予選 ビッグモーター事件1
2023/8/09 水曜日
この頁では世間で騒がれているビッグモーター社のやらかしの紹介とは一線を画して令和5年7月25日開催された同社の取締役会での代表取締役の人事についての分析を行う。
まずは役員の予選ということを抜きには語れないので、役員の予選から。
役員の予選とは役員の任期満了に備えて、同役員の任期満了前に次の役員を選任することと説明される。役員の任期満了直後に株主総会を開催することが困難な会社で採られる手法である。具体例で説明してみる。
B社の取締役である「美具茂太」の任期は令和5年7月15日までである。そうであればB社は7月15日以降に株主総会を開催して「美具茂太」の後任である取締役を選任しなければならない。(定員に問題がなければ選任しなくてもいいこともあるが、ここでは選任が義務と仮定する)なお、本頁でいう「美具茂太」という名前に得に意味はない。
ところがB社の株主は全国各地にたくさん点在しており、株主総会開催のために全国各地から株主を招集することはとても困難である。6月に定時株主総会を開催したが、全国各地にたくさんいる株主に出席を呼びかけまたは委任状の提出を促すことで既にB社は青息吐息であり、とてもではないが再度株主総会を開催するだけの人的余力がない。
そこでやっとのことで開催した6月の定時株主総会で7月15日に任期満了で退任する「美具茂太」の後任として「後留布殴太」を7月16日以降の取締役として選任しておくことが役員の予選である。なお「後留布殴太=ゴルフボールで殴る」という名前に得に意味はない。
このように株主総会を頻繁に開催することが困難な会社ではとても便利な制度ではあるが、こんな便利でしかも法令に規定のない制度が無制限に認められるのだろうか?
極端なハナシ、1回の株主総会で取締役を選任するとともにこの者が任期満了した後の後任まで選任してしまうこともできてしまう。
当然、こんな都合のいいことが可能なはずがなく、登記実務では効力発生時の1ヶ月前くらいまでであれば予選は可能と解されている。(昭和41年1月20日民甲251号)
何故1ヶ月くらいならOKなのかについては理論的な説明はされていない。本先例は1ヶ月以内ならOK、これを超えるとOUTである、としているのではなく、1ヶ月以内くらいで予選をした事例を「合理的である」としたまでである。発出当時から現在まで期間云々とする論調が強かったようだが、あくまでも合理性に求めるべきであり、期間はあくまでも合理性の有無の判断材料の1つにすぎない。
ところで予選というのは株主総会の決議に条件や期限を付すことといわれる。本先例の発出前から株主総会の決議に条件や期限を付すことは可能とされていた。なので、本先例発出以前から役員の予選は可能であったハズである。本先例により予選が可能となったわけではない。
ところが、予選は会社にとってとても都合のいいものであり、しかも法令に根拠があるものではない。そんなことからか、「いかに株主総会決議に条件や期限を付すことが許容されるといっても、要件や手続が明確に定められた補欠予選以外の場合には当該条件または期限に合理性(予選の合理性)が認められるか否かについて実質的な判断を要し、役員の選任にかかる登記申請等の場面において当該選任決議の有効性について争いの生ずる余地があることに留意すべきであるとされる(登記情報547号37頁)」という意見もある。原文を見つけることができなかったので本旨から反れていないかどうかは分からない。
これらを整理すると・・・。
予選というものは株主総会決議に条件や期限を付すことであるから、原則として容認されて然るべきである。しかし無制限に認められるべきものではなく、あくまでも合理性が認められる範囲でのみ容認されるものである。そしてその具体例の1つが昭和41年先例である。他の人はどうかは知らないが当事務所はこのように考える。
ところが、会社法施行により予選の位置づけが大きく変わってしまった。会社法では役員の任期は総会終結型がデフォルトとなった。つまり役員が任期満了により退任するということは必ず株主総会が開催されていることとなる。昭和41年当時ではデフォルトだった確定型任期(選任時から2年という定め方の任期)であれば取締役の任期満了時と株主総会の開催時期とは無関係であったので、任期満了に備えて予選をしておくということには一定の合理性や需要はあった。
しかし、総会終結型では任期満了前に株主総会を開催しておきたいという需要や前提が崩れてしまう。かくして本先例はほとんど意味をなさないものと成り果てた。本先例の意義はせいぜい予選には合理性が必要ということくらいであろう。そして本先例の唯一生き残ったこの部分が多くの予選を否定することになる。具体例で見てみる。
①任期満了
取締役の美具茂太の任期は令和5年6月の定時株主総会までである。令和5年5月にわざわざ臨時株主総会を開催して来月6月に退任することとなる美具茂太の後任として後留布殴太を予選する必要はない。6月に定時株主総会で選任すればすむことである。合理性のカケラもない。
②任期満了以外
取締役の美具茂太の任期は令和5年6月の定時株主総会を経た7月以降に辞任または辞任以外の理由(欠格事由に該当)で退任することが判明している。なので、それに備えて6月の定時株主総会で後留布殴太を予選するということである。
7月以降に辞めることが分かっているのであれば予選などせずに、6月の定時株主総会選任すれば済むことである。なのでこの場合にも合理性は見出せない。
もしかしたら任期途中で辞めてしまうかもしれないという懸念があるのであれば、補欠予選(329条3項)でもいいだろう。補欠予選とは予選とは異なる制度であって法令上の根拠もあるし要件効果もキチンとしている。
かくして取締役や監査役の予選はほぼ無意味となってしまった。せいぜい任期途中の辞任のときや合併のときくらいしか活用の途がない。大企業の子会社であればコレでも十分かもしれないが。
合併の場合とは合併の効力発生と同時に役員を追加するような場合(これは結構多いだろう)に6月の定時株主総会で翌年1月1日を効力発生とする合併の承認決議の際に同日付での役員の選任を行うことである。これは問題なく合理性ありと判断されるだろうし、実例も多いだろう。
任期途中の辞任は今回のように企業不祥事などの引責辞任のような異常事態である。滅多にない。不祥事による敗戦処理が7月31日にある程度目処が立つので、同日付で辞任するが、その前の7月15日の株主総会で8月1日からの後任を先任するような場合である。
これらの場合は予選の合理性が必要となる。ここでいう合理性とは期間云々ではなく予選の効力発生時とした日以降には株主総会を開催することが困難ということである。登記申請の添付書類からは合理性の有無を判断しかねるので、事前に法務局にネゴっておくべきである。
ただし、代表取締役に関してはこの予選を論じる価値があるので、次の頁では代表取締役の予選についてである。
では。
