相続人がいない場合の遺贈2
2022/10/19 水曜日
負債がある場合の遺贈は清算型遺贈がいいだろう。特に相続人以外の者の生計維持や事業資金を目的とする遺贈であれば現物より現金の方がいいはずである。本来、遺贈はこの清算型遺贈をベースに考えるべきなのかもしれない。
清算型遺贈とは被相続人(正確には「遺言者」というのだが)の所有していた財産を処分換金して負債を支払って、残り(現金)を遺贈するということである。被相続人の所有していた財産は一切残らない。すべて換金されるのだ。
相続人不存在で負債が残っている場合には、包括遺贈として負債の処理を受遺者に委ねるか、清算型遺贈として遺言執行者に処理してもらうべきであろう。現物を引き継いでほしいという方もいらっしゃるが、もらう方としては現金の方がいい。
さて、清算型遺贈の登記はチョット変わっている。換金するので買主に対して所有権移転登記をするのだが、被相続人名義の状態からいきなり買主名義の所有権移転はできないのだ。これをやってしまうと被相続人の死後に被相続人と買主との間で売買契約が締結されたように公示されてしまい、とてもおかしなことになってしまうからだ。かといって被相続人名義から遺言執行者名義にすることはできない。所有権が移転する理由がないし、登記名義人の表示(この場合は氏名だな)が変更したわけでもない。
そこで登記実務は何を考えたのか清算型遺贈の登記をする場合にはまず、法定相続人名義の法定相続の登記をするのだ。次いで買主への所有権移転登記をする。
なぜ、法定相続の登記?と思うが、被相続人名義の状態からいきなり買主名義の所有権移転はできないからその間に何かを挟まないといけなかったので、法定相続の登記を申請して、一旦相続人名義にしてそれから買主名義の所有権移転登記をする。
これであれば、登記記録上は遺贈により相続人に遺贈義務が発生し、これを履行したという遺贈本来の形に収まったように見える。意外かもしれないが、遺贈を実行するのは受遺者ではない。受遺者はもらうだけであり、積極的に実行するものではない。遺贈は相続人が実行する義務を負う。被相続人が負っていた遺贈義務を承継したのか、はたまた遺言者の死亡により相続人に遺贈義務が生じたのかはどうでもいいが、相続人が実行するものである。遺贈の対象となっている物品(遺言者が所有している絵画を受遺者Bに対して遺贈する旨の遺言を残して死亡した。当該絵画を遺言者から管理を委ねられていたCは当該絵画を受遺者Bに引き渡すべきか、それとも相続人Dへ引き渡すべきか、である)は相続人へ引き渡され、その相続人が遺贈義務の実行として受遺者へ引き渡すべきである。
しかし、現実問題として相続人が大人しく受遺者へ引き渡す(遺贈義務を履行する)であろうか?遺言がなければ自分が相続した可能性があるものを遺言があるので第三者である受遺者へ引き渡さなければならないことになってしまう。相続人が遺贈義務を誠実に履行することは期待しがたいため、民法は遺贈義務を代行する者の制度を置いている。これが遺言執行者である。先の設例では絵画は相続人へ引き渡すべきなのだが、遺言執行者がいる場合には遺言執行者へ引き渡せば足りるハズである。遺言執行者は相続人が負っている遺贈義務を代わりに行う。遺言執行者は相続人の代理人とみなすという旧民法の規定は意味がないという見解が強いが、この点を説明できる。
なので、清算型遺贈では遺言者名義から一旦法定相続人名義への所有権移転登記を申請し、その後処分相手名義への所有権移転登記をする。
しかしこれには清算型遺贈なので相続人は所有権を取得していないはずだ!という指摘がある。理論的には相続人が相続により取得した不動産を売却して代金を受遺者に交付するというのが、本筋なので相続人名義の登記申請をすることは理論上は正しい。
どうしても被相続人名義の状態からいきなり買主名義の所有権移転ができないから仕方がない。
しかし、登記記録上は「相続の開始」→「相続人が取得」→「これを売却」と公示されるので、「相続人が取得」について相続税課税という問題もある。実態は相続人は一瞬たりとて所有権を取得していない(あくまでも遺贈義務履行のための取得)のに登記記録上は取得したように見えてしまう。清算型遺贈である旨は登記記録には現れない。相続していないのに相続税を課税されてはたまらんので、税務当局にこの実態を丁寧に説明するしかない。遺言執行者もこの点を配慮すべきである。
話を戻すが、この法定相続の登記と買主への所有権移転登記は遺言執行者が相続人の代理人として申請する。遺言執行者は相続人の代理人とみなすという旧民法の規定はこの登記申請を説明するのにはピッタリだ。
お気づきかもしれないが、相続人不存在であれば、この中間となる相続人名義の法定相続の登記ができないのだ。できないというか、相続人がいないのだかやりようがない。
この場合は相続財産管理人名義への登記名義人表示変更登記をするようだ。そして、その後に買主への所有権移転登記をする。「登記に使える公正証書・認証手続き」という本に記述がある。この本は他の記述にチョット怪しい部分もあるのだが、実務では相続財産管理人名義への登記名義人表示変更登記で問題ないようだ。
しかし、理論構成はどうなっているのだろうか?どうして遺言執行者が相続財産法人を代理することができるのだろうか。代理権の源泉は何であろうか?代位登記であれば理解できなくもないのだが。
遺言執行者説VS相続財産管理人説の勝者が遺言執行者説となってしまったので、これに引きずられて、遺言執行者が相続財産管理人名義名義の名変登記申請をせざるを得なくなったのだろうか。これは苦しい理論構成だ。
まぁ、なんにせよ相続人不存在であっても清算型遺贈は可能なようだ。
清算型遺贈は特定遺贈か包括遺贈かという議論がある。どうやら特定遺贈説が強いようだ。ここで包括遺贈であると解してしまうと、相続人不存在とはならず、相続財産法人名義への所有権登記名義人表示変更登記ができなくなってしまう。なので清算型遺贈については特定遺贈か包括遺贈かを論じてはならんのだ。あまり論じるメリットもなさそうだし、あれこれ考えてはイカンのだ。
もっとも私は包括遺贈の場合も共同申請ということには疑問を感じているところだ。
相続人と同一の権利義務を承継するということは、相続人としての地位を付与されたようなものである。であれば、包括受遺者の単独相続でもいいのではないだろうか?相続させる遺言の場合と同様の考え方だ。まぁ、この考えについては賛同する人は少ないけど。
独身者が増えているというから相続人不存在という人が今後は増えてくるだろう。よって遺贈をする人も増えるだろう。しかし相続人不存在の場合だと処理に困ることも多いので、遺言を作成する前にはその文言の記載方法なども神経を使う必要がある。
やはり遺言の作成にあたっては専門家のアドバイスを仰ぐといいだろう。

