する。
この後見登記事項証明書については明確な見解はないが、商業登記規則36条の2により作成後3ヶ月以内という有効期間の制約があると考える。登記事項証明書って法人登記のものを念頭に置いた規定なんだろうが、後見登記事項証明書も登記事項証明書だしな。

③成年被後見人の同意書
成年被後見人は成年後見人に対して何について同意をするのだろうか。同意書の記載すべき内容に関わるので検討しておこう。
取締役に就任することを同意するのだろうか?それとも自身に代わり会社に対して就任承諾の意思表示をすることであろうか。
同意というのは他人(成年後見人)がこれからしようとしていること(就任承諾)に賛同するという意味がある。
取締役に就任するのは成年被後見人であり、その承諾は会社に対して行うべきものであること、そもそも同意とは行為者(成年後見人)に対して行為者以外の者(成年被後見人)が行うことなのだから後者であろう。
したがって、同意書は
「取締役に就任することを同意します。 成年被後見人A」ではなく、
「成年後見人Bが取締役への就任承諾をすることを同意します。成年被後見人A」
と記載すべきだろう。
あまり変わりがないような気もする。些細な点なのでどちらでも登記申請は受理されるだろう。
同意書に押印が必要かという点についてはこの後に述べる。

④成年被後見人の本人確認証明書
取締役となる者の実在性を確認するために官公署作成の身分証明書、正確に言えば住所と氏名が記載されている文書を添付するのだが、後見登記事項証明書を添付するのでこれで足りる。敢えて住民票などを別に用意する必要はない。

⑤成年後見人の印鑑証明書
非取締役会設置会社であれば取締役、取締役会設置会社であれば代表取締役に就任する場合には、就任承諾書には成年後見人の実印を押印して、印鑑証明書を添付する。取締役に就任する成年被後見人ではなく就任承諾書に記名押印する成年後見人の印鑑証明書を添付するのだ。

添付書類の注意点としては次のとおりだ。
①就任承諾書の記載事項
就任承諾書には成年後見人及び成年被後見人の住所と氏名を記載するのだが、いずれも成年後見登記事項証明書の記載と一致していなければならない。
成年後見人の印鑑証明書を添付する場合には印鑑証明書の記載とも一致していなければならない。

②成年後見人が法人の場合
司法書士法人などの法人が成年後見人に選任されることはよくある。この法人である成年後見人が同意するときは、同意書は代表者が作成し、当該法人の登記事項証明書(資格証明書などといわれている)を添付する。この登記事項証明書も作成後の有効期間の制限はないのではないかと考える。もっともこの場合には会社当法人番号を提供すればいいので、作成期限云々の問題は起きないだろう(商業登記規則19条の2)

③成年後見監督人がいる場合
この場合は成年後見監督人の同意も必要となる。法人であれば上記②と同じようになる。

④就任承諾書・同意書に押印は必要だろうか
就任承諾書は原則として押印不要(極端ではあるが署名も不要かもしれない)だが、印鑑証明書の添付が必要な局面では実印で押印する必要がある。
同意書は押印不要である。(こちらも署名も不要かもしれない)
通称「印鑑不要通達(令和3年1月29日民商10号)」は以外と射程距離が広い。いろいろな添付書類の押印が不要となってしまうのだ。従来の商業登記実務の常識を大きく破壊してしまうものだ。(ホントにこれでいいのだろうかと疑問に思ってしまうが・・・。)後述のように印鑑証明書が発行されないこともあるので実印の押印を求めることはできないし、実印が不可なら認印を押印せよ、ということではないだろう。

⑤印鑑証明書の種類
印鑑証明書の種類とはなんぞよ?と思うかもしれないが、成年後見人は家庭裁判所に印鑑を届けることにより家庭裁判所書記官が印鑑証明書を作成してくれるのだ。
また、司法書士や弁護士であれば所属会も職印証明書を作成してくれる。
 これらの印鑑証明書でもOKなのか?ということである。不動産登記ではしばしばこういった問題が起きるが、商業登記の世界ではこれまでほとんどこの手の問題は生じてこなかった。
 なぜこれが問題となるのかといえば、成年後見登記事項証明書には成年後見人の住所が記載されるのだが、司法書士や弁護士であれば住所ではなく自身の事務所を記載してもらうことができるのだ。司法書士や弁護士は自宅とは別に事務所を構えることが多いからだ。
 私もそうである。私の自宅は東京都千代田区であるが、事務所は東京都台東区である。そして後見登記事項証明書には東京都台東区の事務所所在地が記載されている。
 この場合、後見登記事項証明書を添付する以上、就任承諾書には事務所所在地を記載すべきであろう。私の場合であれば東京都台東区を記載することとなる。そうなると、東京都千代田区で交付される印鑑証明書を添付することはできない。事務所と住所の所在地が異なるからだ。そうなると事務所所在地が記載されている印鑑証明書でなければならないこととなるので、家庭裁判所書記官作成の印鑑証明書または東京司法書士会作成の職印証明書を添付することとなるのであろう。
 しかし、商業登記規則61条6項には「市町村長の作成した証明書を添付しなければならない」としか規定がなく、「家庭裁判所書記官作成の印鑑証明書または東京司法書士会作成の職印証明書でもええで♪」とはなっていない。
 この規定を愚直に運用すると、東京都千代田区発行の印鑑証明書を添付するとともに、後見登記事項証明書に記載されている成年後見人と印鑑証明書記載の人物が同一人であることを証する書面を添付するのかもしれない。後見開始の審判書には自宅住所の他に事務所所在地も記載されていることがあるので、これで足りるであろう。司法書士であれば日本司法書士会連合会が事務所所在地と住所の両方が記載された証明書(登録事項証明書だっだかな?)を発行してくれるので、これでもOKであろう。
不動産登記でも登記義務書の印鑑証明書を添付するときに同様な問題もあるのだが、こっちは個別の通達などでフォローされているのだが、商業登記では個別の通達などはこの項を書いている時点ではまだ発出されていない。当局の見解が待たれるところであろう。
 
 さらに、就任承諾書に印鑑証明書の添付が要求されるのは新任の場合であり、再任の場合は不要である。この「再任」の意味するところが問題となる。
 成年被後見人が取締役に就任するケースは家族経営の会社で多いだろう。取締役の一人が認知症を発症して成年後見制度を利用することとなったので、一旦取締役を退任することとなるが、引き続き取締役として名を連ねるような場合である。この場合は成年後見開始の審判確定日に資格喪失し、その後の株主総会で選任されることとなる。
この資格喪失→選任という流れが「再任」ということであれば印鑑証明書の添付は省略できるハズである。
 再任の意義については、重任の場合と権利義務役員の就任の場合に限るという見解(登研364号259号)と、これに加え同一登記所内の履歴事項証明書に退任者として記録されている者が復帰する場合をも含むという見解があるらしい。このあたりは金子先生の「平成27年施行改正会社法と商業登記の最新実務論点 71頁」が詳しいので、是非ご一読してほしい。
 再任の意義について前者の見解をとれば、「再任」には該当しないので成年後見人の印鑑証明書の添付が必要となり、後者であれば「再任」に該当するので不要となる。前者の取り扱いが一般的なような気がするので、成年後見開始の審判を受けたので一旦退任して、再度就任する場合には成年後見人の印鑑証明書が必要となるであろう。

⑥印鑑届
 取締役または代表取締役が印鑑を届ける必要がある場合には印鑑届が必要となる。
取締役となった成年被後見人が印鑑を届ける場合には成年後見人、成年被後見人のどちらが印鑑届の手続をするのだろうか。
 端的にいえば、印鑑届の書式の中段あたりの届出提出者本人は成年後見人、成年被後見人のどちらを記載すべきかということだ。司法書士を代理人と定めれば代理人の住所と氏名を記載すればいいのだが、そうなると後段の委任者(印鑑提出者)は成年後見人、成年被後見人のどちらを記載するのだろうか。印鑑提出者=以後印鑑を監守する取締役=成年被後見人と思えるが、これが問題となるのはこの印鑑提出者は印鑑証明書を提出しなければならないという点だ。
 この前提として成年被後見人には印鑑証明書が発行されないことがあるということを知っておこう。「されないことがある」というところが問題をややこしくしている。個人が市区町村に対して行う印鑑登録に関する事務は法律ではなく、各市区町村の条例によって規定されているのだ。住民が成年後見開始の審判を受けるとその者の印鑑登録を抹消してしまうようなので、成年被後見人には印鑑証明書が発行されなかった。これはほぼ全国共通であった。どこの市区町村もこのような運用を条例で定めていた。以前はそうだった。
 ところが近年になって市区町村によっては成年被後見人に対しても印鑑証明書を発行することがあるようになった。印鑑登録に関する事務は条例で規定するので、当該市区町村は条例の改正を行ったということである。ということは条例の改正を行った市区町村と行っていない市区町村があるということになり、住所地よって印鑑証明書の発行が受けられる成年被後見人と発行を受けられない成年被後見人がいるということだ。

 さて、話を戻すが印鑑提出者は成年被後見人自身とすれば印鑑証明書の交付を受けられない場合にはどうすべきなのだろうか?成年被後見人による印鑑証明書が添付できなければ成年後見人が印鑑提出も行うのだろうか?多くの人はそう思ったかもしれない。しかし私はそうは思わない。今回の法改正で成年後見人が成年被後見人を代理して行うのは就任承諾の意思表示だけである。印鑑届まで代理して行うとはされていない。原則どおり取締役となった者が印鑑届を行うべきである。では印鑑証明書が交付されない場合はどうすればいいのだろうか?
 住所地よって印鑑証明書の発行が受けられる成年被後見人と発行を受けられない成年被後見人がいるとはした。理論上はそうなんだが事実上はそんなことはないのだ。
 市区町村というのは大体が自分のところが先駆的な取り組みの第1号になることは避ける傾向にある。どんなトラブルがあるか分からんからだ。見事なまでの先例踏襲主義である。
 しかし周りが行っているとそれには敏感に追随する。要するに1番手にはなりたくないが、ビリだけは避けたいという都合のいい組織だ。余談だがこんな調子の組織に斬新な政策など期待できようがない。コロナ対策などそれが顕著である。みんな右向け右である。
 ということで、成年被後見人に対して印鑑証明書を発行する市区町村は増えてきているので、そう遠くない将来に全ての市区町村で成年被後見人に対する印鑑証明書の発行が実現しているだろう。
 なので、成年被後見人を印鑑提出者としても事実上大きな問題となならないハズである。
 法務局へこの問題を照会しても、「まずは成年被後見人対して印鑑証明書が発行されるか否かを確認せんかい!」と回答がなされるだけだろう。

この頁はとても長くなってしまい大変読みにくくなってしまった。誠に申し訳ない・・・。