代表権付与の登記(代表権の帰趨)
2022/12/19 月曜日
この頁は令和4年12月19日に投稿した記事を改定したものである。
代表取締役の登記には「代表権付与」という登記原因がある。
あまり知られていないし、実際に見かけることはほとんどない。故に体系的に説明している書籍も少ないので、キチンと理解している人も少ないのではないだろうか。
この頁では「代表権付与」とはどういった場合に用いるものなのか、その手続はどのようなものなのかを掘り下げることを目的としている。
1 代表取締役の選定方法
代表権付与を論じる際には何よりも非取締役会設置会社における代表取締役の選定方法を知っておく必要がある。
非取締役会設置会社においては、取締役全員が自動的に代表取締役となる。これを各自代表制という。
これとは別に取締役の一部の者だけを代表取締役とすることが選定制である。選定制という表現は本頁オンリーの表現であるので、余所では通じないのでご注意願いたい。あくまでも理解しやすくするためのものである。具体的には①定款に直接定めてしまう、②株主総会で選定する、③取締役相互間の互選の3つがある。
実際の定款では各自代表制と選定制がミックスされたものが多いと思われる。
「取締役が複数いるときは、互選により代表取締役を選定する」という定めは結構多いんじゃないだろうか?
この定めを分析すると、取締役が1名のとき(取締役が1名の状態でも定款違反ではないので、取締役1名状態を許容している)は当該取締役が当然に代表取締役となるが、取締役が複数いるときは互選により代表取締役を選定するとなっている。前段部分は各自代表制、後者は選定制である。
2 代表権付与の登記原因を用いるとき
「代表権付与」とは選定制から各自代表へ移行することにより代表取締役が誕生する際の登記原因である。選定とか就任という表現は敢えて避けた方がいいので「誕生」という表現にする。具体例で考えてみる。
ケース①取締役が1名になってしまった
「取締役が複数いるときは、互選により代表取締役を選定する」旨の定款規定がある会社 取締役はAとB 代表取締役は互選によりAが選定されている。
ある日Aが死亡してしまった。死亡のみならず欠格事由該当や辞任でも同様である。
定款は取締役1名状態を許容している。なので取締役を2名以上にする義務はないので、後任を選任しないこととした。この場合は残りの取締役が自動的に代表取締役となる。互選されているわけでもなく、株主総会で決議しているわけでもない。このときの代表取締役の登記は「年月日 代表権付与」である。
このような代表取締役についての定めは、ある日突然代表取締役が欠けた場合の緊急的な対応として機能する。
なお、金子先生はBが代表取締役となるのは法律上当然の効果ではなく、定款の定めの効果であるから、代表取締役の「就任」となるものであり、代表権付与は取締役が複数いるときに用いるものである、としている。(事例で学ぶ会社法実務 232頁)
ケース②選定制の廃止
「代表取締役は互選により選定する」旨の定款規定がある会社 取締役はAとB 代表取締役は互選によりAが選定されている。
この会社が当該定款の定めを廃止した。そうすると各自代表制へ移行するので、Bも代表取締役となる。このときの代表取締役の登記も「年月日 代表権付与」である。
代表権付与の登記原因が用いられるケースは上記のような場合であろう。
「取締役を2名以上おき、代表取締役は互選により選定する」という定めでは1名状態を許容していないので、代表取締役が欠けてしまったときには、後任を選任しなければならず、残っている取締役が自動的に代表取締役とはならない。そもそもこのような規定では、死亡ならまだしも辞任はできず、権利義務取締役となり会社の残ることとはなるが。
誤解をおそれずにいえば、代表権付与とは選定制下の平取締役が自動的に代表取締役となる場合である。何らかの選任決議はなされていないのである。
司法書士のバイブルでおなじみの「商業登記ハンドブック388頁」には次のようにある。
「役員の改選と併せて代表取締役の選定方法を廃止した場合には、新取締役は取締役会を置かない会社の本来的な形態(各自代表)である代表権のある取締役として選任され、就任承諾をしているため「代表権付与」という登記原因ではなく、取締役及び代表取締役に就任という登記原因を用いる」
改選の際に互選などの代表取締役の選定方法を廃止したので、新任取締役は各自代表制の会社の取締役に就任したのであって、選定制下の平取締役ではない。
「事例で学ぶ会社法実務231頁」には次のようにある。
「役員の重任と併せて代表取締役の選定方法である互選規定を廃止した場合には各自代表となり、重任者は全員代表取締役となるわけだが、従前の互選により選定された代表取締役は「年月日重任」となり、新たに代表取締役となる(互選制度下では平取だった)者は「年月日代表権付与」となる」
これは各自代表制下の平取締役が代表取締役となるから代表権付与が登記原因となる。
3 登記手続
登記申請のポイントは次のとおりである。
①日付は上記①のケースでは代表取締役が死亡した日である。上記②のケースでは定款変更をした日である。
②就任承諾書不要
代表取締役となる者の就任の意思は関係なく、問答無用で代表取締役となってしまうからである。就任承諾書が不要なので押印すべき印鑑云々ということもないので、印鑑証明書の添付も不要である。
代表取締役の登記なので住所をも登記するので申請書にその住所を記載するのだが、この住所を裏付ける添付書類が何もないことに注意しなければならない。
おそらく住所が記載された何らかの書類の添付を求められるかもしれないので、後述のとおり株主総会議事録を添付するのであればこれに自然な感じで記載するか、委任状に記載すべきであろう。添付書類には現れない登記事項は委任状に記載することが多いので、後者であろう。
③代表権付与特有の添付書面
これは意外と難しい。
代表権付与をどのように証明するのか、が問題となる。
代表権付与は選定制から各自代表制へ移行した際のことだが、この移行があったことをどの程度証明すべきか否かのかである。
各自代表は会社法第349条1項本文または349条2項に規定されている。つまり代表権付与により代表取締役となるのは、定款の効力ではなく、法令の効果といえる。
「取締役が複数いるときは、互選により代表取締役を選定する」という定款の定めは、取締役が複数いるときは、第349条3項が適用され、取締役が1人しかいないときは会社法第349条1項本文または349条2項が適用される、といっているにすぎない。
登記記録の記載からこの会社が選定制を採用しているのか各自代表制を採用しているのかは判明するだろうか?
少なくても代表取締役と平取締役がいるということは選定制を採用していることは分かる。取締役が1人となった後も、選定制が維持されるのか、それとも各自代表制へ移行するのかは分からない。取締役が複数いるときは選定制だが、1人しかいないときは各自代表制という定款の定めを証明するべきであろうか。
これを肯定すれば、ハナシはスンナリと収まる。
しかし、これはこれで問題がある。
定款を添付する根拠法令は何であろうか?
商業登記規則61条1項は「定款の定めがなければ登記すべき事項につき無効又は取消しの原因が存することとなる申請については、申請書に、定款を添付しなければならない。」と規定している。要するに法令と定款規定が異なる場合に、当該定款規定を優先して適用するときには定款を添付するということである。
各自代表は会社法の定めそのものである。法令と異なることをするものではないので、わざわざ定款規定の存在を証明する必要はなく、定款の添付は不要ではないだろうか。
商業登記法46条2項は「登記すべき事項につき株主総会の決議を要するときは、申請書にその議事録を添付しなければならない。」と規定している。
株主総会決議で代表取締役を選定したのであれば株主総会議事録を添付するのだが、代表権付与は、何らかの決議をしたわけではない。ケース①では株主総会は開催していない。なので46条2項は定款を添付する根拠とはならない。そもそも同条は議事録を添付する根拠である。
定款を添付すべき根拠がないのである。各自代表制であろうが選定制であろうが、会社法の規定どおりである。
ケース①において、取締役はAとBで、代表取締役はAという会社からAが死亡しBに代表権付与があったという申請があれば、これを素直に受理すべきである。何らかの添付書類を求めることはできないハズである。
そもそも代表取締役の選定について何らの定款の定めを設けていない会社でも、株主総会で代表取締役を選定することができる。この代表取締役が死亡すれば残りの平取締役が代表権付与により代表取締役となる。この場合には証明すべき定款規定が存在しない。存在しないことの証明はばかばかしい。やはり定款であろうと何であろうと添付不要と解すべきである。
ケース②は株主総会で定款変更をしている。なのでこの株主総会議事録を添付すれば、選定制から各自代表制に移行したことが分かる。
この株主総会議事録は商業登記法46条2項は「登記すべき事項につき株主総会の決議を要するときは、申請書にその議事録を添付しなければならない。」に該当するだろうか。登記すべき事項は「代表権付与」である。これは定款変更決議があったからである。定款変更がなされなければ代表権付与はなかった。したがって、ケース②では株主総会議事録が添付書類となるのであろう。
代表権付与も既存の代表取締役が欠けてしまった場合と選定方法の変更決議の2パターンがある。前者は定款の効果かもしれないが、会社法の規定そのものなんだから定款の添付は不要。後者は株主総会決議により各自代表制へ移行しているから当該株主総会議事録が添付書類となる。
ケース②の場合も株主総会議事録の添付不要と考えることもできる。各自代表は会社法の定めそのものであるからである。
添付書類について詳しく言及している文献を探し当てることができなかったので、実際の登記申請にあたっては事前に確認しておいてほしい。
4 最後に
元も子もないことをいうようだが、代表権付与はめったにない。
ケース①の場合はBには代表取締役を任せることができない、即ち代表者の器ではないからこそAだけを代表取締役に選定しているのだろう。Aに事故があったからといって自動的にBが代表取締役になるというのは会社の意思に合致しない。この場合はBが当初は代表者の器ではなかったが、その後に成長して現在ではその器であるというのであれば代表権付与でもいいが、そうではない場合には後任の取締役を選任して選定制を維持するハズである。
ケース②も通常はこのようなことはしない。Bも代表取締役としたいのであれば互選規定の廃止よりもBも互選するほうが自然である。
ということで代表権付与はめったにないのであろう。
改定前は不必要な論点にまで言及していたので、今回改定版を掲載することとした。
今回もかなり長々となっているが、改定前はもっと長かったのである。改定前のものは封印することとする。
役員変更は会社法施行により機関設計が自由になったことを受け、いろいろなパターンが考えられるようになったので難しいというか奥深い。
しかも任期が最長10年なので、役員変更の登記自体が減ってきていると思う。なので代表権付与のようなマイナー論点の事例の集積が進んでいないのであろう。
ということで改定版はここまで。
では。

