お知らせNews

共有・懲戒処分3

2023/1/31 火曜日

この頁では月報司法書士2022年12月号に掲載されていた入会(この頁でも「いりあい」と読む。)の登記申請についての司法書士の懲戒処分を検討する。

共有者A、B、Cの3名で土地を共有していた。当該土地所有の実態は入会であり、3名の共有は実体は総有である。A、B、Cの3名による権利能力なき社団である。
当該入会には規約のようなものがあり、これによれば「共有者(入会の構成員といったほうがいいかも)の一人が入会を脱退したときは、その持分は他の共有者に帰属する」とある。当該規約の内容の妥当性については後述する。

この度、Aが入会から脱退(「いりあい」からの脱退であり、にゅうかい・脱退ではない。紛らわしくてスマン・・・。)するのでその持分がBおよびCに帰属するので、「A持分全部移転」登記申請をとある司法書士が受任した。この司法書士を「司法書士X」とする。

司法書士Xの事務所に訪れたのは脱退するAのほかはBであった。Cはいなかった。Cがいなかった理由はこれも後述する。

この場合の登記申請の登記原因は規約の内容に則して、「年月日放棄」としたのだろう。
登記義務者はAであり、登記権利者はBおよびCである。
添付書類は登記原因証明情報(当該規約の内容に基づいた権利移転である旨を上手く記載したのであろう)、Aの登記識別情報または登記済証、印鑑証明書と委任状。
B及びCの住民票と委任状である。添付書類については難しいことはない。

司法書士XはAとBに必要書類を示すとともにCからの委任状も必要となることから、委任状用紙をBへ交付し、Cに署名押印させるよう指示した。

後日、指示を受けた書類を用意したAとBが司法書士Xの事務所を訪れた。Cの委任状と住民票はBが持参した。これにより添付書類が揃ったので、司法書士Xは登記申請(A持分全部移転)を行い、これが完了した。後述の事情からBがCの住民票を取得した経緯はナゾである。

ところが後日、Cの持分についてCが死亡したことによる相続登記の申請がなされ、これによりCが上記のA持分全部移転登記申請の登記原因及び委任日以前に死亡していることが判明した。これは移転登記の登記原因日付および委任状の作成日が令和4年なのに、Cの相続開始日が平成25年ということである。Cが平成25年に死亡しているのであれば、令和4年に作成されたCを委任者とする委任状に署名押印したのは誰なのか、そしてXは受任の際にCに対して本人確認・意思確認を実施したのだろうか?ということが問題となった。

これと似たようなものとして抵当権抹消登記申請受任日と相続開始日の先後が逆、ということがある。抵当権抹消の登記申請の依頼を所有者ではない者(よくあるのが所有者の家族や所有者が懇意にしていた税理士や銀行等の抹消にかかる抵当権者などなど)から受け、委任状用紙を作成し、同人へ交付し所有者の署名押印を指示したところ、同人が数日後に持参したので、これを用いて抵当権抹消登記を申請した。
ところがしばらくたってから、当該不動産について相続登記の申請がなされ、この添付書類によれば先の抵当権抹消の登記申請時点では所有者は既に死亡していたことが判明する、ということだ。

まぁ、結論からいえばXはA及びBに対しては本人確認・意思確認を実施した(おそらく当該規約も持参し、どのような登記申請をすべきかということからの相談であったので、この過程で意思確認はなされていると評価できよう)のだろうが、Cに対しては実施していないことは明白である。だって、すでに死亡しているし。AとBが用意したCの名を騙るニセモノに対して、本人確認・意思確認を実施した可能性は排除できないが、諸般の事情に鑑みてCのニセモノがいた可能性は極めて少ないだろう。

本来はC持分について相続登記を行い、次いでBとC持分を承継した相続人に対してA持分全部移転登記申請を行うのだが、一応書類が揃っていれば相続登記を経なくとも持分移転登記は受理されてしまう。

なぜC持分についての相続登記をしなかったのか?ここからは想像である。
AとBはCがすでに死亡していることを知らなかったのではないだろうか。それどころかCとはほとんど交流がなかったのではないだろうか。そしてC持分についての相続登記をしなければならないことを知らず(そもそもそのような説明を受けていない可能性もある)、単に「Cと署名押印された委任状があれば無問題!」と思っていたのではないだろうか。印鑑も実印である必要はないし。そもそもCは権利を失うものではないということもこのようなことを助長したのであろう。

司法書士Xが登記申請までの間にCについての本人確認・意思確認を実施していればCがすでに死亡していることが判明したであろうが、司法書士Xは実施しなかった。
AとBを信頼したのか、はたまたCについての本人確認・意思確認を実施しないことに後ろめたいことはあったが、場合によってはAとB、特にBの顔を潰すことになりかねないと危惧したのであろうか。
かくしてCがすでに死亡しているにもかかわらず、Cへの移転登記がなされてしまった。

事情はどうあれCについての本人確認・意思確認を実施していないことは明らかであり、司法書士Xが所属する司法書士会の会則違反となり、懲戒処分がなされた。

さて、ここからは本懲戒処分について思うところ、疑問に思うところである。
まず、A、B、Cの共有を総有(入会)と認定し、権利能力なき社団であると認定した根拠である。
当該規約に入会である旨が謳われていたのであろうか?それとも入会の脱退により他の共有者に持分が移転するという規定により入会であると認定したのであろうか。これは通常の共有(狭義の共有)であっても変わらないハズである。私の想像どおりAおよびBとCとの関係が希薄であれば、各共有者の結びつきが強いとはいえない。これでは入会とはいえないのではないだろうか。実際は3名の共有(総有)ではなく、60名以上も共有者がいたようであり、地目も山林等であるからこれらの事情から入会が成立していると判断したのだろうか。公表されている懲戒処分はこういった事実認定の根拠がすっ飛ばされて結論だけが記載されているので、このあたりは改善してほしいところである。
まぁ、こんなことはどうでもよく、とりあえず入会であると認定されているのでこれを前提とする。そうであるからこの入会は権利能力なき社団であるとも認定している。

権利能力なき社団である以上、組織なんだから代表者がいるはずである。当該入会(権利能力なき社団)の代表者は誰なのだろうか?
本件の場合Bを代表者とは考えることはできないだろうか。実際はCの他にも数十名いる共有者を代表して持分移転登記手続を進めていることから、他の共有者もBを入会の代表者と認識していたのかもしれない。
仮にBを代表者と認定すれば、登記申請における登記権利者の本人確認はこのBに対してのみ実施すればよく、先に書いたように入会の登記は実態と形式が異なるからBの権利取得の意思表示をもって他の共有者≒権利能力なき社団にもその効果が及ぶとは考えられないだろうか。

本件懲戒処分ではBをCの代理人とは認定できないとしいるのみで、権利能力なき社団の代表者については何らも触れていない。代表者選定手続がとられた跡が見られないからだろうか。そもそも権利能力なき社団であるのだから、株式会社や社団法人のように代表者の選定手続は法定されていない。選定の決議等がないからといって、代表者の存在を否定することはチョット乱暴ではないだろうか。

本件懲戒処分ではBはCの代理人ではないと言っていることから、思うに入会の登記の実態と形式が異なることのうち、形式を重視しているのではないだろうか。
実態は権利能力なき社団であるから、代表者に対してのみ本人確認・意思確認をすればよさそうなのだが、形式は構成員全員での共有なので、これを重視してBもCも単なる共有者として扱っているのだろう。実態を重視するとどうしても、個別の判断が必要となってしまう。義務規定や懲戒処分等の不利益処分は公平性等の観点から一律に判断できることが望ましいと考えたのかもしれない。

本件懲戒処分のうち最大の疑問点は、果たして一体誰が被害を被ったのだろうか?ということである。入会の形式を重視してCに対する本人確認・意思確認が必要であるとしても、Cへの権利移転は当該規約の効果であり、この内容によればCは権利移転を受け入れるか否かの余地はないようにも見える。他の共有者への帰属なので、登記権利者の実在性は問題とはならない。(本件はすでに死亡しているから問題になるのであり、仮にCが存命であればほとんど問題となる余地はない)
この手の場合に、意思確認は一体何を確認するのだろうか。権利変動は言ってしまえば自動的に発生しているのであり、誰かの意思が介在していない。せいぜい登記申請をするかしないか程度のものであろう。費用はAやBがもってくれるのだからほとんど関心がないであろう。
つまり、本件の登記申請によってC(Cが生存していると仮定するが)は何らの不利益を受けていない。せいぜい委任状等に自己の名を冒用されたくらいである。(まぁ、これはこれで問題だが・・・。)
にもかかわらずCへの本人確認・意思確認を怠った司法書士Xについて懲戒処分を科すことはあまりに厳しいと言わざるを得ない。

先に挙げた「抵当権抹消登記申請受任日と相続開始日の先後が逆」についてもかつては問答無用で懲戒処分がなされていた。大昔に抵当権抹消を受任したが、その後の相続登記申請で死者から抵当権抹消登記申請の委任を受けていたという事実が露見してしまうという、いわば地雷のような時限爆弾であるとして業界では戦々恐々としていたとも聴いている。その後実害の有無を重視すべきという考えが台頭してきて、現在では特に誰も被害を訴えなければ不問に付すということが定着している。かつての運用が異常であり、現在の運用が通常であろう。
この理からすれば、特に誰かが被害を訴えている様子は見て取れないのだから本件でも司法書士Xへの懲戒処分はやり過ぎであろう。実際の処分は戒告なので実害はないともいえそうだが、不名誉であることには違いない。

相続登記の申請があった直後に法務局は司法書士Xに対して更正登記を促したようである。これもずいぶんおかしな話である。一度受理してしまった登記を却下することはできないから、更正するしかないのかもしれないが、こういったことを法務局が申請代理人に促すだろうか?登記名義人に対して促すのであればまだ理解できなくもないが。
このときに司法書士Xがナメくさった態度をとっていたので事態の深刻さを理解していない、と法務局がガチ切れしたのだろうか。本件は管轄登記所から所属司法書士会へのタレコミに端を発していることから、このようにも思える。

ところで、Bは亡Cの住民票をどのように手に入れたのだろうか?これも疑問が残る。実際には司法書士Xによる登記申請がなされた直前にCは死亡したようなので、もしかしたらBはCに持分移転登記の必要書類を指示していて、その直後にCが急死したのかもしれない。
いずれにしても本件懲戒処分は不合理な点が多い。しかし司法書士Xは本件処分を受け入れているようなので、これ以上争われることはないだろう。

最後に。
私は本件懲戒処分から1つの原理が見えてきた。本人確認・意思確認の場面において実態と形式が異なる場合は形式を重視するということである。発起人と設立時代表取締役が別人の場合は依頼者はあくまでも会社ということなので、設立時代表取締役に意思確認をすればいいということであろう。
もっともこの点については明確な見解がないのでケースバイケースで考える必要はあるであろうが、発起人と設立時代表取締役が別人の場合に設立時代表取締役のみに対して意思確認をしたという司法書士を非難できるものではないであろう。
まぁ、あくまでも一意見なので、繰り返しだがケースバイケースで臨むべきであろう。
これで本シリーズを終える。

では。