取締役の欠格事由7
2022/3/21 月曜日
成年被後見人、被保佐人が取締役に就任する場合の留意点をまとめておく。
まず、在任者が成年後見開始の審判を受けた場合には、一旦退任しなければならないことは既に述べたとおりである。引き続き取締役を務めるのであれば再度就任手続をとる必要がある。
成年後見開始の審判→取締役退任→株主総会で選任→取締役退任と就任の登記申請、となるハズである。
中小企業であれば株主総会開催はそれほど手間ではないであろう。
結局のところ、一連の手続を経ても取締役の構成メンバーには変更はない。辞めたけどすぐに復帰しただけである。
それであれば、登記記録に記載されている取締役の面々には変更はないのだから、退任と再度の就任登記を省略しても問題ないのではないか?と考えてしまう。登録免許税や司法書士報酬も省略できるのだから。
しかし、そうは問屋が卸さないのである。
後見開始の審判を退任事由としない旨の会社と取締役との合意は無効と解されるようである。(令和元年改正会社法 211頁)これは当然であろう。
そして、成年被後見人が取締役へ就任する場合には成年後見人が代わりに就任承諾の意思表示をするという手続を経るのだが、この手続を経ない、つまり成年被後見人自身が就任承諾をしたとしても、取締役への就任承諾は無効と解される。
つまり、退任登記就任登記を省略、つまり何の登記申請もしないということはダメだ、ということである。
そもそも商業登記であっても中間を省略するような登記は許されるはずがない。
もっとも、登記記録からは取締役が成年後見開始の審判を受けたことは分からないので、登記所も分からないハズである。後見登記事務を行っている東京法務局でも同様であろう。後見登記と商業登記はヒモ付けられていないのである。黙っていれば誰にも知られないのである。要は会社のコンプラ意識の問題である。
この退任と就任は1つの申請で行うことができる。別々に申請するとその都度登録免許税を支払うこととなるので、1度にまとめた方がお得だ。
登記期間の問題があるので、後見開始の審判がなされてからすぐに株主総会を開催しなければならない。キチンと準備をしておかなければ。
次に成年被後見人が行った法律行為は成年後見人が事後的に取り消す(キャンセルする)ことができるのだが、成年被後見人が取締役として行った職務行為を成年後見人が事後的に取り消すことができるか、という問題がある。
これは会社法改正時に問題となったようであるので、会社法331条の2第4項が新設され、「成年被後見人又は被保佐人がした取締役の資格に基づく行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない」と規定された。つまり取り消すことはできないということだ。
取締役としてマズい経営判断をして実行しても成年後見人による事後的な取消・救済はできないことになる。これにより会社に莫大な損害を及ぼすこともあり得る。
株主はたまったものではないだろう。損害賠償請求をしたくなるであろう。
ところが民法713条は「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない」と規定している。
この規定が取締役である成年被後見人に適用されるか否かは明らかになっていない。適用はケースバイケースとなるのであろう。個人的には取締役である以上その責任は重いのであるから、713条の適用には消極的に考える。判断能力不足により会社に損害を及ぼすおそれがあるのであれば、選任しない、選任されても就任承諾しないということに尽きるのであろう。

