元成年後見人(現相続財産管理人)による供託6
2024/4/18 木曜日
前回からの続き。
前回までに相続財産管理人選任から供託、公告までを扱った。その過程でいくつかの未解決事項をあげていたので、この頁ではそれらをまとめていく。
未解決事項1 遺産が預貯金だけ
何度か触れてきたが、遺産が預貯金だけであればそもそも引継ぎということを観念する必要はない。にもかかわらず相続財産管理人を選任して、供託・公告までする必要があるのだろうか。これは大いに疑問である。
まぁ、手続が法定化されしかもこれらの手続は淡々とこなせばいい超ヌルゲーなので、この問題はそれほどの実害はないので、この程度の記載にとどめておく。
むしろ、次からが本番である。
未解決事項2 遺産に不動産が含まれている
これも既に触れてきたが、遺産の中に管理を要する物や維持管理のために継続的に、しかも被相続人の死亡とは無関係に費用が発生する物が含まれている場合は深刻である。
具体的には不動産である。不動産、特に建物は継続的な維持管理が必要だし、それには費用もかかる。固定資産税だって発生する。
これらの支払は誰が行うのか。相続人は引継ぎを拒否しているので当てにならない。維持管理やそれに伴う諸経費の支払いは保存行為として、相続財産管理人の権限の範疇ではある。いうまでもないが、成年後見人も死後事務としてこれらに対応することもある。
しかし、相続財産管理人がこれらに対応していると、いつまでたってもその業務を終了させることができない。かといって預貯金を供託して相続財産管理人を終了させてしまうと、以後当該不動産の維持管理やその費用の支払は誰が負担するのか。これでは管理者不在の不動産となってしまい、荒廃が進むし、近隣環境にも悪影響である。空き家問題そのものである。
つまり、遺産に継続的な維持管理が必要な物が含まれている場合には預貯金を供託しただけでは何も解決しない。預貯金を供託するのみで、不動産については引継ぎの意思があるか否かにかかわらず相続人に委ねるべきである、相続人が維持管理をしないことにより不動産の荒廃が進むことは致し方がないことと考えることもできる。相続の一般原則からいえばそうであろう。
しかし、相続財産管理人が選任されたのであればこの結論ではマズいだろう。何のための相続財産管理人なのかといわれてしまう。供託することだけがその任務ではないハズだといわれてしまう。
これは相続財産管理人を選任するから際立つ問題であり、遺産に預貯金の他に不動産が含まれている場合も、預金口座情報の通知のみで終了、と考えれば特に問題とはならない。
わざわざ相続財産管理人を選任する必要はない。これにより空き家が放置されるということには違いないが、これは相続の一般原則の帰結である。
とはいっても、空き家が放置されることをヨシとしないのであれば、何らかの対応が必要である。
1つの解決策として、相続財産管理人が家庭裁判所の許可を得て、当該不動産を売却・換金し、これを他の預貯金とともに供託することが考えられる。売却してしまえば以後は維持管理の問題はなくなる。
しかしこれにも問題がある。不動産が複数ある場合はすべての不動産を売却する必要があるのだろうか。建物とその敷地だけを売却して他にある更地は除いてもいいだろうか。 更地であれば管理者不在の弊害は小さいかもしれないが、建物とその敷地だけを売却するということを肯定する理論的根拠は何であろうか。また、都心にある物件ならまだしも、地方の山林などはなかなか売却はできないだろう。
そもそもこれではすべての財産を処分する相続財産清算人と変わることがない。令和5年4月1日以降、相続財産管理人と相続財産清算人の役割と権限の区別が意識されるようになった。(もしかしたらこんなことを意識しているのは私だけかも)
相続財産管理人は精算を目的とするものではない。すべての不動産の売却はやり過ぎである。供託するためという理由だけで家庭裁判所が売却の許可をするかということも疑問である。本来は負債の処理のためなどどうしてもやむを得ない場合に限られるのではないだろうか。
思うに不動産売却の代金を供託して相続財産管理人を終了というのは本末転倒なような気もする。最初から相続財産管理人を選任する必要などなかったのである。預金口座情報の通知のみで足りる。負債の処理だって相続財産管理人がする必要などなく、相続人と債権者の間で解決すべきことである。
不動産自体の供託というのも理論上は可能なのかもしれないが、実例は聞いたことがないし、実際に申請しても拒否されるだろう。
長々と書いてきたが、遺産に不動産があると放置するわけにはいかないが、かといって有効な解決手段もないというのが未解決事項2である。
さらに問題となるのが、不動産の売却を行った場合の登記申請。
被相続人の死後(相続人はいる)に相続財産管理人が選任され、被相続人名義の不動産をたまたま売却することができたのだが、被相続人から買主への所有権移転登記はどうすべきか。
ご承知のとおり、いきなり死亡後の日付を登記原因とした被相続人から買主への所有権移転登記はできない。中になにかを挟まないといけないハズである。
考えられる方法は2つある。1つは登記名義人表示変更登記、もう1つは法定相続による所有権移転登記である。前者は相続財産清算人の場合と同じであり、後者は清算型遺贈の場合と同じである。
前者は相続人不存在の場合には相続財産法人が成立するということが前提であるが、本
設例では相続人不存在ではないので、相続財産法人は成立しておらず、登記名義人表示変更登記はできない。
後者は相続財産管理人が相続人を代理する根拠が乏しい。私は以前から清算型遺贈の場合に遺言執行者が相続人を代理する根拠を旧民法第1015条に求めていた。同条はあまり意味がないとはいわれていたが、清算型遺贈の場合の登記申請の構造を説明することができると思っていた。もっとも、同条は「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」と改正されたので、清算型遺贈を上手く説明できるのかはアヤシくなったが。
しかし、相続財産管理人にはこのような規定はない。
仮に相続財産管理人が法定相続による所有権移転登記が申請できれば、実態はともかく表面上は相続人への引継ぎが完了したとも思える。これで終了ともいえる。
そもそも登記名義人表示変更登記にしても法定相続による所有権移転登記にしても法定相続の被相続人名義からいきなり買主への所有権移転登記ができないのでなにかを挟まないといけないという至上命題があり、これに対する苦肉の策である。故にどちらも十分な理論構成ではない。なので、これらを応用するとさらにあやふやである。
相続財産管理人による不動産売却は滅多にないので、この問題が顕在化することはないかもしれないのでヒマなときにでももう少し深く考えておこう。
未解決事項3 遺産が少ない
これまで紹介してきたように相続財産管理人の職務を行うにあたっては公告掲載費用や通信費などでだいたい7万円くらいはかかる。この7万円がデッドラインである。相続財産管理人選任後負債の処理や報酬付与を受けた後の残高が7万円を下回ると公告ができなくなる。正確には公告掲載費用を遺産で賄うことができなくなるということ。
かといって自腹はゴメンである。負債の処理は積極的に行う必要はないと思うので、正確には負債の処理以外のこと(具体的にはあまり想定できないが)と報酬付与後の残高が7万円を下回っている場合である。
ここで1つの基準を紹介する。通称「30万円基準」である。未精算の報酬や債務を除く相続財産が30万円未満の場合である。いつの間にか(おそらく令和5年4月1日以降であろう)東京家庭裁判所後見サイトに掲載されていた。要するに成年被後見人死亡時の財産が30万円未満の場合である。相続財産があまりに少ない場合のことである。
「相続財産」とあるので預貯金の残高のことではないと思われるが、定かではない。預貯金は少ないが株式などがある場合は含まれないということかもしれない。まぁ、このようなケースは滅多にないと思うが。
この30万円基準に該当する場合は「個別対応」とあるので、成年被後見人の死後に相続人が引継ぎを拒否していても相続財産管理人の選任申立をしなくてもいいことがあるということである。
個別対応がどういったものかは明示されていないが、おそらくは成年後見人の最後の報酬額を多めに調整するなどして、預貯金の残高をゼロにしてしまうのであろう。これは従来からも見られた取扱いである。なので、30万円基準に該当する場合は残債務の額は慎重に見極めなければならない。
これにて遺産が少ないという問題は解決したかもしれないが、これはあくまでも東京家庭裁判所の取扱いであり、他の家庭裁判所にまで及ぶかは分からない。
ところで、30万円という数字はどこからでてきたのだろうか。思うにこれは東京家裁での標準的な成年後見人の報酬の1年分に少し満たない額(前回報酬付与から死亡まではどれほど長くても1年未満である)と官報掲載費用その他の約7万円(これは全国一律)を合算した額ではないだろうか。30万円以下というのは最後の報酬を受領すると官報掲載費用が支払えないくらいの残高ってこと。
なので、当該家裁の標準的な成年後見人の報酬の1年分に少し満たない額と官報掲載費用その他の約7万円を合算した額に満たない程度の残高しかない場合は、東京家庭裁判所の30万円基準のような運用をしてもいいのではないだろう。このような屁理屈に基づき担当の書記官と話を進めてみてはどうだろうか。
ところで、この30万円基準ということをご存じだっただろうか。わたしは別件で東京家裁のホームページを見ていたときに発見した。リーガルサポートの過去のお知らせなどを確認してみたが、周知するようなものは見当たらなかった。
親族が後見人というケースではあまり周知しなくてもいいかもしれないが、専門職へは周知してもよかったのではないだろうか。もしかしたら東京家裁はリーガルサポート等の専門職団体へは周知していたのかもしれない。だとしたらリーガルサポートは何をやっていたのか。この問題の意識の低さが感じられる。
さて、未解決事項をいくつか紹介した。成年後見事件は10件あれば10件の特徴がある。だから未解決事項はまだまだあるかもしれない。
本シリーズでは相続人の引継ぎ拒否と相続財産管理人による供託を取りあげた。始まったばかりの制度であるし、なによりもケースバイケースの柔軟な対応が求められる。今後も情報収集や研究を続けていくつもりだし、読者のかたも情報提供や意見等があれば寄せてほしい。これを結びにかえて本シリーズを終える。
では。
