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元成年後見人(現相続財産管理人)による供託4

2024/3/06 水曜日

前回からの続き。

家事事件手続法第146条の2によれば、供託をした後にその旨を公告しなければならない。同条による法務省令とは法務省令第42号が法務省令である。正式名称は「非訟事件手続法第九十条第八項及び第九十一条第五項並びに家事事件手続法第百四十六条の二第二項の規定による公告の方法等を定める省令」である。とても長い。
 会社法では法務省令といえば施行規則とか会社計算規則などという名称だが、家事事件手続法ではそのまんまの名称である。同省令3条は公告事項を規定している。
 同省令1条によれば公告は官報で行うこととなっている。
どうでもいいが、家事事件手続法には「公告する」とだけ規定し、媒体については規定していない。媒体は省令で「官報」と規定するという、二重構造である。とても分かりにくい・・・。会社法は「官報で公告」と1つの法令で規定する。シンプルでわかりやすい。

 相続財産管理人の職務は基本的には成年後見人と大きく異なるところはない。遺産が預貯金だけの場合であれば債務の支払がメインとなるであろうが、これは成年後見人の死後事務(民法第873条の2)として処理していることが多いし、そもそも債務の支払いは成年後見人や相続財産管理人からすれば法律上の義務ではない。あくまでも可能ということである。本来は債務は相続人に承継されてるので、相続人が処理すべきことである。
火葬や納骨(いわゆる葬儀)を執り行うことは相続財産管理人の業務ではないだろうが、これも成年後見人の死後事務として処理すべきである。
なので、相続財産管理人はやることがほとんどない。相続人が引継ぎに応じなければ相続財産管理人選任後に供託に向けて預貯金の集約化へ動き出すことになる。

 大雑把にいうと相続財産管理人選任後に預貯金の集約化→(必要に応じて)債務の処理→供託→公告という流れになる。この頁では「債務の処理→供託」の間に行うべき事務(供託前の事務)を紹介する。いずれも法令上の義務ではないので、詳細な文献はほとんどない。
 
①供託前の事務1 相続人への通知
 供託の前に相続人へ引継ぎの要請はしておくべきである。引継ぎが絶望的なのだから、わざわざ引継ぎを要請することに必要性は見いだせないかもしれない。これまでも口頭または書面で引継ぎを要請していたかもしれないのに、供託前に改めて要請する必要はないとも思えるかもしれない。
 にもかかわらず供託前に引継ぎを要請する理由は偏に供託による不利益に対する相続人の権利保護とこれに配慮を欠いたことによる善管注意義務違反に問われるリスクの回避のためである。

 相続人にとって(凍結済みの)被相続人名義の預貯金の状態とその全額を供託したことによる供託物還付請求権のどちらが有利かということである。
 どちらも払戻=現金化するためには相続人全員の手続となると思われる。少なくても預貯金は遺産分割が成立しない限り、相続人の1人が自己の相続分に相当する額の解約・払戻を受けることはできない。相続された預貯金は遺産分割の対象となることから、金融機関は原則として遺産分割前には相続人の1人には1円たりとて解約・払戻には応じないハズである。
 
 供託物還付請求権の行使はどのようにするのか。相続された金銭債権の一般原則のとおり各自の法定相続分に相当する額までは単独で行使(各自単独行使)できるのか、それとも不可分なものとして相続人全員で行使(不可分債権)しなければならないのかということである。
 供託物還付請求権を相続された金銭債権と評価することができれば、各自単独行使が可能なハズである。供託物還付請求権自体を相続したわけではないが、その実質に変化はない。また、相続開始後に共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができる(最判平16・4・20)という考えも各自単独行使と親和性が強い。
 しかし、各自単独行使では前回までに書いたように預貯金のままでは1円も解約・払戻ができないのに、引継ぎを拒否し続け、相続財産管理人が供託をすれば自己の相続分に相当する額は確保できるというモラルハザードの問題がある。

 一方で、被供託者は「亡何某の相続人」という概括的な表示とされていることから、全員で行使しなければならないようにも思える。また、供託されたとはいえ、元々は1人では手も足も出なかった預貯金なのだから、供託された後も全員で権利行使すべきものとも考えられる。不可分債権と考えることもできるハズである。

 要するに各自単独行使か不可分債権かということだが、これについては供託通達からは明らかではないので今後の課題であろうが、相続財産管理人としてはどちらでもあまり問題とはならない。供託物還付請求はあくまでも相続人の問題である。

 そしてここからが重要なのだが、不可分債権であれば預貯金の状態と変わることはなく、相続人を大きく利することも害することもない。各自単独行使であれば相続人の利害に大きく影響する。各相続人が遺産分割成立前に独自に供託物還付請求権を行使してしまうと、後々に遺産分割ができないとはいわないが、意味をなさないものとなってしまう。つまり、供託すると相続人の不利益となる可能性もある。

 相続された預貯金は遺産分割が成立しない限り、各相続人は1人では1円も払出はできないことが原則ではあるが、令和3年の民法改正により法定相続分の3分の1までは単独で払戻ができるようになったが、供託物還付請求権ではこうはいかないだろう。やはり供託すると相続人の不利益となる可能性がある。

 さらに、供託物還付請求権は消滅時効にかかる。この場合の起算日がいつの時点となるのかは分からないが、いずれ時効で消滅する。
預貯金も金融機関への債権なので消滅時効にかかることもあるだろうが、金融機関が消滅時効を援用することはあまり聞いたことはない。やはり供託すると相続人の不利益となる可能性がある。

 引継ぎに応じない相続人が悪いといえばそれまでだが、やはり供託は相続人に不利となると評価することができる。そんな相続人が「不利益を被った」と騒ぎ出す可能性があるので、相続人へは供託する旨を通知しておくべきであろう。
 まことに身勝手な主張ではあるが、司法書士会やリーガルサポートを巻き込む騒動となれば、その対応で時間と労力を大きく削られる。
 当たり所が悪ければ、司法書士としての注意義務を欠いていたと評価されてしまい、目も当てられないことになる。
 なので、供託の前に相続人へ引継ぎの要請、むしろ供託をする旨を通知しておくべきなのである。通知したところでこのようなトラブルは避けられないかもしれないが、最低限度のことはやっていると評価されるであろう。また、最後通牒ともなるので、相続人が翻意して引継ぎに応じるかもしれない。

 問題は通知の時期や内容や方法である。
 
 時期は供託の直前が望ましい。相続財産管理人選任以前から何らかの方法で引継ぎは要請していたかもしれないが、この場合はあらためて引継ぎを要請することになる。相続財産管理人選任前に「引継ぎに応じなければ供託するぞ」と言っても、供託する権限がない者による通知になってしまうので、全くの無意味とはいえないが、やはり選任後がいいだろう。
 
 通知の内容は期限を定めた引継ぎの要請と引継ぎがなければ供託する旨でいいだろう。供託物還付請求権の行使方法や供託により不利益を被る可能性云々についてはケースバイケースだが、詳細に言及する必要性は乏しいと思う。不利益を被る可能性を示唆したという事実が重要である。相続人から供託についての問合せがあればそれには丁寧に応じるべきである。
 
 方法は口頭よりも書面で行うほうがいいに決まっている。送付先は現時点で既に知っている住所地宛でいいだろう。この最後通牒となる通知のために改めて住所の調査は不要である。そもそも法令上の義務ではない単なる任意の連絡のために市区町村が住民票を交付してくれるとは思えない。
 配達証明付内容証明郵便で行うか否かもケースバイケースである。この最後通牒となる通知は司法書士の職務上の注意義務違反の誹りを免れることが目的なので、記録や証拠を残すことは重要だが、配達証明付内容証明郵便の仰々しさが余計なトラブルを誘発するおそれもある。また、相続人がたくさんいるとその通信費もバカにならない。法令上の義務ではないものに多額の支出をしたことを家庭裁判所に問い詰められたらどう説明するか。それとも自分で負担するか。
 私は職務上の注意義務と法令上の義務ではないことの兼ね合いから普通郵便で行ったうえで、その費用は相続財産から支出した。果たしてこれでよかったのか?せめて簡易書留でも良かったのかもしれないし、自腹で行うべきだったのかもしれない。今でも自問自答の日々である。
 まぁ、長々と書いてきたが忘れてはならないのは、供託すること自体は違法でも何でもないということである。
これが供託前の事務の1つである「相続人への通知」である。

②供託前の事務2 官報掲載費用相当額のストック
 さて、公告は官報でするのだが、これには費用がかかる。官報への掲載は自分で手続をすることもできるのかもしれないが、普通は代行業者に頼むだろう。業者によっては文面のチェックやスゴい業者だと文面案まで作成してくれるところもある。事前に詳細な見積もりをもらっておくのは必須だが、代行業者に依頼した場合の掲載費用は概ね6万8000円ほどである。
 繰り返しになるが、順番は供託してから公告である。公告して供託ではない。(供託番号が公告事項なんだから当然だが。)つまり供託後は手元にある遺産はゼロにしなければならない。
 なので掲載費用相当額を供託前に別口でストックしておく必要がある。自腹を切りたくなければ代行業者への支払のための振込手数料もストックしておくべきだろう。
 以上が供託前の事務の1つである「官報掲載費用相当額のストック」である。

③供託前の事務3 報酬付与
 供託前にはやるべきことがもう1つある。お待ちかねの報酬付与である。相続財産管理人の職務をあらかた片付けて残るは供託だけ、という段階になってから報酬付与の申立をする。気になる報酬額だが、先ほど書いたとおり相続財産管理人はやることがほとんどない。被相続人についての死後事務は成年後見人の死後事務許可で片付いているハズである。
 成年後見人時代の半分でも付与されれば超御の字である。あまり多くは期待してはならない。しかも選任後すぐに供託してしまえばその在任月数も少ないのだから尚更である。

 報酬は供託前に管理財産から受領しておくべきである。受領前に供託してしまうと供託物取戻請求はできないので、相続人から支払ってもらうしかないのだが、これは完全な無理ゲーである。引継ぎを拒否しているような相続人が素直に応じるはずがない。
なお、受領した報酬はリーガルサポートの定率報酬の対象ではないようだ。報告対象でもないだから当然といえば当然である。
 以上が供託前の事務の1つである「報酬付与」である。

 供託前の事務として「相続人への通知」「官報掲載費用相当額のストック」「報酬付与」の3つをあげた。これらはいずれも法令上の義務ではない。相続人がどう騒ごうが知ったことではないということであれば、相続人への通知は不要だし、官報掲載費用は自腹ということであればストックする必要はないし、無報酬でもいいというのであれば報酬付与の手続は不要である。

これで供託のお膳立てはすべて整った。次の頁では供託の手続とその注意点等を紹介する。

では。