代表権の帰趨 実践編5
2023/3/19 日曜日
次は取締役会を廃止するパターン。
取締役がA、B、Cの3名の設置会社 代表取締役はA 監査役もいる
令和4年6月1日にAが死亡。同年6月10日に株主総会で取締役会を廃止する決議だけをした。
取締役会廃止の際に選定制への移行(定款に直接定める、互選規定を置く、株主総会で選定)しなければ以後は各自代表制となる。
(1)株主総会
1号議案 取締役会設置会社である定めの廃止
※取締役会の存在を前提としていた各規定も変更する
※この株主総会議事録は商業登記規則61条6項の適用はないのだろうか?
当該廃止決議により各自代表制へ移行し、BCは代表権が付与されるのだが、6項は「決議により選定」した場合に適用がある。決議自体は「取締役会の廃止」であり、代表権付与はその反射的効果にすぎない。また、6項の趣旨は議事録の偽造等により会社の知らないところで特定の者が代表取締役に選定されるる、いわゆる会社の乗っ取りがなされてしまうことを防ぐことにある。本問では従前の平取締役がそっくりそのまま全員が代表取締役になっているだけである。会社の知らないところで特定の者が代表取締役に選定されているわけではない。しかし役員全員が重任する場合は、役員の顔ぶれに変更がなくとも6項の適用はある。会社の乗っ取りのリスクがない場合でも適用がある。これは条文の趣旨(乗っ取り防止)よりも「決議により選定」されたという事実を重視しているのであろう。そうであれば代表権付与は「決議により選定」されているわけではないので6項の適用はないのではないだろうか。
以上のことから本頁では6項の適用はないという立場をとるが、明確な見解があるわけではないので、実際の登記申請にあたっては当局の見解を確認しておくべきだろう。
登記申請はこんな感じ
①登記の事由
「取締役の変更」
「取締役会設置会社の定めの廃止」
「代表取締役の変更」
②登記すべき事項
「令和4年6月1日代表取締役である取締役A死亡」
「令和4年6月10日 取締役会設置会社の定めの廃止」
「同日 代表取締役 住所 B代表権付与」
「同日 代表取締役 住所 C代表権付与」
③添付書類
株主総会議事録
死亡届
さて、ここで問題となるのは代表取締役は住所も登記されるのだが、これを証する書面(裏付け資料)の提供の有無である。代表取締役の就任の登記申請の際には就任承諾書に実印で押印して印鑑証明書を添付するので、これが事実上代表取締役の住所の裏付け資料となる。(印鑑証明書も住所の証明書となるのだ。)
しかし、本問のような「代表権付与」では就任承諾という概念がなく、就任承諾書が不要となり、これに添付する印鑑証明書も添付書類とはならない。住所が記載されている就任承諾書も印鑑承諾書も添付しないので、代表取締役の住所の裏付け資料がないのだ。
この点について明確な見解はないが、さすがに裏付け資料なし、ということにはならない。
考えられる方法としては、会社(の代表者)が代表取締役の住所を証明する方法がある。
具体的には添付書類に記載するということだ。本問で提出する添付書類は株主総会議事録と委任状である。
1つの方法として、株主総会議事録に不自然とならないように記載する方法である。
取締役会設置会社の定めの廃止の決議の件で、可決承認後に「本議案の可決により、B(住所)およびC(住所)は代表取締役となる」旨の報告を議長が行った、と記載する。さり気なく住所まで記載してしまうのだ。
もう1つは委任状に記載する方法である。委任状には「取締役変更の件」「代表取締役変更の件」「取締役会設置会社の定めの廃止の件」・・・と記載するのだが、最後に代表取締役Bの住所 ●● 代表取締役Cの住所 ××とオマケのように記載する。
代表権付与の登記申請自体が少ないので実態はわからないが、委任状方式が一般的である。司法書士に登記申請を委任しないのであれば株主総会議事録に記載するしかない。
これは自己証明といわれるものなので、会社の届出印を押印することが必要であった。
ところが押印不要通達のあおりを受けて自己証明書も押印不要となってしまった。果たしてこれが妥当なのかはさておき、この点を踏まえても株主総会議事録に押印は不要である。
委任状は従来どおり押印が必要である。
登記所の届出印に対する信用は高いので、代表取締役の住所の申請担保は押印がなされない株主総会議事録よりも委任状によってなされるべきであろう。
司法書士であれば登記申請書には添付しなくとも住民票などの書類の提出を求めることが一般的であろうから、どちらの方法でもあまり問題とはならない。
もっとも、BとCのどちらかは印鑑届をするのだから、印鑑届出者は印鑑証明書を添付するので住所の証明ということは問題とならない。あくまでも印鑑届をしない代表取締役の住所の証明の問題である。
④登録免許税
取締役、代表取締役変更分・・・1万円or3万円(別表カ)
取締役会廃止分 ・・・3万円(別表ワ)
代表取締役が死んでしまい、後任が見つからないので仕方なく取締役会を廃止すると登録免許税は4万円(または6万円)もかかる。後任が見つかれば取締役、代表取締役の変更だけなので、1万円(または3万円)ですむ。
繰り返しになるかもしれないが、機関設計に関する登録免許税は高すぎるのではないだろうか?
これに限らず、商業登記に関する登録免許税は高すぎる!増資のように増加する資本金の額に応じて税額が増えるのであればまだしも、取締役会や監査役を置いただけで3万円というのは理不尽だ。
まぁ、結論としては、登記申請を義務としつつ高額な登録免許税を巻き上げる、というのが国家というものである。
次は取締役が1人の会社に新たに取締役を追加する場合である。
このシリーズでこれまではあまり見かけないことばかりを取りあげてきたが、次はちょくちょく見かけるパターンである。結構たくさんの論点があるところでもあるので、楽しみにしておいてほしい。
では。
