元成年後見人(現相続財産管理人)による供託2
2024/2/24 土曜日
前回からの続き。
1 相続財産管理人とは
相続財産管理人というと民法第952条に基づく相続人不存在の場合の清算・国庫帰属事務を行うでお馴染みだが、令和5年4月1日施行の改正民法により「相続財産清算人」と呼ばれることになっていて、本シリーズでいう相続財産管理人ではない。
相続財産管理人とは民法第897条の2に基づき選任される相続財産の管理人のことである。相続が開始してもその相続人が遺産の管理・処分がすぐにはできないような場合にそのつなぎとして選任され、相続人が管理・処分できるようになるまでの間に相続財産の管理をすることが任務である。
遺産管理人などとも呼ばれるものであり、あまり馴染みはないかもしれないが、令和5年4月1日施行の民法改正以前からも存在していた制度である。改正前は、相続の段階ごとに相続財産管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずる相続財産管理制度があった。(改正前民法第918条2項・3項、第926条第2項、第936条第3項、第940条第2項)しかし遺産分割前に複数の相続人が遺産を共有しているケースについては規定がなかったし、相続人不存在の場合の相続財産の清算を目的とする仕組みはあったものの、相続財産の保存のみを目的とする財産管理制度は用意されていなかった。
改正により、相続の段階にかかわらず、いつでも家庭裁判所は相続財産の保存に必要な処分をすることができるとの包括的な規定ができたのである。これによりこれまで規定のなかったケースでも、相続財産の保存に必要な処分が可能となるとともに、相続の段階が異なった場合にも相続財産の保存に必要な処分(必要となる維持管理費等の支払や家庭裁判所の監督)を継続的に実施することが可能となっている。(登記研究 2022年4月・890号 20頁)
私は旧918条2項に基づく相続財産管理人に選任されたことがある。このころはまだ相続財産清算人とはいわなかったので、実務では清算を目的とする相続財産管理人と区別するために、「918条の相続財産管理人」と呼んでいた。
相続財産管理人の選任により、前の頁で指摘した監督者不在や維持管理費の継続的な支払という問題はクリアできる。
2 万能な制度ではない
しかしこの相続財産管理人も万能かといえばそうではない。まず選任要件を満たさない場合の問題がある。「相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき」には選任されないということである。「相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき」というときには選任されない。要するに遺産の帰属が完全に決まらない、いわば宙に浮いた状況でしか相続財産管理人は選任されないということである。 唯一の相続人は被相続人の葬儀などに参列し死亡の事実は知っているし、成年後見人であった者から遺産目録の提示を受けているから、相続を承認するか放棄するかについての判断材料は揃っている。そんな状況でも引継ぎを拒否することあった場合である。そんなこと起きるのか?と疑問に思うかもしれないが、私の実体験である。なので起き得ることである。
相続があったことを知ったときから3ヶ月を経過すると相続放棄はできなくなる。これを(法定)単純承認というが、唯一の相続人が(法定)単純承認をする・したことにより相続財産管理人は選任されなくなる。なので万能な制度ではない。
もう一つの問題は相続財産管理人は相続人が引き継ぐまで管理を続けなければならないのだが、引継ぎが拒否されている状態では、未来永劫相続財産管理人はその職務を終えることができないということである。ゴールの見えないミッションとなってしまう。
しかも相続財産管理人には報酬付与の審判はない。正確には無報酬ではなく、報酬付与のタイミングは相続人へ引継ぎができた後、つまり任務終了後である。つまり、終わりがない業務を事実上、無報酬でやるということである。
3 改正以前の供託の可否
それでも相続財産管理人を未来永劫というわけには行かない。918条の相続財産管理人が定着する前から引継ぎ拒否の対策として、供託をすることが提唱されていた。
成年後見人であった者や918条の相続財産管理人が管理下にある遺産を供託するということは可能か?ということであるが、これについては肯定否定と見解が分かれていた。
私は否定的な見解を持っていた。その理由は詳細な方法が示されていないということである。具体例で考えてみる。
成年後見人であったAは成年被後見人Bの死後管理していた預貯金100万円の引継ぎをBの相続人甲、乙、丙のいずれからも拒否されている。こんな状況下でどのように供託をするのか?ということである。
①供託所の管轄
まず供託所の管轄であるが、持参債務として相続人の住所地なのかそれとも相続の一般原則として相続開始地なのか?それとも選任した家庭裁判所の管轄地域であろうか。
②被供託者
次に被供託者は甲、乙、丙の3名なのか、それとも「亡Bの相続人」として抽象的に1名とするのか?である。これは供託の件数に関わることである。後者であれば供託通知はできないかもしれない。
持参債務として相続人の住所地での供託であれば複数の供託所での供託ということにもなる。当然、相続人の人数分の供託件数となるはずである。相続人の数が多すぎるようなときにはかなり深刻な問題となる。
③供託金額
そして供託額も問題となる。被供託者数・供託件数にもよるが、被供託者の法定相続分に応じて分割した額をそれぞれ供託するのであろうか。割り切れない額の場合はどうするのか。そもそも預貯金債権では分割されないはずである。にもかかわらず、供託のために一度被相続人の名義の預貯金を解約したことにより分割債権とするのだろうか。このような処理は相続人の利害に大きく影響する。分割して供託すれば各相続人が単独で供託物還付請求ができることとなる。預貯金であれば単独では自己の相続分に相当する額の解約ですらできなかったのに、供託がなされれば自己の相続人相当する額の金銭の受領は可能となってしまう。これではあまりに相続人を利するのではないだろうか。引継ぎを拒否し続ければいずれ成年後見人であった者が供託することにより、自己の相続分に相当する額はゲットできてしまう。これではモラルハザードを起こしかねない。これに対して被供託者が「亡Bの相続人」とすれば、遺産全額を1回の申請で供託すればいいので、上記のような問題は生じない。
④供託根拠条項
そして一番の問題となるのが供託根拠条項である。いわゆる弁済供託であれば民法第494条である。弁済供託以外でも必ず法令に根拠がある。しかし成年後見人であった者が供託できる旨の法令は存在しない。なので弁済供託と解せざるを得ない。弁済供託であれば供託原因は何であろうか。供託原因は「受領拒否」「受領不能」「債権者不確知」とあるが、「受領拒否」であろうか。弁済供託であれば供託前に原則として弁済の提供をしなければならないが、何をもって弁済の提供といえるのだろうかも疑問である。
そもそも成年後見人であった者は「債務者」なんだろうか?被相続人の財産を現金として所持・管理していた場合や自己の名義の口座で管理していれば「債務者」として評価することもでき、民法第873条あたりが実体上の根拠となるのであろう。しかし現金管理は厳禁だし、自己の名義の口座で管理とはもってのほかであろう。多くの場合は被相続人名義の口座での管理である。そうであれば仮に相続人を債権者とすれば債務者は金融機関であろう。成年後見人であった者は部外者である。つまり、弁済供託であるという構成は無理があるのである。
以上のことから私は供託の可否については否定的であった。リーガルサポートは肯定説のようであったが、一体いかなる理論構成であったのか?とても疑問である。供託は供託者が供託すると言い張れば受理される向きもあり、強引に供託してしまえばいいのだろうか。
法務局(供託所)は管轄ごとに取扱が分かれていたようである。少なくとも東京法務局では供託を否定していたようだが、埼玉か千葉の法務局は肯定していたようである。
なので、相続財産管理人は事実上の無報酬でゴールの見えないミッションに挑むものであり、その終了のさせ方も賛否が分かれているという有様だった。相続財産管理人は一番事情に詳しい成年後見人であった者が就任することが望ましいと考えられているのだが、これは絶対ではない。引継ぎ拒否があれば相続財産管理人の選任申立は事実上の義務であろうが、就任することは義務ではない。(この点は次に述べる供託制度が新設された現行法の下でも変わりはない)なので就任を拒否する成年後見人もいたようである。
このような事情を受けてか否かは分からないが、令和5年4月1日施行の家事事件手続法の改正より、相続財産管理人は管理財産を供託することにより、管理財産をゼロとして相続財産管理人の任務を終えることができる旨の規定が新設された。
次の頁ではこの供託の方法を紹介する。
では。
