元成年後見人(現相続財産管理人)による供託1
2024/2/13 火曜日
久々の投稿。今回は成年後見についてのハナシ。
成年後見人としての業務は成年被後見人が死亡するまで続く。成年被後見人が死亡すれば、管理していた成年被後見人(以下「被相続人」という。)の財産は相続人に帰属する。これは民法の一般原則どおりである。
しかし、なかには相続人が成年後見人であった者から被相続人の財産を引き継ぐことに応じないことがある。
本頁ではこういった場合を考えてみる。また、令和5年4月1日施行の改正家事事件手続法に基づく供託についても言及する。
1 引継ぎ困難
そもそも相続人が成年後見人であった者から被相続人の財産を引き継ぐことに応じないとは一体どういうことであろうか。実際に成年後見業務を担当してみないとなかなか理解しにくいかもしれない。実際には以下の理由が考えられる。
①相続人間の遺産分割を巡る争いが継続中
②相続人の数が多すぎて遺産分割の目処が立たず、結果として遺産分割を諦めてしまった
③遺産の額が僅少または管理に過大な費用を要する物(いわゆるクソ物件)がある
④生前の被相続人と交流がなく疎遠になっていたならまだしも、人間関係(いってしまえば親子や兄弟の仲)が嫌悪で、遺産分割を含めた葬儀や埋葬などの死後事務の一切に関わりを持とうとしない
だいたいこんなところである。①はそれほどは多くはないし、そもそも引継ぎということを観念することができないであろう。実際は②~④の複合パターンがほとんどである。かくして相続人から一切の関わりを拒否されるという事態になる。要するに引継ぎ拒否とは一切の関与を拒否されることといっていいだろう。
成年後見人が就任する以前から発生している問題なので、いかに成年後見人が頑張っても解決のしようがない。特に④などはヘタに介入してしまうと、かえって状況を悪くしてしまう。
このように親族間の関係が険悪な状態で後見事務が開始することはあるが、それはそういうものとして素直に受け入れるしかない。まぁ、それでもこういったケースはそれほどは多くはないので、それほど悲観することでもないし、②~④のいずれかに該当しても、死後事務には協力してくれる親族がいるというケースの方が多いのではないだろうか。
2 引継ぎとは
そもそも引継ぎとは何をするのか?東京家庭裁判所が示す書式では「単に引き継ぎました」だけである。この書式は相続人が署名押印するとあるが、特定遺贈の受遺者やその遺言執行者は念頭に置かれているのだろうか?
素直に読めば成年後見人が管理していた被相続人の遺産を相続人に引き渡すことであろう。これはこれでそのとおりなのだろうが、引き渡すべきものが何なのかがアヤシくなるものもある。
一般に遺産には現金、預金、動産、不動産、債権、有価証券等があるだろう。
現金や動産であれば素直に引き渡すということでいいのだが、現金つまり現ナマとして管理する(管理していた)ということがあるのだろうか。普通は預貯金としておくのではないだろうか。現金として管理するのは危険すぎるし、家庭裁判所もリーガルサポートも推奨していないどころか、高額な場合は厳禁である。現金なだけに厳禁である。小口現金の場合は少々問題となりうるが、預金に預け入れてしまうことが多いだろう。
動産には高価な物品、貴金属や美術品などが想定される。しかし、成年後見人が高価な物品を保管し続けているということはあまり聞いたことがない。在任中に売却して介護や医療の費用に充てることが多いだろう。
多くの場合は預貯金や不動産であろう。なので以後は遺産とは預貯金と不動産を念頭に置いて展開する。
①預貯金
預貯金は名義人死亡の事実を金融機関が知ることになると入出金停止の措置(凍結)がとられる。一部の例外はあるものの、相続人全員で凍結を解除して、相続人へ払い戻すことを請求する相続手続を取らない限り誰であろうと引き出すことも預け入れることもできなくなる。相続人の一部の者が自己の相続分に対応する額の払い戻しを請求しても金融機関は応じない。あくまでも相続人全員で請求しなければならない。
これは当然といえば当然なのだが、この金融機関での相続手続を行う際に、被相続人名義の預貯金口座の通帳は必要ない。通帳を紛失していても何らの問題なく相続手続ができる。つまり、相続人は被相続人名義の口座の通帳などなくても金融機関名、支店、口座番号等(以下「預金口座情報」という。)が判明していればいいのである。
成年後見人であった者は相続人に対して預金口座情報を知らせてやればいいだけである。関与を拒否するということは少なくとも相続人の有無やその連絡先などは判明しているハズである。
共同相続人の1人だけに預金口座情報を教えても当該相続人のみでは相続手続はできない。他の相続人へ連絡をとり、共同して相続手続をとるしかない。1人だけに教えたところで他の相続人の利益を害することはない。それでも機会の平等ということであれば各相続人へ預金口座情報を通知するべきだろう。
そこで当事務所では預貯金については以下の様に考える。
遺産が預貯金のみの場合はまず、口座を凍結しておく。相続人全員の住民票上の住所へ相続人死亡の旨、預金口座情報、相続人全員での相続手続を促す旨を通知する。配達証明や内容証明郵便等で行う必要はないだろうが、郵送できたかどうかの確認として簡易書留で行うことがいいだろう。
コレで足りると考えるべきである。通帳の現物の引渡しは不要である。ペーパーレス口座であればなおさらであろう
仮に郵送できなかった(あて所に尋ねなしで返送される)ことがあっても住民票上の住所地に居住していない方が悪いので、住所地への送付をもって機会の平等は確保できているであろう。善管注意義務を十分に尽くしていないという人もいるが、引継ぎに非協力的な相続人の利益を必要以上に重視する必要はない。遺産分割前に一部の相続人が勝手に処分することを手助けするようなこと(すべての預金を解約した現金を一部の相続人に全部交付するようなこと)がなければ善管注意義務は問題ない。
ところが、東京家庭裁判所後見センターや公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートは預貯金の引継ぎとは通帳の現物を引き渡すことと考えているようである。後見センターは「引継ぎ」という表現であり「引渡し」とは言っていない。かなりビミョーな表現であり含みがあるように見える。私は以前に遺産が預貯金のみであるときは上記の方法(相続人へ預金口座情報の通知)で足りるかを照会したところ、明確な回答はなかったが少なくとも肯定するものではなかった。
リーガルサポートは「引渡し」と言っていて、あくまでも通帳の現物を引き渡すことを求めている。家庭裁判所と歩調を合わせざるを得ないという事情はあるだろうが、何も考えていないようにしかみえない。
通帳の現物の引渡しにこだわると、複数のしかも対立関係にある相続人からの引渡しの要求がなされたときの対応に苦慮する。
相続人への引継ぎには成年後見人の支配下にある遺産の処分権を相続人へ移転させることに意義がある。成年後見は本人の死亡により終了し、これにより家庭裁判所の監督も及ばなくなる。これはあまりよろしくない状態である。なので早急に相続人が遺産の管理処分ができるようにすることが求められている。これが肝心である。相続人が遺産をどのように管理処分するのかは成年後見人であった者には関係ない。
通帳のみを相続人に引き渡したところで、遺産の処分権が相続人へ移転したとは言い切れない。もっとも、預金口座情報の通知のみでも遺産の処分権が移転したとはいえない。
つまり状況はほとんど変わらない。なので通帳の現物の引渡しが絶対的に優れているということではない。
しかし、実務では通帳の引渡しが必要とされている。なので、相続人が引渡しを拒否すれば二進も三進もいかなくなる。私が推す預金口座情報の通知はこういった事態の打開策でもある。
②不動産
当事務所では不動産については以下の様に考える。
不動産の引継ぎとは占有を移転させることである。権利証等の書類の引き渡しではない。
更地はこれを現実に占有しているということはほとんどないであろうから、遺産に更地があることを相続人へ通知すれば足りる。以後は相続人が当該更地を管理するなり処分すればいい。
建物は鍵の引き渡しであろう。鍵を引き渡し、建物内の動産と一括して占有を引き渡せば足りる。敷地も同様に考えられるので、建物の鍵の引き渡しをもってその敷地の引き渡しも完了したといえる。
賃貸借については少々異なる。貸している不動産は債権に準じて、賃貸に供している不動産があることを相続人へ通知すれば足りる。借りている不動産は鍵の引き渡しで足りる。
契約書等の引渡しは付随するにすぎず、本質ではない。
鍵も通帳と同じで、相相続人が引渡しを拒否すれば二進も三進もいかなくなる。
不動産は数ある財産のうち、維持管理に費用がかかるものである。相続人引継ぎをするまでの間のこれらの費用を誰が負担するのか、という問題がある。これが非常に頭が痛いことになる。
以上をまとめると、実務では預貯金も不動産も何らかの現物の引渡しが必要であり、これを拒まれると引継ぎ終了とはならず、半永久的に成年後見人の業務が事実上終了しない。
また、民法上は成年後見人の業務は終了していて、家庭裁判所の監督から離れてしまうのだが、その遺産は成年後見人であった者の管理下にある。監督者不在のままになってしまう。これは大きな問題であるとされている。
これらの問題を解決するための制度が相続財産管理人である。次の頁では相続財産管理人についてである。
では。
