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先例・通達をぶった斬る!3 平成22年11月1日民二2759号 行政区画の変更の

2023/2/07 火曜日

名変登記と呼ばれるものがある。登記名義人表示変更登記のことだ。登記名義人の住所や氏名の変更があったときに行われる登記である。これが意外と奥が深く難しい。私が尊敬する司法書士の大先輩が「一番難しいのは名変である」と仰っていた。そのときは「何を言っているのだ?」と思ったが、年々その意味を重く感じているところである。

名変登記については重要な先例がある。これが本頁の目的だ。
これは住所変更後に行政区画の変更があった場合の登記申請に関するものである。
平成17年の不動産登記法・不動産登記規則の改正により取り扱いが変わったものという理解が一般的であるが、そこは当事務所のホームページらしく独自の視点で考えてみる。

まずは「住所変更」「行政区画の変更」「住居表示実施」について。この3つを名変事由と呼ぶことにする。もちろん本頁のオリジナルであり、世間一般では一切通用しない。
登記原因に用いられる「住所変更」は端的にいえば引っ越しである。住民票上は転居とか転入・転出をした場合である。
「行政区画の変更」は市町村の合併や町名変更である。●市●町123番が△市△町123番のような場合である。
「住居表示実施」とは●市●町123番が●市●町1丁目2番3号となる場合である。地番とは法務局により土地に付された番号であり登記手続に用いる。住居表示とは市区町村により建物に付された番号ともいえる。個人の住所には地番を用いているところと、住居表示を用いているところがある。古くは地番だけが用いられていたのだが、この地番は法則性がなく付されることも多いので1番地の隣りの土地がいきなり19番地なんてこともあり、混乱をもたらすので住居表示はこれを整理するために行うようだ。司法書士会館もかつては新宿区本塩町20番地だったが、平成29年9月19日、住居表示実施により新宿区四谷本塩町4番37号となった。地番と住居表示の違いについてはかなりザックリしているのであしからず。

名変は新たな権利関係を示す登記ではないためその登記申請がされないことも多く、このことが所有者不明土地が発生する原因の一つと指摘されている。そんなことから名変登記も相続登記とともに義務化されることとなった。これについては近いうちに説明する。

本頁で取り上げる先例は、住所変更があったにもかかわらずその旨の登記をしないうちに、行政区画の変更や住居表実施がなされた場合の登記申請についてのものだ。

まずは本先例発出以前の取り扱いを知っておく必要がある

(1)登記名義人表示につき、数回にわたって変更を生じている場合には、一個の申請により直ちに現在の表示に変更することができる。この場合は、申請書に登記原因及びその日付を併記して、数回分の変更を証する書面を添付する。なお、同種の登記原因が数回分存するときは、その最後のもののみを記載する。(昭和33年3月22日民甲423号)

登記記録上の住所 A市甲山町一丁目1番1号
平成24年に   B市乙川町一丁目1番1号へ住所移転
平成26年に   C市乙川町一丁目1番1号へ住所移転

登記原因   平成26年 住所移転      変更後の事項 C市乙川町一丁目1番1号
添付情報   (AからB、BからCへの住所移転の記載がある)登記原因証明情報
登録免許税 不動産の数×1000円

名変事由は「住所変更」と「住所変更」と2つあるのだが、ポイントとしては、
①名変事由が同種である場合には中間を省略できる(登記記録には最後=現在の登記事項のみを記録する)
②登録免許税は最後=現在の登記事項の登記原因に応じて課税する

ということである。本来はA市からB市への住所移転の登記、B市からC市への住所移転の登記と2件の登記申請をおこなうところ、名変事由が複数ある場合は中間省略ができるということである。この昭和33年先例が名変事由が複数ある場合の基本的な考え方である。

(2)住所移転後その旨の登記をしない間に地番の変更を伴わない行政区画の変更がなされた場合の取扱いについては、登記原因を「年月日住所移転」とし、登記事項は現在(行政区画変更後)の住所を記録する(昭和50年5月23日民三2692号)
この場合の登録免許税は、1件分(1,000円)が課税される(昭和48年11月1日民三8187号)

「住所移転」と「行政区画変更」は同種の名変事由ではないので、昭和33年先例に基づき中間省略ができない。よって2件の申請を行うべきであると考えられる。しかし、かつての不動産登記法59条は行政区画の変更は登記申請をしなくてもいいと規定していた。行政区画変更のみなし規定というものだ。

所有権登記名義人の住所がA市甲山町123番地と登記されているところ、甲山町という町名を乙川町に改め、以後「A市乙川町123番地」となることとなった。これこそが行政区画の変更である。
本来であれば、「年月日行政区画変更」を原因として名変登記の申請をしなければならないのだが、町名変更等の行政区画の変更はお上の都合で勝手に行われるものなので、登記申請をしなくても「A市乙川町123番地」と登記されているものとして扱うということだ。
A市甲山町123番地とは記載されていても、よ~く目を凝らして見てみると「A市乙川町123番地」と書いてあるぞ、ということだ。
極論すれば行政区画の変更を原因とした名変登記は存在しないのである。

こうして考えてみると、住所変更後にその旨の登記をしない間に行政区画の変更があったとしても、登記申請上は住所変更の登記記申請だけを申請するということだ。住所変更の登記をしていた場合は行政区画の変更がなされてもみなし規定のためその旨の登記が不要になるということと平仄が合うことになる。
昭和33年先例が確立した理論に照らしてみると、そもそも名変事由が複数存在せず、その適用はなく、名変登記の原則どおりの申請と登録免許税課税となるのである。この昭和50年先例は昭和33年先例の例外として位置づけている見解もあるようだがそうではなく、昭和33年先例と旧不動産登記法59条の規定から当然の帰結である。

(3)住所移転後その旨の登記をしない間に住居表示の実施がなされた場合、これを一の申請で行う場合の取扱いについては、登記原因を「年月日住所移転・年月日住居表示実施」と併記する。(昭和40年10月11日民事甲2915号)
住所移転後に住居表示の実施があった場合には、中間省略の登記として、登記記録上、現在の住所である住居表示実施後の住所のみが記録されることから、その場合の登記名義人表示変更登記の登録免許税は、登録免許税法5条4項により非課税となる(昭和42年12月14日民甲3447号)

「住所移転」と「住居表示実施」は同種の名変事由ではないので、昭和33年先例に基づき中間省略ができない。しかも行政区画の変更のようなみなし規定もないので、2件の申請を行うべきであると考えられる。
しかし当局は何を思ったのか、登記原因を併記することにより特別に1の申請で行うことができるとしているのだ。しかも昭和33年先例のポイント②は生きていて、最後の名変事由に応じて登録免許税は非課税となる。昭和42年先例はこのことを言っているのだ。

登録免許税の課税について昭和42年先例を原則とし、行政区画の変更についての昭和48年先例を例外として位置づけている見解もあるようだがそうではなく、あくまでも昭和33年先例の延長線の帰結である。

そして問題となるのが、本頁の主役である平成22年先例である。
(4)住所移転後その旨の登記をしない間に行政区画の変更がなされた場合の取扱いについては、登記原因を「年月日住所移転・年月日行政区画変更」とし、登記事項は現在(行政区画変更後)の住所を記録する。登録免許税は登録免許税法第5条5号により非課税となる(平成22年11月1日民二2759号)

あれ?一見すると(2)の昭和50年先例と同じ状況なのに結論が違うではないかと思われるかもしれない。これは平成16年の不動産登記法の改正が原因である。
現在の不動産登記法には行政区画の変更があった場合のみなし規定が存在しないのだ。
正確にいうとみなし規定は存在するものの、旧法が権利の登記・表示の登記に共通して適用があるような規定振り、条文の位置だったのだが、新法では表示の登記の場合に限り適用があるかのような規定振り、条文の位置となっている。これが改正法施行直後にチョットした混乱をもたらしたのだ。「従来のみなし規定が新法では表示の登記の章に規定されているぞ!これはどういうことなのだろうか?」

これについての決着をつけたのが、本先例である。すなわち・・・
①改正法では権利の登記にみなし規定の適用はない
②よって、名変事由は1つではなく2つ存在する

ということになる。そして従来の取り扱いと平仄を合わせたのだろうか、

③本来であれば1件目は「住所変更」(課税)と2件目「行政区画の変更」(非課税)の2件の登記申請をすべきところ、登記原因を併記して1件の申請でOK
④昭和33年先例のポイント②を持ち出して登録免許税は非課税

ということである。こうしてみると住居表示の実施がなされた場合と同じような処理となる。

いろいろな先例の発出やその間の法改正などがあり、複雑なことになってしまったが、各先例は結論しか述べておらず、その理論には触れない。当局は「この程度のことはわざわざ説明しなくても当然わかっているよね!」ということのなのかもしれないが、理論をキチンと説明していれば混乱することもないハズだった。「登記研究」という雑誌も結論しか書いておらず、その理由には触れていないことが多い。特に「質疑応答」のコーナーはそれが顕著である。理論や理屈を説明することがあってもいいのではないだろうか。
もっとも、どこも説明していない理論や説明について独自の分析を試みるのが本頁の目的ではあるが。

名変登記も義務化されるので、今後はこういったマイナー先例にも注目が集まるようなことが起きるかもしれない。住居表示の実施や行政区画の変更はその地域では大騒ぎになるハズであるから、そういったときには要注意だ。