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支配人

2022/11/13 日曜日

会社法の支配人とは取締役や代表取締役に代わってその営業・営業所に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する商業使用人と定義されている。
一昔前の大店の番頭などをイメージしてもらえればいいかもしれない。

実は支配人はスゴい!営業・営業所限定とはいえ、一切の行為ができるので契約なんかも社長や本社の決裁をとらなくても独断で決定できるし、裁判の代理もできる。弁護士等を選任せずに、支配人自らが出廷できる。従業員の雇用・解雇もできる。代表取締役のミニ版、プチ代取ってところだ。

しかし、支配人は強力な権限を持っているがその本質は従業員である。取締役のように会社と委任関係にあるのではなく、あくまでも雇用関係にあるのだ。いってしまえばスーパー従業員であり、店舗や営業所の最高責任者だ。

現実社会には支配人といわれる役職の人がいる。大きなデパートやホテルや劇場などの一番エライ人は支配人という肩書きが多いであろう。この人たちが会社法上の支配人かどうかは分からない。慣行で支配人と名乗っているだけかもしれないし、会社法上の支配人として登記されているかもしれない。日常的に不特定多数の顧客と小口の契約をたくさん締結するような業種では支配人を置くこともあるだろう。

この頁では支配人の選任手続を扱う。

支配人の選任手続では「営業所限定のスーパー従業員」ということがキーワードだ。
支配人は超重要な役職なので、どの従業員を支配人とするかは取締役会の決議事項である。
支配人となる資格はないが、監査役は支配人を兼任することはできない。というか、監査役と支配人は求められる役割が全く違うので、会社法上の兼任が禁止されていなくとも、現役の監査役を支配人に選任することは制度趣旨が分かっていないと思われてしまう。
資格は問われないのだが、支配人に相応しい人物を選任する必要がある。取締役が支配人を兼任することは可能だ。

支配人の権限は営業所(会社法上は登記されている支店のことなので、以後は「支店」とする)限定なので、どの支店に属するかもあわせて決める。決議内容としては「従業員Aを大阪支店の支配人に、従業員Bを名古屋支店の支配人にそれぞれ選任する」という感じだろう。
支配人は従業員に過ぎないのでその選任はあくまでも会社の業務命令であり、誤解を恐れずにいえば「辞令」である。ということであれば、辞令を受けた従業員にイエス・ノーの自由はない。返事はイエスかOKのどちらかだ!
要するに支配人の選任は重要な人事決定ということだ。このことが登記申請手続にも現れている。
登記申請事項としては支配人の氏名と住所まで登記される。取締役は氏名だけなのに支配人は住所まで登記されるのだ。まさしく代表取締役のミニ版、プチ代取である。
あわせて置かれている営業所も「支配人を置いた営業所」として登記される。

支配人を置いた営業所は既に登記してある支店を指すので、支配人の登記は支店の登記とセットとなる。支配人を置きたいのであればまずは支店の登記をする必要がある。支店設置の登記と支配人の選任の登記は同時に行うこともできる。

支配人を置いた営業所は複数登記できるか、が問題となるがこれは肯定できるのではないだろうか。
大阪支店に置かれた支配人は大阪支店のことについては全面的な権限があるが、名古屋支店のことについては何の権限もない。大阪支店と名古屋支店のことについて全面的な権限を付与したいのであれば支配人を置いた営業所は大阪支店と名古屋支店として登記できるだろう。
実際の支配人の登記は置かれた営業所は本店としていることが多いだろう。つまり支配人を置いた営業所を本店とすることもできる。

添付書類は取締役会議事録だ。ちなみにこの頁の趣旨ではないが取締役会議事録は出席した取締役および監査役が署名または記名押印しなければならないとされている。(369条3項)取締役会議事録は例の「印鑑不要通達(令和3年1月29日民商10号)」の影響を受けないのだ。何が押印不要で、何が押印必要なのかはわかりにくくなっているが、法律・規則で押印が求められているものは押印必要で、通達等で押印が求められているものは押印不要と考えておけばOKだ。この点の整理は後日試みたい。

さて、取締役の就任の登記と異なり、支配人となった者の就任承諾書は不要である。支配人選任は辞令なので、就任承諾するしないということがないからだ。
取締役の場合は「就任」だが、支配人の場合は「選任」という表現にするということにも現れている。

本人確認証明書だが、これも不要と考えられる。本人確認証明書の添付を求めている商業登記規則61条7項は「就任承諾書に記載した住所」と同一の住所が記載された証明書を添付せよ、と規定しているが、就任承諾書を添付しない以上本人確認証明書は不要であろう。支配人の住所は登記事項ではあるが、この裏付け資料は不要ということだ。
なお、支配人も印鑑の提出ができる。印鑑の提出といえば代表取締役の場合とも思えるが、代表取締役のミニ版、プチ代取なのだから印鑑提出ができる。この場合には支配人個人の印鑑証明書を添付するので事実上の住所の裏付け資料とはなるだろう

次に支配人を辞める場合である。辞めるという表現は正確ではない。支配人にAを選任していたところ、Bを支配人とする場合である。これはAが辞めるというよりも人事異動である。Aは別の部署に異動し、後任にBが着任するというイメージだ。登記手続は代理権の消滅という表現になる。

あくまでも本質は人事異動や辞令なので、会社からの一方的な命令なので支配人を離任することとなるAにはイエス・ノーはない。

手続は取締役会により支配人の解任決議を行うだけだ。登記記録には「解任」と記載される。実態はこのとおりなのだが、これは「クビ」という意味があり穏やかではない。我が国では事実上はクビであっても形式上は自発的に辞めたという形をとることが多い。
こういった事情を配慮したのか、支配人については辞任することができるようだ。株式会社の登記全実務という本に記述がある。

なので、取締役会の決議をしなくとも辞任届だけでOKだ。
当然だが、後任の選任については取締役会決議が必要である。
支配人の交代は辞任と選任を登記することとなるので、結局は取締役会議事録も必要だろう。

大企業では取締役会などは年に数回程度しか開催できず、議題も多いだろう。頻繁に開催できないのであれば取締役会の決議省略(370条)を検討してもいいだろう。
また、企業秘密などが記載されることとなる取締役会議事録を登記申請といえど外部に提出することが気掛かりということもあるだろう。かといってマスキングしたものでは登記は受理されない。
こういったときは取締役会議事録を2通作成することも考えられる。1通は正規の議事録で議事内容の全てを記載する。もう1通は簡易版で、支配人を選任したことだけを記載する。登記申請にはこの簡易版を用いて、正規の議事録は会社で保管するという感じだ。
もちろん、簡易版であっても出席者の押印は必要となるが。

さて、ハナシを戻すと支配人の交代は当人作成の辞任届だけでよさそうなので、これで行くのが無難だろう。
ところで代表取締役の辞任届は届出印または個人の実印を押印しなければならない。商業登記規則61条8項だ。
支配人の辞任届には支配人の届出印または実印で押印しなければならないのだろうか。

条文上は代表取締役の辞任の場合としか規定していない。取締役会設置会社の平取締役の辞任届にはこのような押印義務はない。役員である取締役であっても届出印や実印での押印が不要なのだから、従業員にすぎない支配人の辞任届にも届出印や実印を押印する必要はないだろう。
一方で支配人は営業所限定とはいえ全面的な権限を有していて、場合によっては平取締役よりも強力な権限を有している。代表取締役のように登記所に印鑑を提出していることもある。このように考えると支配人の辞任届にも商業登記規則61条8項の適用があるかもしれない。意地悪な登記官がいるかもしれないので、気になるようであれば法務局に確認しておこう。

本社以外に店舗や営業所を設けていても支店の登記をするかしないかは会社の判断だ。支店なのか単なる営業所や出張所なのかの判断は難しい。支配人を置くためには支店の登記が必要となるので、支配人を選任する必要がある程度の規模の営業所や出張所や支社は支店の登記をすべきであろう。

実際に支配人を選任しているのは訴訟代理を行うための場合が多いであろう。それでもどの社員を支配人に選任するのかは難しいかもしれない。ある意味会社を代表することになるので誰でも彼でも務まるような役職ではないのだから。

参考文献
田口真一郎・黒川龍・小野目人久「株式会社の登記全実務(清文社)」