相続人がいない場合の遺贈1
2022/10/04 火曜日
注 この記事は相続法改正前に書いていたものであり、必ずしも現行民法や不動産登記法とは一致していないこともあるので、適宜現行法に置き換えてよんでほしい
最近、日本財団というところが慈善団体等への遺贈を勧めている。なるほどこれはいい活動だなと感心したのだが、遺贈は遺言によらなければならないものであり、その準備は結構大変だ。遺言を作成してもそれを実行する者がいなければ絵に描いた餅となってしまう。死後に自らの遺贈の実現を託せる者も探さなければならない。遺言執行者という。
遺贈以外でも遺言を作成することはあるだろうから、遺言を作成しようと思ったら司法書士等の専門家のアドバイスを仰ぐことをお勧めする。
また、相続人がいないという人も遺言を作成して親しい人や慈善活動をする団体などに遺贈するということがある。相続人がいないということは正確には配偶者がいない。(離婚・死別を含む。)子供がいない。(孫がいる場合はこれには該当しない。)兄弟姉妹もいない。(甥姪がいる場合はこれに該当しない)という人だ。遺贈をしなければその財産は国庫帰属してしまう。国庫帰属してしまうくらいなら親しい人や慈善団体に遺贈しようということだ。そのために遺言を作成するようだ。公証人の団体も推奨していたようだ。
これは悪いことではない。むしろとてもいいことだ。死後に誰かを応援したり助けてあげることなのだから。
しかし相続人がいない場合(ここからは「相続人不存在」という。)の不動産の遺贈による登記手続はかなり厄介というか、チョット理論があやふやなところがあるので、これを整理して紹介するというのがこの頁の目的である。
相続人不存在の場合には相続財産(遺産)は法人となる。分かりにくいが死亡と同時に亡くなった人(被相続人)の財産は「亡何某相続財産」という法人の持ち物になる。
不動産の場合には相続財産法人名義への登記名義人表示変更登記をする。
利害関係人の申立により相続財産を管理し、相続財産法人を代表する相続財産管理人が選任されることもある。以後はこの相続財産管理人が遺産を換金し、残された債務を整理して、余りがあるときには国庫帰属の手続きを行う。
つまり、相続人不存在であれば自動的に相続財産法人が成立し、必要があるときは相続財産管理人が選任されるという流れである。
被相続人が遺言を作成していなければ上記のような流れとなる。
遺贈には特定遺贈と包括遺贈の2種類がある。
この違いが相続人不在の場合の登記手続にチョットした違いをもたらすのだが、この2つの違いは長くなるのでここでは割愛する。個々の財産を特定して遺贈するのが特定遺贈、遺産を割合で遺贈するのが包括遺贈である。チョット分かりにくいか・・・。
包括遺贈の方がわかりやすい。包括遺贈を受けた者は相続人と同一と扱われるので、包括遺贈がなされた場合には相続人不存在とならないので相続財産法人云々の話にはならない。通常の遺贈の登記と同様に遺贈を受ける者(受遺者)と遺言執行者の共同申請で所有権移転登記を行う。結果的に普通の遺贈の場合と異ならない。
特定遺贈はかなりややこしい。遺贈の登記は受遺者と遺贈義務者=相続人の共同申請で行うのだが、遺贈義務者が登記手続を履行することは期待できないため、通常は遺言執行者が指名されているハズであり、受遺者と遺言執行者の共同申請で所有権移転登記を行う。
相続人不存在の場合の特定遺贈は遺言執行者と相続財産管理人のどちらが優先するのだろうか?
相続人がいなければ相続財産法人が成立し、相続財産は相続財産管理人によって管理処分されるのだが、遺言が作成されており、遺言執行者が指名されている場合に相続財産の中の一部を目的としている遺贈は誰がどのように実行されるのだろうか。
結論から言えば、相続財産管理人を選任するまでもなく、遺言執行者が登記申請をするという見解が有力である。(登記研究538号137頁・619号219頁など)
その理由は、民法が定める遺言執行者と相続財産管理人の権限を比較すると、遺言執行者は遺言執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると規定され、相続財産管理人よりも広範な権限が与えられているので、遺言執行に関しては原則として相続財産管理人よりも遺言執行者の権限が優先されるから、らしい(登記に使える公正証書・認証手続きP141)
これは遺言執行者説VS相続財産管理人説というかたちで論じられるようだが、遺言執行者説に軍配が上がっているようであり、実務もほぼこれで固まっているようだ。確かに遺贈を確実に実行することを考えれば、権限の強い遺言執行者に委ねるべきであろう。
しかしこれはかなり理論上の無理がある。
遺言執行者は何のため、極論すると誰のためにいるのか、ということである。
受遺者のためだろう!と思われるが実はそうではない。
遺言執行者は相続人のためにいるのだ。遺言により相続人に遺贈義務というものが課せられ、これを代行するのが遺言執行者ということである。旧民法では「遺言執行者は相続人の代理人とみなされる」と規定されていた。もっともこの規定は特段の意味はなく、遺言執行者の行為の結果が相続人に帰属することを定めたに過ぎないとされていた。これを受けて現行民法1015条は「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」と規定している。
わたしはこの新旧2つの規定から遺言執行者は相続人が存在していることが前提となっていると解している。
相続人が存在しないのに遺言執行者が遺言の執行をしてしまうと、1015条はどのように説明するのであろうか。遺言執行者を相続人の代理人とみなすという旧民法の規定はあまり意味がないといわれているが、遺言執行者は法定代理人でありその地位を家庭裁判所によって解任されると成年後見人の欠格事由に該当するとしている家庭裁判所の実務は遺言執行者を相続人の代理人とみなすという規定をバリバリの前提としている。そして別の頁で紹介する清算型遺贈の場合の登記申請も遺言執行者を相続人の代理人とみなすという規定をバリバリの前提としている。決して無意味な規定ではない。要するに相続人不存在では遺言執行者は存在し得ないのであり、相続財産管理人説が勝るのではないだろうか。
別の視点で考えてみる。
被相続人に負債がある場合に、この負債は誰が処理をするのだろうか。遺言執行者は遺贈だけがその任務であるから負債の処理はしない。遺言執行後に相続財産管理人を選任して、遺贈の目的となっていない相続財産の処分換金の後、負債の処理をすればいいのではないかとも考えられるが、相続開始時に債務超過であった場合は遺贈を優先してもいいのだろうか。債権者は怒るだろう。
登記実務では遺言執行者説ではあるが、やはり問題があるといわざるを得ないのではないだろうか。
相続人不存在となるような場合には、特定遺贈ではなく包括遺贈となるような遺言の作成をすべきであろう。包括遺贈の方が権利関係が明確になる。あわせて負債の処理も受遺者に託すべきであろう。包括遺贈であれば受遺者が債務をも負担することとなり、その処理も行うことになる。遺言執行者は負債の処理はその権限ではないし、受遺者に負債をも承継させることは忍びないということであれば、清算型遺贈を考えるべきであろう。
清算型遺贈であれば、負債の処理は行われるので問題はない。ただし、この清算型遺贈は現物を遺贈するのではなく、換金した現金を遺贈の目的とするものであるから、どうしても現物を遺贈したいということは叶わないが、もらう方は現物よりも現金の方がいいはずである。
相続人不存在の場合の清算型遺贈の登記は別の頁で紹介する。
