代表権の帰趨 実践編6
2023/3/31 金曜日
取締役はAのみ(当然のことだが代表取締役もA)の会社
定款には「取締役が2名以上あるときは、取締役の互選により代表取締役1名を置く」
このたびBを代表権のない取締役を1名増員する。
このパターンの会社はたくさんあるのではないだろうか。
手続としては株主総会でBを取締役に選任すしたうえで、取締役の互選でAを代表取締役に選定する。正確には選定し直す、といったところである。
この定款の定めは各自代表制と互選制が混在していて、取締役が1名のときは各自代表制だが、2名以上になると選定制へと移行する。なので、代表取締役の選定方法に変更があったということになる。選定方法に変更があったら、代表取締役自体は変更がなくとも選定し直す必要があるらしい。
以前の頁で触れればよかった論点だが、そもそも選定方法に変更があれば従前の代表取締役であっても選定し直す必要があるというのはおかしいのではないだろうか?
設置会社で取締役に大量の交替があってもそれだけでは代表取締役に変更はない。従前の代表取締役を交代させるためには解任決議などの手続を経ることになる。
一方で、選定方法に変更があって変更後の方法で選定されなかった従前の代表取締役は退任するという取り扱いになっていることは以前の頁で触れたとおりである。
これではまるで代表取締役の選定方法に変更があったときは代表取締役の任期が満了するとしているようなものだ。
そうだとすると、従前の代表取締役が選定されれば任期満了による退任と再度選定されたことによる就任の登記(重任の登記でもいいかも)が必要となる。
しかし、登記実務では退任と就任(重任)の登記は不要としている。
要するに、選定必要登記不要ということだ。残念ながらこの理論構成がチグハグなのである。登記不要だから議論が深まっておらず、添付書類云々ともならない。だから「この場合の添付書類に押印すべき印鑑の種類は?」などと論じているのは私だけかもしれない。
まぁ、とりあえず代表取締役の選定手続は必要だが登記申請は不要と押さえておこう。
なので、株主総会の後に代表取締役を互選で選定する。互選なので一堂に会してもいいし、持ち回りでもいい。この場合の印鑑の種類についても以前の頁で触れたとおりである。
(1)株主総会
1号議案 取締役の選任 ※取締役Bを選任
(2)取締役の互選
代表取締役Aを選定
そして登記申請。申請書はこんな感じ。
①登記の目的
「取締役の変更」
②登記すべき事項
「年月日 取締役B就任」
③添付書類
株主総会議事録
株主リスト
印鑑証明書
就任承諾書
ここで1つの問題が起きる。新たに就任したBは各自代表により代表取締役ともなるのではないのか?ということである。主に登記官サイドの目線であろう。
この会社の定款の定めは各自代表制と選定制が混在しているので、この定めを示せば足りるのだが、代表取締役の就任の登記申請ではないので定款を添付する必要はないという見解もある。
金子先生は定款を添付するまでもなく、株主総会議事録に「Bは代表権のない取締役である」と記載すれば足りるとしている。(事例で学ぶ会社法実務 229頁)
ところで設置会社で平取締役を増員した場合の株主総会議事録にはこのような記載はしない。各自代表制ではないことは明らかだし、代表取締役の登記がなければ新たに選任された者は平取締役であることも明らかだからだ。私はこのことから株主総会議事録に選定制を採用している定款規定がある、ということを記載しておけば足りると考える。
定款規定の存在を引用しているが、代表取締役の就任の登記申請ではないので定款を添付する必要はない。
なお、日司連が発刊している「月報司法書士2022年6月号」では、Bが各自代表による代表取締役ではないということを証明するためにはBが代表取締役に互選されず、Aが互選により選定された(改めて選定された)互選書と定款を添付するほうがいいんじゃないだろうか、としているがこれは大いに疑問である。
Aが代表取締役に選定し直されたことをもって、Bが代表取締役ではないことの証明にはならない。これは消極証明に近いからだ。
登記実務では定款、互選書を添付する必要もなく、株主総会議事録には特段の記載をしなくとも、登記申請は受理されているようだ。
代表取締役の就任の登記申請がなければ、Bは代表取締役ではないと扱うのだろう。
もっとも、「新たに就任したBは各自代表により代表取締役ともなるのではないのか?」という疑問は残るので、登記官によってはこの点を明らかにすることを求めてくる可能性はある。
なので、金子先生の見解か私の見解に基づき、株主総会議事録の記載を工夫しておこう。
「月報司法書士」の見解では登記申請は受理されるが、徒に登記官を困惑させてしまう。
④登録免許税
取締役変更分・・・1万円or3万円(別表カ)
代表権の変遷シリーズはこれで一旦締める。いろいろなパターンがあるのだが、いくつかの基本原則さえ押さえておけば大抵の登記申請には対応できるだろう。
新たな論点などが見つかれば、このシリーズの続編もあるかも。
では。
