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取締役の欠格事由8

2022/4/01 金曜日

30 取締役の欠格事由8

この頁では成年被後見人や被保佐人である取締役がその地位を辞任する場合の登記手続を考えてみる。
取締役を辞任する場合には辞任の意思表示をする必要があるので、登記手続上は辞任届を添付書類として提出する。(商業登記規則54条4項)
余談だが、この商業登記規則54条4項ほどザックリとした規定はないだろう。取締役の退任の登記手続をこの条文1本でやっつけてしまうのだから、おそれいったものである。

取締役が成年被後見人や被保佐人である場合には誰が辞任の意思表示をするのだろうか。
なお、この頁でいう取締役の辞任は在任中の取締役が成年後見開始の審判を受けたので退任するということではない。この場合は「辞任」ではなく「資格喪失」であるので、辞任届は用意する必要はない。登記記録も「辞任」ではなく「資格喪失」と記載される。
資格喪失と記載されてしまうと、事情の知らない人が見れば「一体何があったんだ?」と訝しく思ってしまうことを避けるために成年後見開始の審判がなされる前に辞任することはあるであろう。こちらの方が多いかも。

1 成年被後見人である取締役の辞任
この場合は明文規定はないものの成年後見人、成年被後見人のどちらでも辞任の意思表示をすることができるようだ。取締役本人が辞任の意思表示をすることができるのは勿論のこと、実際に就任承諾をした者(成年後見人)でも辞任の意思表示をすることができるということであろう。就任承諾の意思表示は成年後見人のみが行うことができることとは異なるのだ。
成年被後見人自身が辞任の意思表示をすることを「直接方式」、成年後見人が辞任の意思表示をすることを「間接方式」と呼ぶこととする。被保佐人の就任の場合と似ている。
直接方式の場合、成年後見人の同意は不要である。そもそも成年被後見人が成年後見人の同意を得て法律行為を行うということがあり得ないからだろう。成年被後見人単独で可能ということだ。
間接方式の場合、成年被後見人の同意は不要である。就任承諾の場合は同意が必要という明文規定があったが、辞任はそもそも規定がない。成年被後見人の同意というもの自体がかなり珍しいものなので、明文規定がない限りは必要ないということだ。

間接方式の場合の添付書類は次のとおりである。
①成年後見人の辞任届
②成年後見登記事項証明書
③以下のいずれかの場合は成年後見人の印鑑証明書
(ⅰ)辞任する成年被後見人が印鑑提出者
(ⅱ)辞任する成年被後見人が印鑑未提出会社の代表取締役

直接方式の場合の添付書類は次のとおりである。
●成年被後見人の辞任届
●以下のいずれかの場合は成年被後見人の印鑑証明書
(ⅰ)辞任する成年被後見人が印鑑提出者であり辞任届に届出印を押印していない
(ⅱ)辞任する成年被後見人が印鑑未提出会社の代表取締役

注意すべきは後見登記事項証明書は不要である。成年被後見人単独で可能ということなので、辞任者が成年被後見人であることやその成年後見人が誰であるかを明らかにする必要はないということだ。
成年被後見人に印鑑証明書が発行されるのか、という問題がここでも起きる。就任時や印鑑届出時に何らかのかたちで提出しているハズなのでたいした問題ではないかもしれない。もっとも印鑑届出後に成年被後見人には印鑑証明書を発行しない自治体へ転居していたら問題となる。

さて、直接方式と間接方式のどちらが望ましいのだろうか。
辞任は取締役の重い責任から解放される一方で身分特に報酬等の対価を得ることができる地位を失うこととなる。その重大性に鑑みると直接方式が望ましいと思える。間接方式は成年被後見人の認知症の進行により辞任の意思表示をすることができないような場合に採用すべきであろう。成年被後見人の同意が不要ということにもマッチする。
一方で成年被後見人が単独で行った辞任の意思表示を事後的に成年後見人が取り消すことができると解されているので、辞任の効力を確定的に生じさせるためには間接方式が望ましいという見解もあるようだ。(月報司法書士2021年10月号 79頁)

2 被保佐人である取締役の辞任
被保佐人である取締役が辞任する場合においても、明文規定が設けられていない。このため保佐人が代理権付与に基づき就任承諾をした場合でも、辞任の意思表示をするのは被保佐人であるらしい。(月報司法書士2021年10月号 79頁)
保佐人の同意権・取消権は民法13条1項に列挙されているものに限られるので、被保佐人がなした辞任の意思表示を保佐人が事後的に取り消すということはないだろう。
辞任についても代理権が付与されているような場合には保佐人が当該代理権に基づき辞任の意思表示をすることも得きるのではないだろうかと考えてしまうのだが。

添付書類は次のとおりである。
●被保佐人の辞任届
●以下のいずれかの場合は被保佐人の印鑑証明書
(ⅰ)辞任する被保佐人が印鑑提出者であり辞任届に届出印を押印していない
(ⅱ)辞任する被保佐人が印鑑未提出会社の代表取締役