予選 ビッグモーター事件3
2023/8/12 土曜日
この頁では令和5年7月25日にビッグモーター社(以下「ビモ社」という。)から発表されたプレスリリースである「2023年7月25日付インフォメーション(以下「プレスリリース」という。)」の記載から同社の取締役会の決議内容を検証する。7月25日といえば同社のいろいろなやらかしが連日報道され、大炎上していた真っ最中である。
このプレスリリースは一般向けのものであるためか、会社法や商業登記に携わる者からしてみると、内容が不十分である。推測を入れずにあくまでも書いてあることだけを整理すると以下のとおりである。
まず登場人物は4名。A、B、C、Dである。
Aはビモ社の代表取締役であり創業者でもある。記者会見での「ゴルフを愛する者への冒涜」という発言がクローズアップされた人物である。
BはAの引責辞任により新たに社長となった人物である。この人もよくテレビで見かける。
火中の栗をわしづかみしている人である。
Cは副社長でありAの子である。この人物のパワハラともいうべき発言がネット上を中心にいろいろと展開されている。一番の渦中の人物ではないだろうか。
DはCの後任の副社長である。
プレスリリースの記載だけを見るとビモ社の代表取締役はAだけのように見える。非上場ではあるが、売上規模は大企業そのものであり、会社上の大会社でもあるので、代表取締役が複数いても不思議ではないのだが、どうやらAだけである。ここではAだけと仮定する。
一連の不祥事を受けてAC親子の辞任は不可避となったのだが、この代表取締役の交代はどのように決議がなされ、どのような登記申請がなされたのだろうか。
ビモ社の取締役会は7月25日に開催されている。ここではプレスリリースの記載だけを盲信して7月25日だけであり、7月26日には開催されていないと仮定する。
7月25日の取締役会でBを代表取締役に選定した。7月26日付なので予選である。
一方で取締役会に先立ちAとCは7月26日付で辞任の意思を表明した。
7月26日付で選定(就任)ということは7月26日0時0分に選定の効力が発生する。
7月26日付で辞任ということは7月26日0時0分に辞任の効力が発生する。
予選は予選の前後を通じて取締役に変動があってはならない。AとCはBが就任する7月26日0時0分時点では取締役の地位に就いていなければならない。
要するにこの問題は辞任の効力発生と予選の効力発生が同時のときにも取締役に変動がないと評価できるかということである。前回書いたように予選時の取締役A、B、C、効力発生時にはA、Bという場合は取締役に変動がない≒代表取締役の予選は可能、とするのであればこの問題は生じない。果たして予選の効力発生と辞任の効力発生が同時という場合の代表取締役就任は有効であり、その旨の登記申請は受理されるのか?
仮にこの方法が否定されるとビモ社の代表取締役の交代はどのようにして行われたのか?
いくつかの仮説をあげてみる。
仮説1 Bも代表取締役だった
代表取締役と社長は必ずしも一致しない。取締役や代表取締役は会社法が定める会社の機関であるのに対して社長や専務は慣習上の社内での役職や肩書きである。代表取締役である者の役職や肩書きが社長であることが多いが、コレに限られない。平取締役が社長ということも、代表取締役が専務ということもある。
社長や専務を取締役会の決議で決定することが多いだろう。AもBも代表取締役であったが、Aは代表取締役で社長、Bは代表取締役で専務だったところ、7月25日の取締役会はBを社長とする決議をするだけだったということである。
プレスリリースの記載からは代表取締役だったのはAだけのようにも読めるので、この仮説は可能性が低いかもしれない。
仮説2 代表取締役だけを辞任
Aが辞任したのは代表取締役だけであり、引き続き取締役としては残り続けるというものである。これであれば予選の前後を通じて取締役に変動はない。
しかしこれもプレスリリースはAが引き続き取締役として残るというようには読めない。
そもそも、あれだけやらかした会社の社長の引責辞任なのであるから、取締役としては残り続け、(大株主として)取締役会に影響力を残すなんてことが世間様に許されるはずがない。なのでこの仮説も可能性が低い。
仮説3 取締役会が2回あった
7月26日になり、AとCが辞任した後に再び取締役会を開催し、ここでBを代表取締役に選定したというものである。これであれば予選とはならないので、Bの代表取締役選定は無問題である。
しかしこれもプレスリリースの記載によれば取締役会は7月25日とあり、翌日も開催したとは書いていない。大企業であれば取締役会を何度も何度も開催することは難しい。まぁ、会社の非常事態なので取締役が本社に詰めていたということもあるだろうが。
しかしこれではBが7月26日付=7月26日0時0分に就任はできない。
そもそも7月25日の取締役会では何を決議したのだろうか?
なのでこの仮説は一番可能性が低い。
本頁はビモ社の登記事項証明書を見ないで書いている。登記事項証明書をみれば答えは分かるかもしれない。この頁を書いている最中(8月7日)は今回の役員変更の登記が審査中なのか、取り寄せることができない。なので次の頁ではビモ社の登記事項証明書が取得可能になった後にこれを取り寄せて、プレスリリースと付き合わせて答え合わせをしてみる。
では。
