元成年後見人(現相続財産管理人)による供託3
2024/2/24 土曜日
前回からの続き。
この頁では家事事件手続法第146条の2に基づく供託とこれについての詳細を定めた令和5年3月27日民商第67号(以下「供託通達」という。)の解説というか実体験を紹介する。主に前回の頁で私が指摘した問題点についてである。
1 供託者
まず供託者だが、これは相続財産管理人に限られている。成年後見人であった者ということだけではダメなようである。引継ぎ拒否ということであればサッサと相続財産管理人選任申立をするべきである。旧民法918条2項に基づき選任された相続財産管理人も経過規定があるのでこれに含まれる。「亡●●相続財産管理人▲▲」と記載する。
住所は文字どおり住民票上の住所を記載するのであって、司法書士事務所の所在地ではない。もっとも、相続財産管理人選任審判書に住所ではなく事務所所在地しか記載されていなければ、事務所所在地を記載すべきであろう。供託者の住所は公告事項ともなるので、プライバシーが気になるときは、選任審判前に家庭裁判所に「事務所上申」をしておくことも考えられる。もっとも、住所と事務所が併記されているときに、供託者の住所を事務所所在地とすることが許されるかどうかは分からない。
2 供託所
次にどこの供託所であるかということだが、これは第146条の2によれば相続財産管理人を選任した家庭裁判所の所在地を管轄とする供託所である。
被相続人の死亡地や相続財産管理人の住所地とは関係がないので、遠方の辺鄙なところにある供託所となる可能性もある。
まぁ、これはオンライン申請&郵送により供託すればいいので供託所が遠方の辺鄙なところであってもほぼ支障はない。
3 被供託者、供託金額、供託件数
一番の関心事項であった被供託者、供託金額、供託件数は次のとおりである。
被供託者は「亡何某の相続人」と記載して住所は最後の住所を記載する。つまり相続人ごとに供託するのではない。
その結果、供託金額は管理している預貯金の全額であり、相続人ごとに分割して供託する必要がない。したがって供託件数は1件である。これはとても楽チンである。相続人がどれだけ多くても1件の供託で済むし、供託通知も不要となる。というかできない。相続人のリストなどを提出して、供託通知を希望すれば行ってくれるかもしれないが。
4 根拠条項
供託根拠の法令条項は「備考欄記載のとおり」と記載し、その備考欄には「家事事件手続法第190条の2第2項において準用する同法第146条の2第1項」と記載する。
5 添付書類等
オンライン申請で送信する場合、以上の申請情報を入力して送信する。供託申請なので書面の場合でも押印は不要なので、印鑑証明書はもちろんのこと電子署名も不要である。
添付書類として相続財産管理人選任の審判書を添付するので、登記申請のように供託情報の送信後に郵送または持参する。
この審判書の根拠法令であるが、令和5年3月27日民商第67号によれば「供託規則第14条第4項、第27条第1項」であるとしている。これは「代理人の権限を証する書面」である。
しかしよくよく考えてみるとこれはおかしい。同規則14条は「代理人によつて供託しようとする場合」のことなのだが、供託者は相続財産管理人自身である。被相続人が供託者ではない。つまりどこにも代理関係は発生していないのである。強いていえば供託者の権限を証する書面といったところだが、供託申請時にはこのような書面の提出は求められていない。家賃の弁済供託の場合に供託者である賃借人が賃借人であることの証明として賃貸借契約書などは提出しない。供託申請は敢えて金銭を預け入れるという性質上、本人確認は不要(押印、電子署名不要)だし、権利関係の証明も求められていない。
つまり、供託申請時に相続財産管理人の選任審判書の提出は不要でもいいハズなのだが、供託通達では提出を必要とし、しかもその根拠は供託規則第14条第4項としているから作成後3ヶ月以内のものでなければばらない。
相続財産管理人選任後首尾よく進めていけば審判書の受領後3ヶ月以内に供託までいけるかもしれないが、実際は金融機関での口座解約などで手こずり、なかなかそうはいかないだろう。したがって、供託直前に審判書の謄本の交付請求をしなければならない。手数料は微々たるものだが、本来は不要な手続をさせられることには不満が残る。法務局はこの扱いを改めてほしいものだ。
次は供託すべき金額の納付までの流れを確認してみる。
相続財産管理人であれば被相続人名義の口座の払戻しや解約はできる。全額の払戻しにより口座を空っぽにするだけでもいいのだろうが、被相続人の財産の精算という観点から解約即ち被相続人名義の口座を消滅させてしまうことをオススメする。また解約した預貯金は新たに相続財産管理人名義の口座を開設して、ここに入金することをオススメする。
いかに相続財産管理人に選任されているからといって、自身が成年後見人であったときのキャッシュカードや印鑑で全額の払出や口座解約までしてしまうのは感心しない。
かつては対処法が明確ではなく、なくやむを得ずにこのようなことを行うこともあったかもしれないが、現在は手続が制定されているので正規な方法で行うべきである。間違っても解約したお金を自身の名義の口座で保管するべきではない。
なのでここからは相続財産管理人が被相続人の口座を解約するとともに、相続財産管理人名義の口座を開設するまでの経験に基づく流れや留意点を書く。
私が担当した事件では被相続人は、みずほ銀行、ゆうちょ銀行、地元の信金の3金融機関に口座を持っていた。
なので、この3金融機関に「名義人は死亡し引き続きワイが旧918条の相続財産管理人に選任された。ついては被相続人名義の口座を解約し、新たに相続財産管理人名義の口座を開設し、ここに入金したいので必要な手続のご教示キボンヌ」と申し出た。申出は令和5年の4月上旬である。各金融機関の法改正リテラシーはどの程度かを計るために、あえて現在は民法第918条第2項ではなく、民法第897条の2であることや相続財産清算人とは違うことは伝えなかった。窓口では徒に長く待たされるので、いずれも書面での申出とした。各金融機関の回答はどうであったか。
まずはみずほ銀行。
書面提出後詳しい事情を聴きたいために来店を要請され、被相続人の取引支店とは異なる支店に赴いた。私の事務所から一番近いみずほ銀行の支店である。申出書面提出後に来店要請があり、実際に赴いたのはさらに2週間後である。コロナ以降の来店予約制度により、窓口での手続にはかなり時間がかかるようになっているので、急ぐことはあまりない手続ではあるが要注意である。
事情を説明したところ、1週間ほどで口座解約と開設可能である旨の回答があった。相続財産管理人選任審判書には私の住所の他に事務所も記載されていたので、本人確認証明書として運転免許証または司法書士会会員証を持参し、個人の印鑑証明書または司法書士会発行の職印証明書の提出が必要であるとのことであった。1週間後に再度訪問し、いくつかの書面を記載した。開設した口座の通帳は当日に発行された。キャッシュカードも発行可能であり、4,5日後に送付された。店舗での手続後約10日ほどで開設した口座に解約した口座の預金額が送金された。来店予約が必要なことから、なんだかんだで半月から1ヶ月ほどで相続財産管理人名義の口座へ預金を移すことができた。
次にゆうちょ銀行。
例によって申出書面を提出。3日後に相続財産管理人による解約は可能だが、新たな口座開設はなお、本部へ照会中との回答があった。まぁ、相続財産管理人による解約可能は当たり前なので、口座開設の可否が関心事項であったのだが。
この時点でみずほ銀行で口座の開設可能との回答を得ていたので、ゆうちょ銀行での新規開設は見送ったが、全国各地に支店があるゆうちょ銀行での新規開設ができないとなると、みずほ銀行の支店が近くにないと困るだろう。
最後に地元の信金。
例の申出書面を持参して近所の支店(ここは被相続人の取引支店)に口座解約と新規開設の申出を行ったところ、即日に口座解約はできた。みずほ銀行で口座の開設可能との回答を得ていたので、ここでも新規開設は見送った。ビックリするほどあっさりと解約手続ができた。もしかしたら預金残高が5万円程度と少額だったのが影響したのかもしれないが真相は定かではない。
結論として、みずほ銀行であれば被相続人の取引支店以外でも新規開設は可能である。相続財産管理人による被相続人名義の口座の解約はどこの金融機関でも可能である。今回は普通預金ばかりだが、定期預金でも同様であろう。まぁ、預金解約は当たり前ではあるが、相続財産管理人という聞き慣れない者に果たしてスンナリと口座を開設してくれるかはチョット心配ではあったが杞憂に終わった。
ところで、各金融機関で手続をしている際に感じたのは、改正により現在は相続財産清算人と呼ばれる遺産の清算を目的とした改正前の相続財産管理人と勘違いしている節があった。回答までに時間がかかったのも、逆にあっさりと手続ができたのもコレが原因ではないだろうか。そもそも絶対数が少ないので、金融機関の担当者が勘違いしていても無理もないのだが・・・。
結局各金融機関の法改正リテラシーは高いとはいえないが、地を這うほどの低さでもないってところか。地元の信金はアヤシいが・・・。
このようにして被相続人名義の預貯金はすべて解約し、1つの口座に集約しておくべきである。順序は逆になったが、預貯金の集約化をしてから、供託申請をすることとなる。 債務があるのであれば、その支払後の残額を供託するのかといえば、そうではないし、
他にもやっておいたほうがいいこともある。次の頁ではその他の事務について紹介する。
では。
