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代表取締役の住所非表示1

2024/4/27 土曜日

1 はじめに
 代表取締役など法人の代表者はその住所が登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されている。取引の安全のためなんだろうが、大昔に商業登記法ができた頃ならいざ知らず、現在ではプライバシー保護が強く叫ばれている。
 代表取締役の住所を登記すること=登記事項証明書に記載される≒住所を公開することの是非はこれまでも幾度か改正のための議論があったようであるが、その都度取引の安全が優先され、代表取締役の住所は公開されるものであった。

 ところが、令和6年6月に商業登記規則の改正が予定されていて、代表取締役の住所を非公開とすることができるようである。代表取締役等住所非表示措置という。
 本シリーズではこの改正商業登記規則を掘り下げることを目的とし、その前提として類似っぽい(のだが、実は似て非なるものである)制度を紹介しつつ、本規則改正について東京司法書士会が行ったパブリックコメントについても言及する。
 なお、施行日は令和6年10月になった。パブコメを受けて施行が延期された。
 「代表取締役等住所非表示措置」というのはとても長いので本シリーズではコレを省略して「ひそ(非措)」と呼ぶことにする。ヒ素ではない。

 それではいってみよう!

2 似て非なる制度との比較
 代表取締役のみならず取締役の氏名は登記されるのだが、この氏名は戸籍に記載されている氏名のことである。いわゆる本名である。従来から旧姓を記載してほしいという声があったことから、平成27年改正により希望者には本名とともに旧姓を併記する取扱いとなった。(旧姓の併記)
 この制度はいろいろな解説書があるので詳細は触れないが、「ひそ」と決定的に違う点として、登記事項に「併記」するという点である。「ひそ」が「○○しなければならないところ○○しなくてもいい」という本来的な規律の無視であるのに対して、この制度は「○○しなければならないところに△△も加える」というものであり、本来的な規律は維持されているところにある。本制度はあくまでも行政サービスの一環である。

 「ひそ」の制度、要件などをみていると、法務省は「ひそ」自体には消極的であり、ただ、どうしてもプライバシー保護の声が大きいのでそれに応ずる(屈したとは言わないが)形で、厳格な要件の下極めて限られた場合にのみ「ひそ」が可能という位置付けである。
 一方で、旧姓の併記は本来的な規律の無視を無視するものではないので、その運用もだいぶ緩い。その証拠に令和4年頃から申出のタイミングが拡大され、いつでも申出OKとなっている。「ひそ」や次のDV等の場合のような詳細な裏付け資料を要求されていない点もそうである。
 つまり、「ひそ」と旧姓の併記とでは全く次元が異なる制度であり、旧姓の併記での運用を「ひそ」にももってくることなど、到底できないのである。この点は後述する。

 次にDV被害者等の住所非表示措置である。これはあまり実例がないかもしれないので、詳細に検討してみる。

①申出の対象となる被害者等の範囲=被害者等
ⅰ DV防止法に規定する被害者
ⅱ ストーカー規制法第6条に規定するストーカー行為等に係る被害を受けた者
ⅲ その他これらに準ずる者

である。これらに準ずる者には「児童虐待防止等法第2条に規定する児童虐待を受けた被害者」があるようだが、児童虐待の被害者が法人の代表者となるということが実際にあるのだろうか?まぁ、絶対にないわけではないだろうし、児童虐待の被害者ってのは範囲が広いのかもしれない。

②非表示の対象となる住所
 現在の住所であって、過去に登記された住所は対象外である。その目的は現在の居場所を加害者に知られないことなので、過去の住所が公開されていても特に問題はない。重任の場合など当該住所が従前から登記されている場合は除かれているので、重任によっても前期のときの住所も非表示なので問題ない。

③申出人の範囲
 被害者等又は登記の申請人である。特筆すべきは被害者も申出可能ということである。極端なハナシ、印鑑提出者などの他の代表取締役に知られることなく、非表示の申出ができるってことであでる。商業登記の原則に照らせばかなり異質ではあるが、被害者の生命身体の保護の必要性がデカいということであろう。

④申出の方法
 書面またはオンライン(オンラインは登記の申請と同時の場合だけである)により申出をする。「ひそ」とは異なり、登記申請時に限らずいつでも申出可能である。被害者の生命身体の保護が目的なのだから当然であろう。
 これはこれでいいんだろうけど、登記されている現在の住所を非表示にしたところで加害者に現在の住所を知られないということができるんだろうか?すでに知られているんじゃなかろうか?新住所に変更した以降は非表示という扱いでもいいのではないかと思ってしまう。いつでも申出ができるということにはあまり意味がないと思う。にもかかわらずいつでもOKとしているから、「ひそ」でもいつでも申出できるようにせよという意見が出てくるのではないだろうか。
 なお、登記の申請人≒会社が申出を行うときは届出印で押印しなければならないらしい。
印鑑不要通達が発出された後の規則改正でできた制度であるから、押印不要の流れの中で誕生した「押印必要書類」である。法務省は押印の要否についてどのように考えているのか疑問に思ってしまう。
 被害者自身が申出を行うときは押印不要のようである。被害者の代理人が申出行うときは委任状の提出が必要なようだが、当該委任状にも押印は不要なんだろうか?記名されているだけの委任状でも「代理人の権限を証する書面」となり得るんだろうか?
 申出書には「住所非表示措置を希望する理由」を記載するようだが、(31条の2第2項5号)どの程度の事情などを記載すればいいんだろうか?様式例1の記載欄は1~2行程度しか記載するスペースがないので、簡潔なものでもいいんだろうか。

 添付書類として本制度特有なものとして「住所が明らかにされることにより被害を受けるおそれがあることを証する書面」というものがある。具体的には市区町村発行のDV等支援措置決定通知書や、ストーカー規制法に基づく警告等実施書面、配偶者暴力相談支援センターのDV被害者相談証明などがあげられている。このようにDV被害やストーカー被害を受けていることが公的機関によりある程度証明されている必要がある。単にDVやストーカーの被害を受けているという程度ではダメらしい。もっとも、どの程度の被害があるとこれらの書面が交付されるのかは分からない。

⑤住所非表示措置
 申出がされると登記官は登記事項証明書又は登記事項要約書に当該住所を記載しない措置を講ずる。具体的には登記記録の住所の記載が「商業登記規則第31条の2の規定による措置 」と記載されるようである。これでいいんだろうか?当該代表取締役はストーカー被害やDV被害を受けているということが明らかになってしまう。「ひそ」のような行政区画までにとどめるという方法も考えられるが、行政区画だけでも公開されるということも場合によってはマズいかもしれない。なお、記載例をみていると申出をした日は登記されないようである。
 ここで気になるのは商業登記規則第31条の2の規定振りである。これを要約すると「被害者等から申出があったときは、住所を記載しない措置を講ずるものとする」となる。
 これ自体は何の変哲もない条文だが、新設される「ひそ」を規定した商業登記規則第31条の3第2項を要約すると「登記官は申出があった場合において、当該申出が適当と認めるときは、代表取締役等住所非表示措置を講ずるものとする」とある。この「申出が適当と認めるとき」とは何を指すのか?登記官に非表示実施についての裁量があるということだろうか?これは「ひそ」施行時の通達での解説が気になるところである。

 どうでもいいことだが、通達にはDV被害者等の非表示措置の記載例が示されているのだが、氏名は女性の氏名で記載されている。DVやストーカーの被害者は女性が多いとは思うが、これはこれで如何なものかと思う。男性の被害者だっているハズである。こういう点を問題視する人もいるのだから。

⑥住所非表示措置の終了
 住所非表示措置が終了するパターンは2つある。
 1つは住所非表示措置を希望しない旨の申出である。DV被害やストーカー被害が止んだようなときや被害者が住所を非表示にする必要がないと思ったようなときや与信審査などで一時的に住所が記載されている登記事項証明書が必要な場合であるだろう。
 住所非表示措置の申出とほぼほぼ同じ方式だが、代理人による申出はできないようである(2項4号並びに3項1号及び3号の非準用)。事の重要性を考えるとある程度は理解できる。
 なお、住所非表示措置が実施されている者について重任や「氏名」の変更の登記申請がなされても同時に住所非表示措置を希望しない旨の申出がない限り、住所非表示措置は終了しないようである。一方で、「住所」変更の登記が申請された場合は住所非表示措置は終了し、新住所について非表示を求める場合は新たな住所非表示措置申出を行う必要がある。
 この後の「ひそ」にも共通することだが、誤解してはならないこととして、住所非表示措置がされているからといって、住所が登記されていないということではない。住所に変更があれば登記申請はしなければならないということだ。

 もう1つの終了パターンとして、 住所非表示措置をした年の翌年から3年を経過したときにも終了するというものである。(31条の2第6項2号)つまりDV被害者等の非表示措置は時限措置ということである。なぜ時限措置なのか?なぜ3年なのか?とても不思議である。DVやストーカーの被害は3年程度で収まるんだろうか?
 これについての解説を探すことはできなかったが、法務省は代表者の住所は記載されていることが原則であり、非表示はこれについての例外であり、極めて厳格・限定的に運用すべきものと考えているんだろう。このように「原則公開であり、例外は限定的」と考えておくと「ひそ」についての運用も理解しやすい。
 住所非表示措置の継続を希望するときは、再度の申出をすればいいようだ。言い換えれば、住所非表示措置をした年の翌年から3年を経過する前に再度の申出をしなければならないということである。これはときとして被害者等にとってかなりの負担とならないだろうか。被害者支援団体や登記申請代理人等がしっかりと支援しなければならない。
 ただし、登記官が「当該住所非表示措置を終了させないほうがいいなー」と認めるときは終了しないようである。
 具体的には災害などで以下の期間内に再度の申出をすることが不可能な場合等があげられている。コロちゃんのときの緊急事態宣言で各種の期限が超法規的に延長されたことは記憶に新しい。超法規的な方法によらずに期限の延期ができるようにしたのであろう。

 なお、登記官は期間満了前に住所非表示措置を終了させる旨、住所非表示措置の継続を希望する場合は再度申し出る旨を通知する事が予定されている。これは規則上の制度ではなく単なる行政サービスのようである。通知は住所非表示措置申出書記載の被害者等の住所地に被害者へ宛て通知する。そのため、住所非表示措置申出後に住所を変更し、その旨の登記申請&再度の申出をしておかないと旧住所へ通知が送られてしまうので要注意だ。
 この通知自体は法令の根拠に基づくものではないことから、いつ頃通知されるのかは不明である。登記官ごとに判断して通知するのだろうが、この手のものはどんなに遅くとも1,2ヶ月前くらいとなるのではないだろうか。

⑦登記官の調査
 住所非表示措置の申出に対して登記官は、必要があると認めるときは被害者等に対し必要な情報の提供を求めることができる。(31条の2第5項)登記所への出頭要請や文書等の提出などがあげられている。不正な申出等を防止するための措置のようだが、「必要があると認めるとき」とはどのような場合を指すのか。
 商業登記法23条の2には「登記官による本人確認」というのがあるが、これは申請人の本人確認であるから、申出をした者の本人確認は23条の2によればいいと思う。申出は登記の申請ではないが、その趣旨からすれば類推適用してもいいだろう。なので、31条の2第5項は申出者が提出した書類に疑義があるようなときなどが考えられる。
 また、この条文を根拠に先にあげた添付書類以外のものの提出を求めることがあるかもよ、ということになるのかもしれない。
 登記申請では添付書類法定主義といわれるが、この例外となるのかもしれない。自由心証主義をとる民事訴訟に近い。
 いずれにしても代表者の住所を記載という原則と被害者保護の狭間の制度なので、厳格でありつつも柔軟な運用が求められる。

⑧その他法人等の登記における取扱い
 DV被害者等の非表示措置は商業登記規則上の制度である。商業登記法は「会社法その他の法律の規定により登記すべき事項を公示するための登記に関する制度」であるから、合同会社や合名会社や合資会社の代表社員が含まれることは当然である。
 「登記簿に住所が記録されている者」が対象なので記載例はないが、支配人も非表示の対象となるんだろう。
 一般社団法人等その他の法人でも住所非表示措置の申出ができるようだ。各種の登記規則が31条の2を準用している。被害者保護が目的なんだから、準用を広く認めるものであり、当然である。

以上が似て非なる制度である「旧姓の併記」と「DV被害者等の住所非表示措置」である。
次回は「ひそ」である。

では。