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休眠状態会社の取締役を辞任したい!2

2022/8/05 金曜日

前回までの続き。
後任の取締役がいなければ後任の取締役を選任しないと辞任や任期満了ができない。だがしかし後任を選任するための株主総会を開催するにも開催のための招集決定をするのに必要な取締役がいない。よって株主総会を開催できない、ということだった。

この場合、真っ先に思いつくのが「株主総会の決議省略」であろう。会社法319条である。「みなし決議」などとも言われている。この頁では条文のとおり「株主総会の決議省略」とする。
ある決議事項について「株主全員が賛成しているのであればわざわざ株主総会を開催する必要なくね?」ということが会社法施行時に明文化されたのだ。
中小企業の多くは株主は社長だけとか社長とその家族だけ、なんてことがほとんどであろうから、この決議省略によりわざわざ株主総会を開催する必要など全くないのだが、登記申請時には一応株主総会を開催したことにして株主総会議事録を作成することが多い。開催してもいないのに開催したことにすることは如何なものとは思う。本条はもっと活用されてしかるべきであろう。
しかし株主総会の開催形式はあまり法定されていないので、大企業のようにどこかの大きなホテルの会議室などを借りる必要はなく、株主が集まっているのであれば会社の事務室などでもOKだ。実際に開催した方が各株主の会社経営に対する意識が高くなることもあるであろうし、これは会社にとってはいいことなので開催できるのであれば開催した方がいいかもしれない。

それでは「株主総会の決議省略」の手続を見てみよう。

この「株主総会の決議省略」であるが、その前提として会社法は会社の意思決定方法として「同意方式」と「決議方式」の2つを用意したとされている。
決議方式の方が一般的に理解しやすいと思う。これは会議に参加できる資格をもつ者が一堂に会し、ある決議事項について議論を経て最後は多数決で賛否を諮るということである。
決議方式のポイントは「一堂に会する、議論をする、決議をする」ということである。会議に参加できる資格というのは株主総会であれば株主だし、取締役会であれば取締役である。みんなが顔を合わせ、互いの意見をぶつけ合い、最後は多数決という一連の流れから最良の意思決定ができるという考えに基づくものであろう。一堂に会するということなので、開催場所が必要だし、開催のための招集手続も必要となる。
議論をするということは、議事(質疑応答や討論)があるということである。
決議をするということは、最後は多数決ということである。

同意方式は一堂に会して議論する、ということが行われない。ある決議事項について誰かが決定権を持つ者一人一人に賛否を伺って回るということである。イメージとしては稟議に近い。ここでいう「誰か」とは提案者と呼ばれ、株主または取締役である。「決定権を持つ者」とは株主である。取締役や株主が提案書兼同意書などを作成して、株主一人一人を訪ね、趣旨説明を行い同意書にサインしてもらうということである。
これであれば、株主が一堂に会するわけではないので、場所は必要なく、招集手続も不要である。同意方式のポイントは場所や方法や議事は二の次で、「全員が同意した」という結果が重要である。提案者が誰か、ということは本来あまり重要ではない。同意した事実は、1通の書類にまとめる必要もない。人数分の同意書があればOKだ。

同意方式とか決議方式という言葉が金子先生は提唱されたもののようだ。金子先生の著書「株式交付 活用の手引き(中央経済社)」には書式とともにこのあたりが丁寧に解説されているので、是非ご一読いただきたい。

さて、「株主総会の決議省略」はこの同意方式である。
実際はこんな感じであろう。「取締役の一人が急死した!これでは株主総会招集決定に必要な数の取締役が足らん!これでは株主総会を後任の取締役を選任できん!そうだ「株主総会の決議省略」だ!これであれば取締役の数が足らん場合でも全ての株主が同意してくれれば後任の取締役を選任できるぞ!」
そして・・・
取締役または株主の誰かが株主一人一人を訪ね、後任取締役の選任の必要性を説明し、これの同意を取り付けることが行われる。

実際は株主一人一人を訪ねることは現実的ではないので、取締役または株主の誰か「提案書兼同意書」のような書面を作成して、これを各株主へ送付し、同意していただけるようであれば同意書欄に署名して送り返してもらうということになるであろう。

すべての株主から同意書が送り返されてきたら決議成立ということになる。これに基づき株主総会議事録を作成する。株主総会自体を省略しているのにその議事録を作成するということには違和感を感じるが、会社法施行規則72条4項は議事録の作成を求めている。
実際に開催した場合とは記載事項が少し異なるのだが。この株主総会議事録は同意方式の結果を書面にまとめよ!という感じなのだが、タイトルが株主総会議事録となるので、株主総会自体を省略しているのにその議事録を作成するという違和感や無用な混乱が生じるのであろう。条文の立て方や規定の仕方がよろしくないのである。「株主総会の決議省略」が中小企業であまり浸透していないのはこういった事情もあるかもしれない。

このように取締役がいなくとも株主総会開催の可能性はあるのだが、当然この制度にも問題はある。
これは株主全員の同意がとれるか?ということに尽きる。一人でも反対がいればこの制度は使えない。家族経営型の中小企業であれば事実上問題はないかもしれないが、株主がたくさんいる会社では難しいだろう。明確な反対ではなくとも賛否が明らかでない株主も問題であろう。これはどういうことかといえば、行方不明の株主である。当初の株主がどこの誰かであったのかは分かっていたのだが、これが相続等により今現在の株主がどこの誰だか分からないということである。株主に相続が開始して誰が相続したのかということを掴んでおかなければ、お手上げである。このケースは結構あるのではないだろうか。
死んでしまった取締役が株主でもあるということも多いであろう。

こういった状況では「株主総会の決議省略」はできない。
もはや後の祭りだが、株主名簿の整備、株主の管理は日頃から怠ってはならないのである。
このような場合には仮取締役の選任申立をするしかないが、これも長くなるのでまた後日。