成年後見申立の諸問題3 誰が申立人となるのか
2023/5/16 火曜日
成年後見制度は家事事件であるので家庭裁判所への申立が必要だ。これはあたりまえのことを言っているようだが、裏返せば家庭裁判所が勝手に成年後見人等を選任するということはない。「家裁が勝手に後見人をつけた!」という人もいるが、これは違う。必ず誰かが家庭裁判所に対して申立をしているのだ。
それでは誰でも彼でも成年後見の申立(正確には成年後見等開始の審判の申立というが、この頁では単に「申立」とする。)ができるのか?といえばそうではない。申立ができる人は民法7条によれば、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官だけである。本人はさておき、配偶者(これは戸籍上の配偶者であり、事実婚を含まない。)と四親等以内の親族はいわば「家族」である。未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人はすでに後見制度を利用している場合の「類型の変更」である。
四親等以内の親族というのは結構範囲が広い。親等計算によれば直系では玄孫だし、傍系であればいとこである。当然親、子、孫、祖父母、叔父叔母、甥姪を含む。詳細は「四親等以内の親族」でググればわかりやすい家系図があるので探してほしい。
検察官も申立ができるようだが、これは実例を聞いたことがない。
通常は子、孫、甥姪などが申立をすることが多いだろう。これらの者が後見人等候補者となることもあるだろう。
ご家族について成年後見制度の利用を検討している方は、この申立人の問題はクリアできることが多いだろうが、なかには申立人となるべき者がいないということがある。司法書士が関与する成年後見事件ではわりと多いハズである。
申立人となるべき者がいないというケースやその理由は、全く親族がいない天涯孤独である場合と四親等以内の親族はいるのだが、これらの親族が申立をしない(実務ではしばしば申立人とはならない、と表現する)場合である。
前者はあまり聞いたことがないが、後者は多い。親戚付き合いの少ない未婚の高齢者が典型的である。兄弟姉妹はいるがいずれも高齢またはすでに他界している、現役世代の甥姪はたくさんいるが、親戚付き合いをほとんどしてこなかったため甥姪には数十年間会っていない、場合によっては面識がないというような親族関係だ。この稀薄すぎるともいえる親族関係は、当事者ではなくその上の世代からの因縁ということもあり、当事者には非はなく不可抗力により形成されてきた親族関係ともいえる。これは決して珍しいものではなく、核家族化が進めばさらに増えてくるかもしれない。
いずれにしろ四親等以内の親族はいても本人のために成年後見開始等の審判の申立をしてくれる者はいないということである。
では、このような場合はどうすればいいのだろうか。方法は2つある。1つは正攻法ともいうべき方法で、市区町村長による申立である。老人福祉法や障害者福祉法などには、市区町村長が成年後見開始等の審判の申立をすることができると規定されている。立法当初は天涯孤独な者の成年後見開始等の審判の申立を想定していたかもしれないが、親族はいるが協力が得られないよう場合でも活用されているようだ。
申立人となる親族がいなければお住まいの自治体の力を借りよう、ということだ。
具体的な手続は各市区町村の条例や規則に定められている。対高齢者、対障がい者で窓口が異なるところもあれば、窓口が一本化されているところもある。このあたりはわかりにくいので近所の地域包括支援センターや社会福祉協議会に相談してみよう。これらの機関が取り次いでくれることもある。自治体が動いてくれれば書類の準備や裁判所との折衝、後見人等候補者の手配などは自治体が行ってくれる。ただし、費用は負担しなければならない。費用といっても切手代や鑑定費用などの所謂実費のみなので、鑑定がなければ数千円程度である。成年後見開始等の審判後に成年後見人等に請求書が送られてくるので、結局のところ費用は本人負担の事後精算といった感じである。
この市区町村長申立であれば、申立人の問題はほぼ解決となるかといえば、そうは問屋が卸さない。あくまでも自治体の事業なので、各自治体によって取り扱いというかその方針が大きく異なる。住民の社会福祉向上ということで積極的なところもあれば、あくまでも最後の手段ということで、本人や親族による申立を促すところもある。各自治体の社会福祉に対する考え方が表れているといえよう。
自治体が動いてくれない場合はもう一つの方法である「本人申立」を申立を検討するしかない。成年後見開始等の審判の申立は親族のほかに本人も申立てをすることができる。「だったら親族じゃなくて本人自身が申立をするればええがな!」と思うかもしれないが、成年後見開始の審判等の申立はいろいろな書類を準備したり、関係各所との折衝などが必要となる。保佐や補助ならまだしも成年後見という類型は判断能力がほぼないという状況の人である。いかに他人にサポートをしてもらったとしても形式的には申立人が行ったということとなる。これらから成年後見開始の審判を受けようとする人にはこれらの書類の準備等はできないであろうということから、本人による成年後見類型の申立は受理されないようである。私は東京家庭裁判所での取り扱いしか知らないが、全国各地の裁判所でも同様ではないだろうか。逆にいえば、保佐や補助であれば、本人申立は許容されているようである。もっとも、保佐や補助相当の人たちでも申立に必要な書類の準備等は難しいかもしれないので、他人にサポートしてもらうことはあるだろう。ただし、あくまでも申立人は本人であり、実体はともかくとして形式的には手続を主宰する者として扱われる。
ということで、保佐相当、補助相当であれば親族による申立や市区町村長による申立によらずとも、本人申立を行えばOKだ。申立の類型は医師の診断書の診断結果により定めることは前の頁で触れた。コツとしては診断書を書いてもらう前に申立人がいないという問題とその解決方法である本人申立を考えていることを医師に伝えて、後見相当ではなく保佐相当や補助相当の診断書を書いてもらうということである。
なんだかズルいような気もするが、申立人がいない問題は結構深刻だし、仮に後見相当の場合でも敢えて保佐類型の申立をし、併せてたくさん代理権付与の申立をしておけば、本人保護という観点から見ても漏れは少ないだろう。繰り返しだが診断書を書いてもらう前に医師に伝えておくということがポイントである。一度「後見相当」としてできあがった診断書を「保佐相当」に書き直してくれ、というのは医師に対して大変失礼である。
なお、保佐や補助の本人申立は親族がいる場合でもOKだ。この後の頁でも触れるが、申立の手数料等の申立費用は申立人負担である。親族が申立人となるのであれば、申立費用は申立人(親族)負担となってしまう。これを避けるためにも敢えて本人申立という途を採ることもあるであろう。
こうしてみると類型の選択・決定と誰が申立人となるのかということは表裏一体の関係にあるともいえる。これらは平行して検討すべき論点である。
類型と申立人が決まれば残りは誰を後見人等候補者とすべきかである。これは次の頁で触れる。
では。
