休眠状態会社の取締役を辞任したい!1
2022/7/21 木曜日
コロナ前のことではあるが、「退職代行」というビジネスがあると聞いた。勤務先に退職の意向を伝えるのが怖いので、他人に代行してもらうそうだ。こんなビジネスがあるものなのかと疑問に思うし、日本の社会の闇の深さを感じてしまった。もっともコロナの真っ最中でも需要はあるのかどうかは不明だが。 そういえば、司法書士でもこの退職代行をしている人がいるようだ。司法書士の業務は登記、裁判事務、成年後見と大別されるところ、裁判事務のうち裁判外和解交渉という範疇なんだろうか?
辞めるのが難しいといえば、こんな話がある。知人から「経営する会社の役員になってほしい。業務を行う必要はなく、名前だけ貸してほしい」」ということだったので、これに応じて見たことも聞いたこともない会社の役員となったのだが、その後その会社は経営が傾いたのか事実上の活動を停止してしまった。登記記録上は解散などの登記がなされず、存在したままの状態となっている。いわゆる休眠会社となっているようだ。そのままにしておくとそのうち会社債権者から追及を受けるかもしれないので、この会社の取締役を辞めたい、ということである。
さてこの場合はどのような手続を経るのか、ということがこの頁の目的である。 結論からいうと、これはかなりの無理ゲーである。このような状況にいる方は覚悟してほしい。
まず取締役を辞める方法であるが、自発的に辞める方法、会社から辞めさせる方法、会社法により辞めさせる方法の3つがある。 自発的に辞める方法には辞任と任期満了がある。辞める方法をこの3つにカテゴライズしたときに任期満了を自発的な辞め方に含めることには違和感がないわけではないが。 取締役には2年から最長で10年の任期がある。これは会社により異なるはずである。定款に記載されているはずなので、定款を確認する必要がある。 任期が満了して続投しなければ任期満了退任となり、取締役を辞めることができる。 辞任は任期期間中に辞めることである。通常は「一身上の都合により」という理由で辞任するのだが、法律上は理由は必要ない。単に「やーめた!」でもいいのである。
会社から辞めさせる方法は解任である。株主総会決議が必要となる。 会社側からの委任契約の解除と言われるが、要は「お前はクビだー!」ということ。 これは穏やかではない。 不祥事や大失態を犯した取締役を責任をとらせて辞めさせるときは、通常は辞任というかたちをとることが多いので、解任と記載されている登記記録は滅多にお目にかかることはない。解任と記載されている会社は「一体何があったのだ?」と勘ぐってしまうだろう。
会社法により辞めさせる方法とは、取締役の欠格事由に該当した場合である。破産とか犯罪を犯すなど取締役には相応しくないことをした者は取締役とはなれないのだが、就任後にこのようなことになれば、取締役を辞めなければならない。 設例の場合は辞任か任期満了を検討すべきであろう。しかし辞任をするか任期満了まで待てばいいかと言えば、そうは問屋が卸さない。 辞任や任期満了により取締役を辞めるには後任がいなければダメなのだ。 辞めることにより取締役の定員を下回ってしまう場合には、辞任や任期満了で辞めることができない。後任が決まるまでは引き続き取締役としての任に当たらなければならないのだ。取締役への就任は委任契約であるので、頼まれた以上は依頼先(会社)のことをキチンと考えてあげないとイケない、辞めるのも簡単ではないということだ。 こういった意味からも簡単に取締役に就任してはいけないということだろう。
一方で資格喪失や解任の場合は定員を下回ってしまう場合でも会社を去ることになる。そもそも取締役を任せられないということなので、後任がいなくともサッサと会社を去ってもらうべきということだ。 取締役の定員は、取締役会設置会社であれば3名以上と法律に定められている。非取締役会設置会社では法定されていないが、定款で定めているケースが多いだろう。 取締役を辞めるときはまず会社の取締役の定員数を確認する必要がある。
定員を下回ってしまう場合には、株主総会を開催して後任を選任する必要がある。
株主総会は取締役が招集事項を決めてこれを実際の招集手続に移し、実際に開催するという流れを経るのだが、この招集事項の決定(招集決定)が厄介である。 取締役会設置会社であっても非取締役会設置会社であっても取締役の過半数の賛成で招集事項を決定するのだが、取締役が不足しているとこの決定ができない。 取締役会設置会社で考えてみる。この場合は取締役の定員についての定款の定めがなければ、会社法が定める3名が取締役の最低員数ということとなる。 取締役会の決議は議決に加わることができる取締役の過半数が出席し(定足数)、出席した取締役の過半数で決議するのだが、(369条)代表取締役である取締役が死亡した場合、残りの2名の取締役による取締役会決議で業務執行を決議することはできない。設置会社の取締役の最低員数を定めた趣旨を没却してしまうからだ(相澤『論点解説新・会社法』 308頁) しかしこれには例外があり、代表取締役の選定は代表取締役が欠けたままでは会社の運営に支障を来すことから、例外的に法律または定款に定めた定員を前提とした定足数を満たす限り、取締役会の決に瑕疵はないものと解されている(昭和40年7月13日民甲1747号) 株主総会の招集も法定員数を欠いた状態でも決定することができるとされている(相澤『論点解説新・会社法』 307頁) 取締役が3名の設置会社において、代表取締役が死亡した場合、残りの2名の取締役による取締役会決議(欠員状態が生じた状態での取締役会)で、欠員となった取締役の選任または取締役会を置く旨の定めを廃止するための株主総会の招集を決定できるだろうか?という問に対して、331条4項違反として瑕疵のある取締役会決議としてしまうと仮取締役の選任を行うか裁判所の許可を得て少数株主が株主総会を開催するしかなく、欠員を早期に解消できなくなるので、このような場合には「法律または定款に定めた定員を前提とする定足数を満たす限り」取締役会の決議には瑕疵が生じない、としている。 やむを得ない状況とはいえ、滅茶苦茶な理論のような気もするが。 法律または定款に定めた定員を前提とする定足数を満たす限りは、取締役に欠員が生じていても代表取締役の選定と株主総会の招集決定は例外的に可能ということである。
取締役を3名置かなければならない会社において取締役の1人が死亡してしまった会社は残り2名で法律または定款に定めた定員を前提とする定足数は満たしているので、この2名で代表取締役の選定と株主総会の招集決定をすることができる。 取締役2人が死亡していて現在は1名であれば法律または定款に定めた定員を前提とする定足数を満たしているとはいえない。 つまりこの会社は取締役が一人しかいないので株主総会を開催できない。追加の取締役を選任しようにも株主総会を開催できない、というドツボにハマってしまっているのだ。後任の候補者がいたとしても、株主総会が開催できないのだ。代表取締役の印鑑があれば書類上は開催できるかもしれないが、登記の段階で登記所から「株主総会が開催できないのでは?」とツッコまれたらジ・エンドである。
取締役選任以外にもそもそも定時株主総会が開催できず、決算書類の承認もできないのだ。 会社として終わってしまっているともいえそうだ。 このような状況を打開するには2つの方法がある。 1つは株主総会の決議省略である。もう1つは仮取締役の選任である。 それぞれは長くなるのでまた後日。

