分配可能額 ニデック過大配当事件
2023/8/04 金曜日
今年の6月の初め頃にニデックという会社で、分配可能額を超えて配当をしていたことがニュースになっていた。「ニデック 過大配当」でググればいくつかのサイトに飛ぶので興味があれば見てみよう。
1 はじめに
これまでニデックという会社は聞いたことがなかったのだが、ネットで調べてみると日本電産が旧社名のようだ。そういえば川口春奈さんを起用したテレビCMを見たことがある。
日本電産は日本を代表する電機メーカーである。超一流の上場会社である。以下はニデ社という。そんな超一流の上場会社で分配可能額を超えた配当がなされたようだ。
このシリーズでは過大配当事件を受けてニデ社に設置された第三者調査委員会の2023年6月16日付調査報告書(以下「報告書」という。)をベースに、ニデ社になにが起きたのか?そもそも分配可能額とは何か?剰余金とは違うのかをテーマに展開していく。あくまでも報告書がベースであり、ニデ社の計算書類等を確認したわけではないので、ご注意願いたい。当然だが報告書は公表されているものである。
なお、この事件の背景として超一流の上場会社とは思えないようなニデ社内の知識不足や情報共有・各部署の連携不足がネット上では面白おかしく指摘されているが、本ページは司法書士事務所が運営しているものであり、こういった点にはあまり言及しない。あくまでも会社法上の問題点の指摘であることは最初に断っておく。
2 剰余金の配当と自己株式の取得の共通点
ニデ社がやらかしたことを理解するためには、まず自己株式の取得と剰余金の配当の共通点を理解しなければならない。報告書を読んだ限りではニデ社ではそれぞれの担当部署が異なっていたことから、両者を全くの別物として考えていた節がある。
どちらも財源は同じなのだから、それぞれの部署が連携してあたらないと財源不足のおそれがある。報告書は会社法の教科書ではないのだから、あまり学術的な論調ではないことは理解できるが、この点についてもう少し言及があってもいいのではないだろうか。
剰余金の配当とは、掻い摘まんでいえば株主への利益配当のことである。実際の配当の財源は利益に限られないし、利益を丸々配当できるわけでもない。そもそも利益とはなにか?ということも問題となる。ニデ社がやらかしたうちのひとつはこのあたりのことなので、この後詳しく述べる。
自己株式の取得とは、いわゆる自社株買いである。野村證券のホームページでの解説によれば「自己株式取得の一つで、株式市場から過去に発行した株式を自らの資金を使って直接買い戻すこと」ことである。
自己株式は配当を受けることも議決権を行使することもできない。会社が自社の株式を購入するということは、市場に配当も議決権もあるフルスペックな株式の数が減少し、希少性が高まったことにより株価は上昇する(株主はニッコリなので株主への利益還元ともいわれる)し、敵対的買収防止にも役立つ。だからこそ、上場企業は自社株買いを行う。
ちなみに、会社が株主から保有する当該会社の株式を買い取った後に自己株式となるのであるから、自己株式の取得という表現は少々オカシイのだがこのまま進める。
配当も自己株式の取得も会社財産の株主への流出という点で似ている。外部流出とは株主への金銭の支払いをいう。株主への金銭の流出とは毎年の配当は勿論のこと、株主からその株式を買い取る場合、即ち自己株式の取得も含む。配当や自己株式の取得のことを法律上は剰余金の処分といい、外部流出とは言わないことが多い。あくまでも本頁でのオリジナルな表現である。ちなみに株主からの物品の購入や従業員でもある株主への給料等の支払は対価があるので外部流出とはいわない。
外部流出は余ったお金を原資としなければならない。会社に余ったお金を「剰余金」という。正確な表現ではないがとりあえずこれでいい。
つまり、配当も自己株式の取得も剰余金を原資として行う。言い換えれば、剰余金として計上された額以上の額で配当や自己株式の取得をしてはいけないのだが、ニデ社ではコレをやってしまった。なので配当を担当する部署も自己株式の取得を担当する部署も剰余金の残高には常に留意しなければならないハズである。別々の部署で担当するということであれば両部署での連携は不可避なハズである。
3 剰余金とは
剰余金は「余ったお金」としたが、正確には会社法446条に規定されている。同条1号から4号を加算し、5号から7号を減算して求める値である。ウンザリするほど複雑だが、原則として1号が基礎である。
その1号は複雑極まりないが、結局のところ「最終事業年度のその他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額」である。つまり最新の貸借対照表に計上されているその他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額である。
最新の貸借対照表とは直近の定時株主総会で承認された計算書類の一つである。
貸借対照表や損益計算書は定時株主総会で承認されなければ何でもない。ただの計算書類案でしかない。
つまり「最終事業年度のその他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額」とは、前期までの、前期までに積み上げられたその他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額である。前期の決算時点のその他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額といえる。
剰余金を自己株式の取得や配当の原資としてもいいのだが、これらに使われることなく貯め込まれた会社財産である。いわゆる内部留保ともいわれるものである。
ただただ貯め込むこともあるだろうが、多くの場合は遠い将来の大規模投資のためにストックしていることであろうし、不測の事態に備えてストックしているのかもしれない。
数年前にはコロナ禍など想像もしていなかったが、コレを経験した後は将来なにが起きるか分からないから今のうちから貯め込んでおこう、というのも無理はない。
企業は内部留保を吐き出せ、という指摘があるが、これは個人の場合に置き換えれば貯金がある者は貯めるのではなくを消費に回せ、ということである。実際にはこんなに単純な話ではないが、企業が内部留保を貯めていくことには一定の合理性がある。(と思う。)
なので剰余金は1年に一度だけ、定時株主総会で計算書類の承認を経たときに増減する。これは正確にはその他利益剰余金のことである。期中にいくら儲かった取引があっても、その儲けは利益とはいわない。まぁ、あえて「期中の利益」というのだが。
その後に予想外の出来事(例えば自然災害など)で大きな損失が出るかもしれない。利益(純利益という)とは1年間の儲けと損失の通算である。厳密にはチョット違うのだが、とりあえずこんな理解でいいだろう。
しかしその他資本剰余金では事情が異なる。その他資本剰余金の増減事由といえば、減資差益や自己株式処分差損益が挙げられる。その他資本剰余金は決算を経なくとも発生の都度都度計上されるものである。その他資本剰余金だけは都度都度計上されることを規定したのが2号から7号である。
一方でその他利益剰余金は貸借対照表記載の額から変動しない。
まとめると・・・
その他資本剰余金の増減は資本取引ともいわれ、損益計算書を通じないで計上される。
その他利益剰余金の増減は損益取引ともいわれ、損益計算書を通じて1年に1度だけ計上される。
剰余金は剰余金の処分(自己株式の取得や配当)をする時点を基準に計算する。
前期末から現時点にまでになされた資本取引によるその他資本剰余金の増減も反映させることによって剰余金を算出する。
ここまでをまとめると、剰余金とはその他利益剰余金だけではないということ、期中の利益は含まれないということである。
報告書によれば、ニデ社では剰余金イコールその他利益剰余金であると勘違いしていた節がある。社内での手続がその他利益剰余金の残高にしか目が行っていないようである。まぁ、資本取引が活発に行われていないのでなければ大きな問題にはならないので、殊更問題視しなくてもいいかもしれない。
一方で、期中の利益を剰余金に含めてしまうことは絶対的にNGである。こんなことをしていると「純利益」という概念を理解していないと思われてしまう。実際にニデ社では期中の利益を剰余金に含めてしまったようである。これは意図的なのかケアレスミスなのかは分からない。このことはこの後に述べる。もっとも、このことは剰余金の算定自体は間違っているが、今回の過大配当の直接の原因ではない。原因は別にある。それが次の分配可能額である。
4 分配可能額とは
自己株式の取得や配当は剰余金を原資とするとしたが、これは正確ではない。会社法は分配可能額という概念を持ちだし、この分配可能額を上限に自己株式の取得や配当ができるとしている。これは非常に分かりにくい。ニデ社のやらかしもココに原因があるのではないだろうかとも思う。分配可能額+αが剰余金、言い換えると「剰余金-αが分配可能額」であるといわれている。
剰余金は会計上の概念であり、これに対して会社債権者と株主の利害を調整した会社法上の概念が分配可能額であるとされている。両者は似て非なる別の概念である。
通常は「分配可能額<剰余金」となることが多いだろうが、これには限られない。
剰余金に加減する「プラスα」は461条2項各号であるが、これはアタマがおかしくなるほど複雑な規定のオンパレードである。特に6号、即ち会社計算規則158条はカオスである。立法者は理解してもらう気は全くないようなので、いずれ詳しい分析を試みてみたい。
461条2項各号はいくつかの項目があるが、実際に重要なものは3号、即ち自己株式帳簿価額を剰余金から差し引くことであるといわれている。3号以外の適用があることは多くはないようなので、この際無視してもいいだろう。
それでは、なぜ自己株式帳簿価額を剰余金から差し引くのだろうか。
これは自己株式の取得が出資の払い戻しであり、このことを貸借対照表上にどのように反映するのか、ということであると思う。
従来から会社が自己株式を取得した際の会計処理は見解が分かれていた。
一般の有価証券の場合と同じく、資産として貸借対照表上の資産の部に計上するという考えと、自己株式の取得が資本取引であることに着目し、出資を受けて株式を交付するという増資の真逆であることから、自己株式は資本の控除項目であるという考えである。
現在は資本控除項目として扱われることが確定している。
次のような貸借対照表の会社で考えてみる。
現金 200 / 資本金 100 剰余金 100
50で自己株式を取得した。そうすると・・・
現金 150 / 資本金 100 剰余金 100 自己株式▲50
となる。
剰余金の「額」は株主総会の決議なくしては減額できないので100のままである。
しかし、すでに自己株式を50取得したので、残りの取得原資=分配可能額は50である。
剰余金は100と表示されているが実際は50しかない。
なので、貸借対照表に記載されている剰余金の額100から取得した自己株式の価額(自己株式帳簿価額)である50を差し引くのである。
かくして剰余金から既に取得していた自己株式の帳簿価額(買取価額)を控除したものが分配可能額である。先にも書いたように他にも加減する項目はあるのだが、それほど実例はないようだし、これを一つ一つやっていてはとても長くなるので割愛する。
ニデ社のように過去に大量に自己株式を取得しているとその帳簿価額は大きくなり、これを剰余金から差し引くので、その分だけ分配可能額は小さくなる。その他利益剰余金よりもかなり小さな額となってくる。その他利益剰余金の残高ばかりに目が行っていると分配可能額を見誤ってしまう。それではニデ社ではどうだったのであろうか。
5 ニデ社の分配可能額
ニデ社は2022年4月21日の取締役会で500億円で550万株の取得を目指して自己株式取得の決議をした。翌日から信託銀行を通じて株式市場で取得を開始した。このあたりのスキームはよくわからんが、ニデ社が証券会社に口座を開設するよりも信託銀行を通じて買い集めるほうが都合がいいのだろう。なのでニデ社株式を売却した株主はニデ社に売却したという認識ではないだろう。
ということはこの時点で分配可能額は500億円以上なければ550万株取得の目標は達成できない。報告書を読んだ限りでは、この時点でのその他利益剰余金は約2,357億円ほど、分配可能額は約652億円ほどあったのではないだろうか。自己株式帳簿価額が増加すればこれをその他利益剰余金から差し引くので、自己株式の買い取りを進めていけば進めるほど分配可能額は小さくなる。ニデ社でも少しずつ買い集めていたので、その都度都度分配可能額が小さくなっていったはずである。
一方でニデ社では2022年4月21日に第49期中間配当を決定した。配当金総額は203億円である。
この時点で、先の自己株式の取得を全部実行し、中間配当も行うと500億円+203億円が必要となる。分配可能額は652億円しかない。両者を実施することは不可能である。
あの武富士もビックリするほどの「全然足りねえじゃん!」である。報告書もこのことを指摘している。
自己株式の取得を担当した財務部職員も中間配当を担当した経理部の職員も役員も分配可能額を超えてしまうことに気が付かなかったようである。知らぬが仏とはいうが、チョットずつの自己株式の取得と配当を同時並行で行えば、ある時点で分配可能額はゼロになり、その先は違法となる。そのXデーはいつだろうか。
ニデ社は自己株式を4月に42億円、5月に158億円、6月に144億円、7月に85億円、8月に12億円、9月に27億円を取得し、この間の5月26日に中間配当を実施した。順調にいけば652億円の分配可能額が9月の自己株式取得の途中で底をつくことになる。9月の自己株式取得は分配可能額がゼロでなされた違法な自己株式の取得であったことになる。Xデーは2022年9月であった。
6 10月の中間配当
ニデ社では分配可能額のマイナス状態に陥っているにもかかわらず、2022年10月の中間配当を実施した。分配可能額は臨時決算でも経ない限りは期中に増加させることはできない。なのでこの中間配当の時点ではどうやっても分配可能額のマイナス状態を解消することはできない。即ち、配当はできない。にもかかわらず中間配当を実施した。まさに知らぬが仏である。
ニデ社の経理部社員は中間配当実施のために分配可能額算定の際に(まぁ、この時点では分配可能額違反で配当をしていたということに気が付くという点以外では無意味な作業なんだが)剰余金として2023年3月の決算で確定したその他利益剰余金を算出表に記載すべきところ、2023年第1四半期または第2四半期の利益(いわゆる期中の利益)までを加算した額を記載してしまったようである。(不適切記載)
分配可能額がマイナス状態に気が付くチャンスだったのだが、逆に傷口を広げてしまった!
7 報告書から見えてくる原因
なぜ分配可能額違反に気が付かなかったのか。
報告書ではニデ社の知識不足に原因があるとしている。
10月の中間配当の際の不適切記載が故意だったのか過失だったのかについて報告書はあまり言及していない。過失でもマズいことなんで、あまり言及しなかったのだろう。
個人の判断にしても会社ぐるみであっても故意はリスクが大きすぎる。やはり過失であろう。繰り返しだが、10月の中間配当の際の不適切記載は今回の過大配当の直接の原因ではない。すでに分配可能額はマイナス状態である。しかしこの不適切記載ニデ社の現状を物語っているのではないだろうか。
期中の利益を剰余金に含めてはいけないことは会計の世界に身を置いていれば朝飯前のハズである。過失であれば不適切記載が起きたのはやはりニデ社の知識不足が原因である。
日頃から会社の数字、特に損益に関心を払っていれば記載した金額が誤りであることに気が付くであろう。やはり分配可能額違反の原因は知識不足や経験不足が原因であろう。
8 私が思う本当の原因
報告書は知識不足を原因としている。ずいぶんあっさりとしたものである。本当にただの知識不足だったのだろうか・・・。
上場企業の経理や財務や法務に従事する社員が分配可能額と言うことを知らなかったということはオドロキデある。まぁ、一部の社員はキチンと理解していたようだが、会社全体としてはあやふやな理解のままよく何事もなく剰余金の処分をしていたものだ。
ところで、ニデ社は毎年安定した黒字決算が続いていたようである。
会社全体では分配可能額についての理解あやふやなままでも、社内に剰余金がたくさんあり、2022年以前までの自己株式取得は微々たるものだったので、分配可能額などはあまり気にしなくてもよかったのかもしれない。その他利益剰余金の残高ばかりに目が行っていたという報告書の指摘も頷ける。
ニデ社では2022年頃からまるで狂ったように株主への利益還元という名の下に自己株式の取得を進めていった。これは報告書でも指摘していることである。
有り余る剰余金を背景に、これまでのように財源などを気にせず自己株式取得や配当をガンガン進めていたのであろう。
いわゆるステータスを全部攻撃に振った経営スタイルである。
これこそが今回の過大配当の原因であろう。
コレに加えて他人に聞きにくい社風と誰かがキチンとやっているだろうという人任せな社風が合わさったことも今回の過大配当の原因であろう。ネット上では離職率が高いというウワサもある。人材が定着せず、教育が進んでいないのだろうか。
9 再発防止策
報告書ではキチンと社員教育をしよう、ということとなっていたが、果たしてそれは如何なものかと思う。
分配可能額自体は会社法独自の概念であり、剰余金とは異なるものである。法律、会計、税務等のいろいろな分野に精通していなければならない。すべてに精通したスーパーマンはそうはいないであろう。そんな人が社内にいればもっと、別のことをさせたほうがいいに決まっている。
分配可能額の理解はとても難しいが、正しい算定方法さえ知っていれば、誰が行っても同額が求められる。
こんなときこそコンピューターの出番である。会社の財務諸表とリンクさせた会計システムを導入し、剰余金や分配可能額等の細かい計算を機械に任せればいい。「AIに仕事を奪われる」ということを言う人もいるが、そもそも分配可能額の計算は人が手計算で求めるべきようなものではない。機械任せでいいのだ。
IT企業であれば、この程度のシステムを開発することは容易だろう。ただ、これまでは需要が低かったから商業ベースでの開発はなかったかもしれないが、ニデ社の過大は過大配当を受けて需要が増えるかもしれない。
ITに強い会社であれば自前で開発してしまうかもしれない。この手のシステムは利益を生むものではなく、費用の節減になるとも言い難いものだったので、開発・導入に消極的な会社もあったかもしれないが、これまたニデ社の過大は過大配当を受けて必要性を感じて開発する会社が増えるかもしれない。
ニデ社ではこのようなシステムはなかったようである。今後はこのようなシステムを導入することが再発防止策であろう。
10 取締役の責任
報告書によれば法令に違反した剰余金の配当をした取締役の刑事責任を定めた963条は、故意が認められないので成立しない。また会社へのてん補責任を規定した462条も「職務を行うについて注意を怠らなかった」ので、責任を負わないとしている。
それでは「取締役は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定する会社法423条はどうであろうか。
そもそも生じた損害というものがイマイチ観念できないので責任を負うことはないだろう。
なにか腑に落ちないものの現実的にはこんなもんであろう。
本当の意味での責任は、次の改選期に再任されるか否かで問われる。
11 報告書の評価
さて、本報告書を読んでいるとある1人の人物が度々登場している。「取締役会会長」である。ネット上の情報によればこの会長が創業者であり、一代で日本を代表するメーカーにまで育てた人のようだ。かなりアクの強い人のようだが、技術者としても経営者としてもとても有能な人なのであろう。報告書によれば「会長の指示により~」や「会長に確認を求めて~」などと、ことあることに会長が登場している。2022年からの狂ったような自己株式の取得も会長の指示のようである。あたかも会長のワンマンや独断で突っ走っていたような雰囲気である。
しかし、法令違反となる剰余金の処分であるということを知りつつも会長がゴリ押したとはなっていない。
つまり、狂ったような自己株式の取得は会長の意向ではあるが、今回の過大配当の直接の原因ではない。なにか中途半端な感じがしてしまう。このあたりをもう少し追求してもいいのではないだろうか。
また、取締役に責任がないとした点も疑問である。実害らしい実害はないとはいえ、責任の有無を決めるのは報告書ではなく、株主や債権者、最終的には裁判所が決めることである。社内の体制はヒドいものだったが、最終的には取締役に責任なし、というのはこのての報告書ではたまに見かけるものである。これでは「御用報告書」である。
しかもこの程度の内容であれば、わざわざ外部の弁護士に調査を依頼せずとも、社内調査で十分判明することである。原因や再発防止策などは第三者に指摘されるまでもないことだが、第三者に指摘してもらうという形をとれば、世間体もいいだろうという考えが透けて見える。再発防止についてのやる気に疑問が生じる。
11 会計監査人の責任
ニデ社は会計監査人設置会社である。ということはニデ社の財務諸表は公認会計士または監査法人の監査を経ているハズである。PwC京都監査法人という監査法人(P監査法人とする)が会計監査人であったようである。P監査法人はこの「分配可能額?なにそれおいしいの?」状態で進められた自己株式の取得に何の注意喚起もしなかったのだろうか?
これは大いに疑問である。確かに分配可能額の理解や実際の計算はとても難しい。これまで書いてきたようにニデ社の社員の理解の不十分は致し方ないともいえる。それほど分配可能額は難しい。
しかし、監査法人は会計のプロである。分配可能額ということをしならないはずがない。
なぜ、P監査法人はこの問題をスルーしてしまったのだろうか?
この点について報告書はあまり触れていない。どうやら調査をしようとしたところ、「会計監査人の監査の独立性」を理由に回答を拒否されたようである。
ニデ社の側から自己株式の取得(とその財源)についての相談や照会はなされていないようである。分配可能額ということを知らないのだから、相談や照会などするハズがないのだが。
訊かれなかったから答えなかった、ということであろうか?いかに「監査の独立性」といっても会計監査人は会社の機関である。会社が法令違反に突っ走っているものをただ、指をくわえて黙っているということはあり得ない。会社からみれば安くはない監査報酬を支払っているのだからキチンとアドバイスしてほしいだろう。財務諸表に問題なしのお墨付きを与えているのだから尚更である。
ネット上に会長のインタビューが掲載されていたが、ここで会長は会計監査人への恨み節をブチまけている。
企業法務や会計に詳しい弁護士のインタビューも掲載されており、それによればこのP監査法人のスルーには大いに疑問ありとしていた。
自己株式の取得を勧めたりすることはコンサル業務ともいえなくもないので、「会計監査人の監査の独立性」の観点からは問題があると思う。しかし、財源規制無視の法令違反状態で進められていることに待ったをかけることはコンサル業務ではないだろう。
おそらくは見落としていたのであろう。まさか上場企業の社員の誰もが分配可能額ということを知らないとはあり得ないと思い込み、分配可能額違反で自己株式取得が行われているとは夢にも思わなかったのであろう。ニデ社内でキチンとチェック機能が働いていると思い込んだのであろう。
他にもチェックしなければならない事項は山ほどあるのだから、細かい点はいちいちチェックしてられない、ということでもあろう。
P監査法人としては言いたいこともあるだろうが、調査に応じなければどれほど好き勝手に言われても文句は言えまい。
ただし、この頁はP監査法人の責任追及が目的ではないので、同法人に何らかの行政処分がなされたのかやニデ社との監査契約を打ち切られたのかは追及しない。
12 おわりに
分配可能額違反の配当、と聞いて当初はものすごく複雑な分配可能額の加算減項目のどれかを見落としたのかと思っていたのだが、実際は初歩中の初歩のミスであった。この点からニデ社には同情することはできない。
それでも剰余金や分配可能額は難しいのだが。
実のところ剰余金や分配可能額は司法書士の実務とは関連が薄い。登記事項とは直接関係がないからである。規定振りはあまりにも複雑であることから資格試験でもほとんど問われない。だからといっておろそかにしていると今回のニデ社のようなことになりかねない。
業務とは関わりがないことといっても、会社法に規定されていることである。会社法や商業登記の専門家を標榜するのであれば、こういったことについても見識や理解を含めておくべきであろうと自戒の念をこめて終わりとする。なお、分配可能額の詳細は後日詳しく取りあげたい。
いつも以上に長くなってしまったが、最後までお付き合いいただき誠に感謝!感謝!
では。
