テレビ電話等による本人確認情報1
2023/8/28 月曜日
この頁では本人確認情報について日本司法書士会連合会(日司連)が法務省に行った照会(令和5年3月22日日司連発第2036号)とその回答を検討する。以降この照会と回答をあわせて「本照会」という。
本人確認情報とは何かということはこの頁では深くは触れないが、不動産登記申請において登記識別情報を提供することができないときの代替手段であり、ザックリといえば司法書士が自身の依頼者が登記義務者に間違いなく、なりすまし等ではないということの調査を行い、登記官がこれを相当と認めれば登記識別情報を提供しなくてもいいということである。
本人確認情報には司法書士が依頼者である登記申請人(登記義務者)と面談した日時と場所を記載することになっている。この面談の方法には直接会うこと(以下「直接面談」という。)が当然であるとされていたが、コロちゃん以降テレビ会議やウェブ会議が急速に普及したによりテレビ会議による面談(以下「テレ面」という。)の可否が議論されてきた。本照会は一定の条件の下、テレ面を肯定し、一応の解決を示したことになる。
本照会で日司連が示したテレ面を肯定する要件を紹介する。
①テレ面であっても直接面談と変わらない意思の疎通ができる状態であること
②申請人が入院している病院や入居している介護施設(以下「施設等という。)から直接面談ではなくテレ面で実施する旨の要請があること
③司法書士は施設等内でテレ面を行うこと
④申請人と面識がない場合の申請人の身分証明書はテレ面前に提示を受けておくこと
⑤申請人の親族または施設等の職員がテレ面に同席すること
⑥テレ面で行うことに合理的な理由があること
それでは1つ1つ検討していく。それぞれの問題点はその後に。
まず①から。これは「前提」としているが、要件の1つであろう。通信環境に支障があってはならないということであろう。
次に②について。素直に読むと施設等に申請人との直接面談を申し込んだところ、直接面談を拒否され、代替手段としてのテレ面であればOKという回答がなされたことである。
次に③について。テレ面を行う場所である。申請人は施設等内で行うということは当然だが、なんと司法書士も施設等に赴くということである。
次に④について。直接面談では面談の直前や最中に提示を受けるのだが、テレ面ではコレができないので、テレ面前に提示を受けるということである。
次に⑤について。親族や施設等関係者にテレ面に立ち会わせ、パソコンの画面に映し出された人物が申請人その人であるという証言をさせ、これを本人確認情報の内容とするということである。
最後に⑥について。これは独自の要件というよりも②とほぼ同じであり、本人確認情報の必須記載事項ということであろう。
ここからは各要件の問題点等を指摘する。滅多に起きるようなことではなかったり、事実上はほとんど障害とはならないこともあるが、指針を示すということはこのようなマイナー論点にも目を向けるべきという私なりの日司連へのメッセージでもある。
まず①の要件の問題点から。
問題は通信環境があまりよくないときである。私の経験上、施設等には独自のワイハイがあることが多いが、中にはあまり性能がよくないものもある。コロちゃん真っ最中のころに担当している成年後見事件の成年被後見人とテレ面を行ったことがあるが、通話が途切れ途切れになってしまい、挙げ句の果てには通信が切れてしまった。幸いにもすぐに復旧したが、このような場合に「直接面談と変わらない意思の疎通ができる状態」といえるのだろうか。
まぁ、ケースバイケースだし、個々の司法書士の判断ではあるが、何らかの指針を示しておいてほしいところだが、本照会は何も語っていない。
またグループホームなど小規模な施設等ではワイハイやテレ面のための設備が整っていないところもあるので、要注意である。
次に②の要件の問題点。
施設側から直接面談を拒否されるということは、大抵の場合医療上や介護上の必要がその理由であろう。本照会はコロちゃんがきっかけではあるが、それ以外の感染症や感染症以外でも施設側から直接面談を拒否されたのであればこの要件はクリアできるということであり、コロちゃん終息以降も本照会は活きてくるということである。
問題はあくまでも施設等側からの要請ということが必要であって、申請人の意向ではダメということである。申請人が遠方の施設にいるとか時間が合わないなどの理由だけではテレ面不可ということである。不動産売買の決済をズームなどを用いて行うということも耳にしたことがあるし、経験したことのある司法書士もいるだろう。ズーム決済と勝手に呼ばせともらうが、その善し悪しはともかくとして、普及しつつある新しい方法に完全に目を背けているとも評価できる。はたまた不動産決済は対面が原則であるというメッセージなのだろうか。いずれにしても世の中の流れに逆行している。
また、施設等側からの要請ということは申請人が施設等に入院・入居しているということが前提であり、そうだとするとコロちゃん禍のときになにかと話題になった自宅待機・自宅療養中ではテレ面不可ということである。一時期入院できずにやむを得ず自宅療養ということが騒がれていた。再び感染が大流行すれば自宅療養者のほうが圧倒的に多いハズである。
本照会では集団感染予防といっておきながら、申請人がどこにいるかということで区別していることになる。ところがこの違いや理由については何も触れていない。自宅療養は法律上の義務ではないということが根拠であろうか?自宅待機は義務ではないので、どこかで直接面談せよということであろうか。それでも自宅待機しないヤツは悪という風潮ではあったが。今後コロちゃんが流行しても自宅待機は求めないということを少なくとも法務省が認めたのだろうか。いずれにしても、この点については議論不足を感じる。
次に③の要件の問題点。これは大いに疑問である。なぜ司法書士が施設等に赴く必要があるのか?何のためのテレ面なのか?不測の事態に備えたり、身分証明書の提示を受けるために施設等に赴くことに合理性はあるが、これはあくまでも事実上の問題である。司法書士が施設等に赴くことの絶対的な必要性ではない。いずれも代替手段はあるだろうし、施設等の近くに事務所がある場合であれば、ほとんど支障はない。
また「施設等内」の定義も曖昧である。同じ建物内ということであろうか。大きな病院であれば同一敷地内に病棟がいくつもあることもある。これらの病棟がかなり離れていることもある。指針といえどもある程度の基準を示してほしいところだ。本照会に関わった者たちの想像力の程度はあまり高くはないのだろうか。
そもそも資格者代理人による本人確認情報の提供を規定した条文の文言からは上記①から⑤の要件は導き出すことはできない。かなりの政策的な解釈である。この③の要件はどのような思想に基づき、本照会における要件の1つとされたのであろうか。
ところで本照会は令和5年3月22日に日司連から法務省に照会がなされ、同月30日には回答がなされている。年度末にもかかわらずかなりのスピード回答である。これはおそらく本照会の起案の段階から法務省と調整していたことが予想される。本照会の要旨は現場の必要性(司法書士側の思惑)と法の理念(法務省側の思惑)の妥協産物ということは理解できる。
本来、本人確認情報は直接面談など極めて厳格な要件の下行われるべきではあるが、未曾有のコロちゃんということで、どこまで要件を緩和できるかということである。この要件はその折衷であることは理解できる。だからこそ、この要件を持ち出したのは司法書士会側か法務省側か、ということが気になる。
だがしかし。この③要件には大いに疑問ではあるが、事実上はほとんど問題とならないと思う。私の経験上施設等でのテレ面は施設等側のパソコンやワイハイを用いることがほとんどであるからである。外部のパソコンと施設等側のパソコンの接続を極度に嫌う。なのでテレ面は施設等に赴くことが必須となる。介護施設に入所している親族とのテレ面を当該介護施設の別部屋で行ったということがテレビなどで報道されていたこともある。あんな感じになるのであろう。
ところで、どこの施設等も常に人手不足で運営されている。テレ面は事前準備に時間がかかる。なのでテレ面は施設等側からは嫌がられる。よほどの事情がない限りテレ面すら許されない。許可されてもほとんどが予約制である。突然行ってテレ面を申し入れても断られるので、事前に日程調整等の準備をキチンと行うべきである。本照会の起案者はこういった事情に基づき起案したのだろうか。
次に④の要件の問題点。
私が行ったことのあるテレ面は施設等内の隣の部屋である。大きな声であれば直接聞こえるような距離である。この場合であれば身分証明書の提示はテレ面の最中でも問題なないと思う。あくまでもテレ面後では遅いということであろう。実際は施設等に赴き、テレ面直前に職員等を介して提示を受けることとなるであろう。なのでこの④要件も事実上はほとんど問題とならない。
次に⑤の要件の問題点。
直接面談であれば、親族や施設等職員の同席は要件ではない。まぁ、事実上親族が立ち会うことはあるであろうが。テレ面に限り同席が必要とする理由は見出せない。テレ面に限り第三者に本人に相違ない旨を証言させる必要性はない。「画面に映し出されたのは私の父です」と直接面談の場で「こちらが私の父です」に差はない。もっと言ってしまえば、直接面談でも第三者に本人に相違ない旨を証言させる必要性はある。
また、この親族の属性も気になる。この親族が登記権利者となるような場合に利益相反の問題はないのだろうか。あくまでも本人であるか否かの事実上の確認なので利益相反は問題とならないのであろうか。そうであれば親族や施設等職員以外の者、極端なハナシ登記権利者や仲介業者でもいいのではないだろうか。これららの者は申請人とは既に面識があるであろう。本人に間違いないかの確認はできるハズである。本人である旨の証言者を親族や施設等職員に限定する意味が分からない。
そして、司法書士は施設等に赴かなければならないのに対して、親族等は外部からでもいいとする理由も見出せない。まぁ、これは施設等が拒否するので親族等も施設等に行く必要はあるだろうが。
また、先に述べた人手不足の観点から、施設等職員が立ち会うことは希である。というか嫌がる。ましてや不動産売買というプライベートなことである。普通は立ち会うことはない。施設等職員が積極的に立ち会うのは医療や介護に直接必要があるときくらいである。
なので、施設等職員に立ち会いを求めるのであれば、これも事前に調整しておくべきである。
最後に⑥の要件の問題点。これはほとんど問題とならない。②の要件を本人確認情報に上手く記載すればいいだけである。これを本人確認情報の内容としなければならないということは、テレ面が例外であるという意識が垣間見える。介護施設では直接面談禁止の旨を書面で親族に通知することもある。実際はチラシ程度の内容だが、こういった書面が手にはいるのであれば、これを本人確認情報の添付書類としてもいいかもしれない。
以上、長々と書いてきたのでここらで本照会の良かった点とザンネンな点をあげてみる。
良かった点
①極めて限定的ではあるが、テレ面が可能な場合とその要件を明示したこと
②記載例を示したこと
③誤字脱字がないこと(これには感動した!)
ザンネンな点
①各要件の詳細は検討がほとんどなされていない
②親族とは異なり司法書士は施設に赴く必要があることの理論上の説明がない
③親族や施設等職員の同席が必要であることの理論上の説明がない
④医療機関や介護施設の現場の現状や常識についての認識が欠如していること
そしてもっとも、ザンネンな点は「今更?」である。日司連なので、担当者は全国から集まってくる。会議体を開くのも一苦労である。テレ面の検討なんだからズームだったのかな?とにかく本照会までに時間がかかることは理解できる。しかし本照会がなされた頃は既に5類へ移行することが決まっていた頃である。世の中はアフターコロちゃんに向けて動き出そうとしているときに、集団感染予防の観点からのテレ面を打ち出しても既に時遅しである。活用の途は全くないわけではないので、全くの無意味ではないが、時期の逸脱っぷりにはあきれてしまう。私は日司連は動きが遅い、だからこそ早め早めに動き出すと考えている。コロちゃんは降って湧いたような物だから仕方がないとはいえ、やはり今更感は拭えない。
それと、もう一つザンネンな点としてあげれば、実態についての言及がない。本照会以前に本人確認情報を作成のための面会をテレ面で実施したケースはどれくらいあったのか、それらの登記申請が受理されたのか否かなどの数字やデータがない。実態把握をせずに、本照会まで突っ走ったのか?それとも実態把握の調査を実施していたのを私が見落としていただけか。
そして究極にザンネンな点がある。それは司法書士が業務を行う際の本人確認・意思確認の際の面談をテレ面で行う事の可否についての言及がないことである。次の頁では会則上の本人確認・意思確認とテレ面について検討する。
では。
