成年後見申立の諸問題6 添付書類の準備
2023/6/26 月曜日
成年後見開始の審判申立てをするにあたり、誰が申立人となるのか、誰を後見人等候補者とするのかも決まり、診断書も主治医が作成してくれることとなったので、申立の準備も大詰めだ。
なお、この頁ではいつも以上に個人的な見解であるのでご注意願いたい。ご注意願いたい。ご注意願いたい。
この頁では東京家庭裁判所本庁(通称後見センター)での申立に添付する書類を見ていく。
書式は家庭裁判所のホームページからダウンロードできるので、申立にあたっては必ず家庭裁判所のホームページを訪れてほしい。意外と有用なことが書かれているので、専門職といわれる司法書士でも参考になることも多い。繰り返しだが、とても有用だ。
添付書類とは関係ないが、どこの家庭裁判所でもいいわけではなく、我が国のお役所には管轄というものがある。担当地域である。管轄の家庭裁判所に申立をするといことだ。
本人の住所地を管轄する家庭裁判所であることに注意してほしい。
本人は東京23区内に住所があるが、申立人は千葉県に住所があるという場合は東京23区を管轄とする東京家庭裁判所である。
問題となるのは住所(正確には住民票があるところ)と居所(実際にいるところ)が異なる場合である。典型的な例として、長期入院や地方の老人ホームに居住しているが、住民票は元々住んでいたところに置いてあるというような場合だ。この場合でもあくまでも住民票がある場所を基準とする。老人ホームなど終身利用が可能な施設であれば、そこに住民票を置くこともできるが、本来居住すべき場所ではないところ(病院や介護老人保健施設など)にいる場合は実際の居住地と住民票があるところが遠く離れていることもあるだろうが、この場合でも家庭裁判所の管轄はあくまでも住民票があるところだ。
さて、添付書類について。
①申立書
これは「成年後見開始の審判をしてくれ」ということである。申立の中核というよりも、申立そのものである。
必要な箇所にチェックを入れるだけなのでそれほど難しくはない。書き上げれば成年後見開始の審判申立ての要素(本人、申立人、後見人等候補者、類型、保佐補助であれば同意権・代理権付与)のすべてが充足される。申立の動機はフリー記載なので、冗長とならず、客観的な視点で本人を取り巻く環境や状況を事情に詳しくない者でもそれが分かるように記載することを心掛けよう。
②代理行為目録・同意行為目録
代理権目録は保佐・補助の申立の際に付けてほしい代理権を記載する。
同意権目録は補助申立の際に付けてほしい同意権を記載する。
ここで代理権と同意権について説明する。
代理権とは保護する者(成年後見人・保佐人・補助人)が本人に代わり法律行為をする権限である。同意権とは本人が行った法律行為を事後的にキャンセルできる権利である。
例えとして、本人所有の不動産を売却したときを考えてみる。保護する者に不動産売却の代理権がある場合、不動産を売るための契約交渉や契約締結は本人もできるし、保護する者もできる。
同意権がある場合は、不動産を売るための契約交渉や契約締結は本人が行う。保護する者はできないが、契約内容が本人にとって不利だと思えば本人が締結した契約をキャンセルできる。
わかりやすくいえば代理権は本人が行うには難しいこと、同意権は本人に任せておいて一応は大丈夫だが、万が一に備えておく必要があるということである。
代理権目録には「金融機関等との一切の取引」とある。この代理権が付与された保佐人・補助人は本人名義の口座からの払出ができる。これが一番重要だ。どんなケースでも必ず付与を求めておこう。
明らかに不要と思われる同意権・代理権は付与されない。例えば不動産を所有していないのに不動産売却についての同意権や代理権は付与されないし、誰からも相続を受けていないのに、遺産分割についての代理権・同意権は付与されない。もっとも当初は誰からも相続を受けていないが、その後に親族が亡くなり相続を受け、遺産分割についての代理権・同意権が必要となった場合はその時になって申立てをすれば事後的に付与されるので、代理権・同意権は必要に応じて付与してもらえばいい。
なお、成年後見人はすべての法律行為に代理権があるので、わざわざ代理権や同意権を付与することはなく、成年後見の申立であれば、代理行為目録・同意行為目録は不要である。
③申立事情説明書
本人の状況・経歴などを記載する。本人本人の状況・経歴について一番詳しい人が書けばいいので、申立人以外の者でもOKだ。ケアマネジャーや老人ホームの管理者でもOKだ。
経歴などは一番詳しい人でも不明な箇所はあるだろうから、分からないところは「分からん」でOKだし、記載した事項についての裏付け資料等も不要だ。
家庭裁判所は推定相続人の項目に関心があるようなので、ここの項目はできるだけ詳しく書いておこう。
④親族関係図
以前も書いたが家庭裁判所は他の親族の意向に大きな関心を持っているので、これもできるだけ詳しく書いておこう。注意すべきは作成者(申立人)を中心とするのではなく、本人を中心とすることだ。
⑤財産目録
本人の資産状況や資産構成を熟知している者は少ないハズである。たとえ親族であってもだ。なので、これは分かる範囲で記載すればOKだ。成年後見開始の審判申立ての段階では金融機関に本人名義の口座について照会しても教えてくれない。なので分かる範囲で記載すればOKだ。正確な調査は成年後見開始の審判後に成年後見人等が行うことで、本人の資産状況や資産構成を把握すればいいのだ
⑥相続財産目録
本人が他の親族から相続を受けているが相続手続が未了の相続財産を記載する。
相続を受けていなければ不要である。
⑦収支予定表
本人の収入額や支出額を熟知している者は少ないハズである。たとえ親族であってもだ。なので、これも分かる範囲で記載すればOKだ。もっともメインバンクの通帳をみればかなりのことが判明するが。
⑧後見人等候補者事情説明書
後見人等候補者の事情を記載する。司法書士を後見人等候補者とする場合は別の書式を用いるので、しばらく一般用の書式を見ていなかったので、本頁では記載事項を一つ一つ見ていく。
ⅰ 職業
家庭裁判所は後見人等候補者は、収入はどの程度なのか、一定の社会経験を経ているのか、平日の昼間に成年後見人として活動することができるかということを確認したいのだろう。どこに勤務しているのかなどはどうでもいいだろう、といいたいものである。
ⅱ 同居家族
後見人等候補者の同居者を知ったところで何の検討材料とするのだろうか?同居者にヤバい人物がいないかということでも確認するのだろうか。もしかしたら家庭裁判所は同居者の過去の犯罪歴や破産歴などを調べることができるのだろうか?やろうと思えばできないことではないが、申立の事務が膨大になりすぎてしまうのではないだろうか。これも余計な情報であろう。
ⅲ 収入等
給与等の定期収入と保有資産を記載する。後見人等候補者の収入や生活のための財政基盤がしっかりしている者かどうかを確認するのだろう。他人の財産を自由に動かせるのが成年後見人等なのだから、生活のための財政基盤が危うい者は横領等のキケンがあるということだろう。
人を横領するかもしれないと疑うのか!といいたくなるかもしれないが、この項目は妥当であろう。成年後見人等の横領等の不正行為は深刻な問題なのでこの項目はやむを得ないであろう。しかし、前の頁にも書いたとおり現在は成年後見監督人等がセットで選任されることも多いので、生活のための財政基盤は平均以下である者であっても成年後見人等に選任されないというわけではない。
ⅳ 他の生計同一者の収入
これは、特に成年後見人等候補者が無収入という場合に、どのようにして生活しているのか?ということだろう。生活のための財政基盤が危うい者なのか否かということである。
想定されるのは専業主婦が自分の老親の成年後見人に就任しようというような場合であろう。この場合は夫の収入を記載するということだ。
ⅴ 健康状態
健康状態は成年後見人を選任する際に重要な事項だ。ときに成年後見人は気力や体力の充実が求められる。銀行に行ったり役所に行ったりなどなど。
もっとも持病のため月に1,2回程度の通院が必要という人はそれほど珍しくもないので、この程度であれば問題はないだろう
よく言われるのが、成年後見人は就任直後が一番忙しいということ。この時期は気力体力が充実していないと務まらない。だが、この時期さえ乗り切ればその後はそれほどでもない。
就任直後だけ専門職との複数後見により乗り切るという方法もある。
なので、よっぽどの重病で余命幾ばくもない、ということでもない限り健康状態を理由に成年後見人等に選任されないというわけではないだろう。
ⅵ 経歴
学歴や職歴を記載する。就職活動時の履歴書ではあるまいし、これも何の検討材料とするのかは疑問である。もっとも差し支えない範囲でいいとされているので、詳しく書く必要はないだろう。「●●大学卒業、●●会社就職」程度でOKだ。差し支えない範囲でもいい、ということであればそもそも記載事項から除外してもいいのではないだろうか。繰り返しだが、必要性を感じない記載事項である。
ⅶ 欠格事由該当の有無
欠格事由にズバリ該当しているか否かを問うている。これらに1つでも該当すれば問答不要で成年後見等には選任されない。未成年者であることは添付する住民票等から明らかである。破産歴などは家庭裁判所は調べれば分かるはずであるが、まずは自己申告させようということだろう。本人との訴訟の有無はさすがに家庭裁判所でも調べきれないから、自己申告を信じるしかないということであろう。
これらに該当する者を成年後見人等候補者にした申立をすること自体あまり考えられないが、この欠格事由該当の有無の記載は自己申告というよりも該当を秘匿していたことが発覚すれば解任等の制裁も甘受するという、一種の誓約のような性質があるのだろう。当たり前といえば当たり前だが。
ⅷ 本人との交流状況
成年後見人は本人の財産と自己の財産との分別管理が求められる。これは一見すると当たり前のことをいっているようだが、本人と同居していて生計を一にしている場合は、かなり難しい。生計が同一というのは生活のためのおサイフが1つということである。
夫婦では通常は生計が同一のハズである。同居者の成年後見人は分別管理をすることがとても難しいので、キチンとした財産管理方針とその運用が求められる。
なので本人との同居の有無は家庭裁判所にとっては重大な関心事項である。
一方で、成年後見人は身上監護義務をも負っている。身上監護と介護などの事実行為とは異なるので、必ずしも本人との同居が求められるものではない。老人ホーム等に入居してれば別居していることになる。なお当然だが、住所が同じということと同居しているということは異なる概念である。通常は住所が同じであれば同居しているといえるが、長期入院などでは住所が同じでも別居と評価されることもある。
成年後見人の事務はデスクワークもさることながら、色々な場所に出向くことが多い。それは大抵の場合、本人の住所や居所(現実にいるところ)の周辺が多い。金融機関や介護施設や行政機関等々である。
なので本人の住所や居所から遠く離れたところに住んでいる者は適任ではないということになる。
しかし近年は各種の行政手続や金融機関手続は郵送やインターネットでもできるようになっているので、必ずしも近所にいるものでなければならないといことでもないだろう。
通勤通学圏内であれば問題となることはないだろう。だぶん問題ないんじゃないかな?
逆にいえば、成年後見人の日常の事務では「遠いから行けない・できない」は通用しないということだ。
交流の頻度については、親族を成年後見人として専任するかどうかの重要なファクターと考えられる。親族後見人が専門職後見人に優るのは「家族」という点だ。長らく本人と接していたことにより、本人の状況や希望を的確に把握できるし、他の親族との関係なども把握しているだろう。
しかし、交流がほとんどないというようであれば家族という利点がほとんど期待できないので、本人との交流がほとんどない者はたとえ親族であって申立人となることができる者であっても成年後見人に選任されることはないのではないだろうか。成年後見人を務めることは義務ではないのだし、交流がほとんどない者の成年後見人を務めようという人はいないのではないだろうか。
ⅸ 本人との利害関係
家庭裁判所は本人に対する貸付金などの債権を回収することが成年後見開始の審判申立ての動機の1つとなっていないのかを知りたいのだろう。
成年後見開始の審判前からの有する債権を回収すること自体は許されるのだが、債権回収の名の下に横領等の不正行為の懸念があるから、成年後見開始の審判前からの債権の回収はキチンとした裏付け資料がなければ許さん!という家庭裁判所の強い意思を感じる記載事項である。こういった事情から認知症等の親族のために支出すること(多くは本人のために立て替えることが多いだろう)があるのであれば、請求書領収書等はしっかりと残しておこう。支出をした者が成年後見人等にはならない場合も同様である。事情をよく知らない専門職後見人からすれば、請求書や領収書が残されていない債権の回収には応じられないことが多いだろう。
ⅺ 財産管理・身上監護の方針
現状維持や施設入所予定などと記載すればいい。成年後見開始の審判後に大きく事情が変わることはよくあることなので、ここに記載したことどおりに後見人の事務を行わなければならない、ということではない。
ⅻ 選任の手続・役割の理解等
選任の手続は「家庭裁判所の選任に異議はありません」という誓約である
役割の理解もすべて同意するを選択していなければ、間違いなく第三者が選任されてしまうだろう。
⑨親族の同意書
以前も書いたが成年後見開始の審判申立てが遺産分割の前哨戦となっていないかを確認するものである。
数年前から成年後見開始の審判申立ての添付書類として追加された書面である。
成年後見開始の審判にあたり本人の親族の同意は必要ないハズだが、成年後見開始の審判後に他の親族から「なぜアイツを成年後見人に選任したんだ!!」という苦情がおおかったようなので、これに家庭裁判所が辟易としたので、添付書類に追加されたようだ。
理論上はすべての親族(本人から相続を受けることができる親族=推定相続人)からの同意書が必要のようだが、実際はすべての親族の同意書を準備できないままでも、特に他の親族への照会等はしないまま成年後見人等候補者がそのまま選任されるというケースはよく聞く。推定相続人がたくさんいるような場合や本人の資産が乏しいという場合のようだ。
なので病気などで文字を書くことができない親族からは無理をして同意書を書いてもらう必要はない。同意書をとることができなかった親族がいる場合はその事情などを別の書面に記載して提出すればいいだろう。
⑩本人情報シート
これも数年前から成年後見開始の審判申立ての添付書類として追加された書面である。
以前も本人の状況について記載した書面を添付書類としていたが、それよりも遙かに詳しい記載が求められている。以前は成年後見開始の審判にあたり、本人の状況よりも成年後見人等候補者の適正に重きが置かれていたような気がするが、成年後見制度の本来の趣旨に立ち返り、本人の状況を審判前から正確に把握しておこう、ということだろう。
作成者は申立人に限られないので、本人の状況に詳しい者に書いてもらおう。ケアマネジャーや病院の相談員等に記載してもらうことも多いと聞く。
⑪診断書
これは前の頁で書いたので、そちらを見てほしい。
こうしてみると、たくさんの書類を準備しなければならない。これらの準備に要する労力や費用はすべて申立人が負担することとなる。
司法書士が依頼を受けるのはこれらの書類の準備についてである。もっとも、私を含めて書類の準備のみならず、成年後見制度の概要から詳細や成年後見人選任後の事務等についても説明する。
登記申請を司法書士に依頼せずに自分で、ということはあるだろうが、成年後見制度については成年後見人等に選任されたことのある専門家からアドバイスを受けることはとても有用だ。
次回はこのシリーズの最終回である「申立費用は誰が負担するのか」である。乞うご期待!
では。
