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ダイナムの会社分割2-パチンコ業界最王手の生き残り戦略

2023/12/16 土曜日

この頁ではダイナムと敬愛の間で締結された吸収分割契約を見ていく。
もっとも手元に吸収分割契約書があるわけではないので、公表されている情報のみを基にした推測となってしまうのでその点はご了解いただきたい。

吸収分割契約の核となるのは、①当事会社、②会社分割の対象となる事業、③対価、④効力発生日とその条件くらいであろうから、これらを見ていく。

1 当事会社
 分割会社は株式会社敬愛、承継会社は株式会社ダイナムである。ところでダイナムは株式会社ダイナムジャパンホールディングスの完全子会社である。そしてこの完全親会社であるダイナムジャパンホールディングスが香港証券取引所に上場しているので、ダイナムは国内で唯一の上場企業パチ屋といわれている。このダイナムジャパンホールディングスが香港証券取引所のルールに基づき発表しているプレスリリース(2023年6月1日)に気になる記載があったので紹介する。

 なお、このプレスリリース自体、英語または中国語で作成されているのだろうが、これを翻訳したものがダイナムのホームページに掲載されているのだが、粗悪な翻訳サイトによるものなのか、日本語としてオカシイ部分が随所にある。

 その気になる記載というのは、「当社取締役が知る限り敬愛とその実質的所有者は当社および当社の関連当事者から独立した第三者」というものである。
 
 これは何を意味するのか?いわゆる「共通支配下」ではない「支配取得」ということだろうか。「当社取締役が知る限り」というのはなにかの免責のためのなんだろうか?
香港証券取引所には「当社(ダイナム)から独立していない第三者」との企業結合である会社分割には何らかの制限があるのだろうか?それともなにかの決まり文句なんだろうか。いずれにしても不可解な記載である。

2 会社分割の対象となる事業
 会社分割では「分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務」を定めるのだが、これは結構バラエティに富んだ定め方がされている。現場で知恵を絞り出していることが感じ取れる。いろいろな実例を見ておくと自社の会社分割のときに役立つかも知れない。中には「事業」とはいえないようなものが会社分割の対象となっているものもある。

 今回はダイナムが敬愛の運営する店舗のうち5店舗を買い取ることがその内容である。
分割会社が営む複数の事業の一つの一部分である。もちろんこういったものを対象とする会社分割自体は可能である。

 さて、これをどのように表現するかであるが、債権者異議申述公告によれば「分割会社の以下の遊技場の経営事業に関する権利義務」として、具体的な店舗の所在や屋号を示している。
これは事業単位の会社分割ではなく、同一事業の店舗単位の会社分割のときに参考になる記載例であろう。同業他社の全部の買収ではなく一部の買収のときにも参考になる。
他のパチ屋の会社分割でも用いられているかも。

 会社分割では労働者との労働契約承継も行われるが、労働者保護の観点から「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」というものがある。
今回の会社分割では従業員の労働契約の承継はあるだろう。パチンコ業界も人手不足である。ダイナムとしては貴重な労働力はそのまま受け継ぎたいところであろう。
パチ屋の従業員はパートアルバイトが多いと思うが、パートアルバイトも同法の対象となるのだろうか。それとも同法には基づかずに労働契約の承継をしたのだろうか。いずれにしてもダイナムは敬愛と同程度の条件で労働契約を承継したのであろう。

3 対価
 会社分割では対価が承継会社から分割会社に交付される。分割会社の株主に交付することもあるようだが、今回は分割会社自身に交付されるているものとして考える。
株式が交付されることや同一企業グループ内では対価なしということが多いようであるが、今回の会社分割では対価はおそらくというか間違いなく金銭であろう。ダイナムも敬愛もお互いに資本関係を築く意図ではないだろうし、完全子会社が親会社以外に株式を交付・割り当てることはないから、株式が対価ということはあり得ない。

 なおプレスリリースには、対価決定は「独立した第三者による交渉」とあるがこれは何を意味するのか?店舗売買の代金なんだから互いの利害がもろに衝突するのが普通である。独立した第三者が決めるものだろうか?そもそもパチ屋の適正・公正な価値なんて誰が分かるんだろう?

 ダイナムは今後も他社のパチ屋を買収するつもりなのでいわば店舗の買取価格である。企業秘密である。なのでこれはプレスリリースでも事前開示でも公表できないであろう。とても気になるものではある。
 
 対価として金銭を交付する場合は会社分割契約書に「当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法」を定める必要がある。総額で定めるのか1店舗あたりの額を定めるのか、はたまた売上等に基づく算定方法か?買収で確定額を定めないということはないだろうから総額または1店舗あたりだろう。事前開示などの相当性はどのように記載したのか?これもとても気になる。財務諸表の読み込みや株主に提供される資料の閲覧などで詳細が分かるかも知れないが、本頁ではそこまでやるつもりはない。

4 効力発生日とその条件
 効力発生日は7月31日である。今回は会社分割のうちの吸収分割である。通常は月初を効力発生日とするハズである。会社分割の結果を当期の決算に反映させたいなどの事情があれば効力発生日を月末などに定めることはあるようなので、ダイナムまたは敬愛の決算に反映させたかったのか。それとも次に述べる風営法上の承継承認の日と関係があるのか?いずれにしても月初が効力発生日となっていないのは珍しいのではないだろうか。

 また、プレスリリースによれば今回の会社分割では風営法上の承継承認がなされることを条件としてる。パチ屋の売買なので風営法の許可や届出などによる承認が必要ではあろうから、これを条件とすることは理解できる。しかし企業再編等の契約に付す条件は一般的には解除条件とするようだが、(親子兄弟会社の組織再編の実務 191頁)今回は停止条件としている。実際の吸収分割契約では解除条件としているかもしれないが、これも珍しいのではないだろうか。

 風営法上の承継承認は会社分割の効力発生前までになされる必要があるようだ。プレスリリースの段階にはまだ承継承認はなされていないのだろう。既に承継承認がなされていれば条件付きであることをことさら強調する必要はないハズだ。
 承継承認は効力発生前までになされる必要があるといのはキツい。いつになるか分からない承認を見越して効力発生日を決めるということになる。ダイナムとしては効力発生して即営業開始としたいところである。承継承認→効力発生(営業開始)のタイムラグをなるべく短くしたいところである。
 会社法の手続や制度には先に効力発生日を定めてからその日までの期間に各手続を履践していくということがある。ゴールありきの手続である。この各手続のうちに第三者の許可などがあるとその期間内に当該許可等が得られないとすべての手続が水泡に帰してしまう。今回の会社分割でもっとも神経を使ったところであったのであろう。

5 契約日
 契約日は令和5年6月1日であろうか。プレスリリースによれば親会社であるダイナムジャパンホールディングスが子会社であるダイナムが締結した吸収分割契約を承認した日が令和5年6月1日のようである。親会社の承認は効力発生要件ではないのだが、令和5年6月1日が締結日であろう。
 吸収分割契約書は1通だけ作成して一方が原本保管して他方が写しを保管、とはいかないだろうから2通作成し双方に印紙4万円を貼る。合併契約書や吸収分割契約書は定款のような会社法26条2項に相当する規定が見当たらないので、電子化はできないのだろうか。設立時の定款作成ほど件数が多いわけではないので立法化はだいぶ先かもしれない。

これで吸収分割契約は締結された。次の頁ではその他の手続を見ていく。

では。