お知らせNews

代表取締役の住所非表示3

2024/5/18 土曜日

本頁は令和7年3月12日に改定したものである。

3 代表取締役の住所非表示措置
 いよいよ本シリーズの本丸である「ひそ」についてである。
まずは「ひそ」の概要について。なお、施行は令和6年6月3日であり、本シリーズは令和6年2月時点の情報を前提にしている。
※施行日は10月に延期されている。この詳細は次の次の頁で。

 まずは些細なことかもしれないし、重大な差異かもしれないのだが条文の規定振りが異なることについて。
DV被害者等の非表示措置を規定した商業登記規則第31条の2を要約すると・・・
「登記官は申出があつたときは住所を記載しない措置を講ずる」とある。
主語は登記官である。

 一方で改正により新設が予定されている商業登記規則第31条の3を要約すると・・・「登記の申請をする者は・・・申し出ることができる」とある。
主語は登記の申請をする者である。

 このように主語が異なるのである。この差はなんなんだろうか?先に書いた登記官に裁量があることを暗示していることなのか。それともDV被害者等の非表示措置と「ひそ」とでは目的というか保護すべきものの程度が異なるからだろうか。前者は被害者の生命身体の安全、後者は一般的な代表取締役のプライバシー保護なので、比較すると前者の保護の方が重要ということで、このことが条文の規定振りの差に現れたのだろうか。考えすぎかもしれないが、規定振りを異にしているのはなんらかの意図があるのかもしれない。このあたりは施行時の通達での説明が気になるところである。
 
①申出のタイミング
「ひそ」はいつでも申出ができるものではない。この点はDV被害者等の非表示措置と決定的に異なる。申出ができるのは登記申請と同時なのだが、その登記申請は以下のとおりである。

①株式会社の設立登記
②他管轄本店移転の新所在地における登記
③代表取締役若しくは代表執行役の就任若しくは住所変更による変更の登記
④清算人の登記又は代表清算人の就任若しくは住所変更による変更の登記

「ひそ」の対象となる住所は「当該登記により登記される住所」なので「新たに登記される住所」が新しく記載される局面である。ここで1つ疑問となるのは管轄外本店移転により閉鎖される旧所在地の閉鎖登記簿の住所である。本店移転後の登記事項証明書は非表示でも閉鎖登記事項証明書は非表示でなければあまり意味がないのではないだろうか。

 これは次のように考えるべきである。

 「ひそ」の適用(恩恵と言ってもいいかも)を受けることができる機会は「新たに登記される住所が新しく記載されるとき」と考えるのではなく、「新たに代表取締役に就任(重任も含む)したとき」と考えるべきである。このときに「ひそ」を選択できる権利が発生したと考えるのである。「ひそ」の施行前に就任した代表取締役は自身の住所が公開されることを了承して就任したものと考えるべきである。代表取締役というのはそれだけ責任が重いのである。公開されることを了承して就任しているのだから、本来は管轄外本店移転により新しく登記記録が起こされるようなことがあっても、このことを理由に非表示を選択できるということにはならないと考えるべきである。
 同様に任期中に住所が変更したことがあってもこのことを理由に非表示を選択できるということにはならないと考えるべきである。
 
「新たに代表取締役に就任(重任も含む)したとき」に非表示の選択権が与えられたと考えるからこそ旧姓の併記やDV被害者等の非表示措置のようにいつでも申出可能とはならないのである。
 このように考える方がスッキリするのだが、改正規則では申出のタイミングを「新たに登記される住所が新しく記載されるとき」とするから管轄外本店移転も含まれるのである。
これは、本来は「新たに代表取締役に就任(重任も含む)したとき」だけが原則なのだが、新たに登記記録を起こすので、便宜「ひそ」を許すものと考えるべきである。住所変更の際にも申出ができるということはなかなか腑に落ちない。DV被害やストーカー被害以外にも生命身体の危機があるので、こういったDV被害者等の非表示措置以外にも新住所を秘密にしたいということがあるかもしれない、と考えておこう。

 「当該登記により登記簿に住所を記録すべき代表取締役等の住所」が対象となるので、今回代表取締役Aが就任した旨の登記申請をするときに「ひそ」の申出ができるのはAだけであり、既に就任している代表取締役Bは「ひそ」の申出ができない。Bは任期満了時重任のときまでお預けである。

 そもそも、代表取締役のプライバシー保護が目的であればいつでも申出可能としてもいいハズである。改正規則施行時点で既に就任している代表取締役は最長で10年近く非表示の適用を受けることができないことになってしまう。
 やはり法務省は代表取締役の住所は公開されることが原則であり、非表示は極めて例外と考えているのであろう。
 
②非表示された旨の記載
 DV被害者等の非表示措置では住所は「商業登記規則第31条の2の規定による措置 」と記載される。何処に住所があるのか=どこに住んでいるのかが全く分からなくなるようになる。
 「ひそ」では代表取締役の住所は「当該住所につき行政区画以外のものを記載しない」とされている。「ひそ」では行政区画は記載されるってことだ。
 ところで行政区画とはなにか。行政区画の定義は明確ではないのだが、おそらく最小行政区画を指すのであろう。
本来は「住所 東京都台東区鳥越一丁目30番8号中山ビル302」と登記されるところ、「住所 東京都台東区」と記載されるのであろう。まぁ、これでもどこに住んでいるのかは分からないのでいいんだろうけど、なぜDV被害者等の非表示措置のようにしないのだろうか。これだと住所が外国にある場合に問題が起きる。
「住所 アメリカ合衆国ミズーリ州」とか「住所 中華人民共和国湖北省」とかなんだろうか?それとも「住所 アメリカ合衆国ミズーリ州●●市」とか「住所 中華人民共和国湖北省●●市」となるんだろうか?日本でいう(最小)行政区画に該当する地域や都市の括りは外国ごとに異なるハズである。日本でいう市町村と外国の市とは同じような機能な行政区域ではないハズである。だからこそ「行政区画までの記載」という中途半端なことはしないほうがいいと思う。

③添付書類
 次は申出の際の添付書類である。これは結構問題があると思う。
法務局に提出すべき書類は対象となる会社を2つに分類し、さらにそれを2つに分類するので、計4パターンある。
 その分類だが、いわゆる上場会社と非上場会社の分類と既に「ひそ」の適用を受けているか否かである。今回の規則改正施行時点では「ひそ」の適用を受けている会社は存在しないので、最初は上場か非上場の分類のみである。

まずは、非上場の会社から。

 添付書類の趣旨の1つに会社の実在性の証明がある。「存在」の証明ではない。「存在」は登記事項証明書で確認できる。
「実在性」ってのは各号の趣旨に照らすと、いわゆるペーパーカンパニーのように事業活動の実態がない会社ではない、ってことで考えておけばいい。実在性のない会社で代表者の住所を非表示にしてしまうと犯罪の温床になりやすいからであろう。これはこれで理解できるのだが、法務省が世の中には「実在性」がないあるいはアヤシい会社が存在するということを公式に認めてしまったようなものである。「実在性」のない会社をなんとかするのが法務省の仕事だろ!と思うが、「実在性のない会社」の定義が曖昧だから難しいかも。

 改正規則には「実在性」の証明の方法が提示されている。
「株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便が送付されたことを証する書面」でいいようだ。表札や看板などがあってそれを受け取る人がいれば実在性有りってことだろう。100%子会社とかはどうすんだろ?100%子会社も表札とか看板を掲げているだろうか。

 配達証明郵便が原則なのだが、例外(というほどでもないが)として「申請が資格者代理人によってされた場合において当該資格者代理人が当該株式会社の本店がその所在地において実在することを確認した結果を記載した書面」でもいいようである。資格者代理人というのは事実上、司法書士を指すので、我々が実在性を調査して確認すればいいのである。どの程度の調査が求められるのかは、改正規則施行時の通達等で具体例等が示されるであろうが、配達証明郵便の代替手段なので表札や看板と受け取る人の存在と同程度のものでいいのだろう。
 この配達証明郵便だが、設立時については疑問がある。設立の登記申請の際に「ひそ」の申出をする場合は配達証明書を提供するってことなんだろうが、コレっておかしくないか?
設立登記前には郵便を受け取る会社は未だ存在していないハズである。受け取った者は何者なんだろうか?実際は設立登記前から営業を開始していることはあると思うので、設立登記申請前から郵便を受け取ることもできるだろうが、法律上はまだ設立していない。いまだに設立していない会社が郵便を受け取ったことをもって会社の実在ありといえるんだろうか?こんなことを認めてしまうとますます会社の実在性ということはアヤシくなってしまうのではないかと思う。もっとも、「設立中の会社」という概念はあるので肯定する余地はある。

 添付書類の趣旨のもう1つに代表取締役の実在がある。非表示する代表取締役の住民票、印鑑証明書、運転免許証の写しなどである。しかしこれには大いに疑問がある。通常代表取締役については就任時に就任承諾書に実印を押印して印鑑証明書を提出しているし、平取締役就任時にも本人確認証明書を提出している。すでに実在性はすでに確認済みである。実在性が全く確認されないのはせいぜい印鑑届をしない代表清算人くらいだろうか。
「ただし、登記の申請書に当該証明書を添付した場合を除く」とあるので、添付が必要となるのはこの他には印鑑届に印鑑証明書が添付されない管轄外本店移転くらいだろう。なので、あまり問題とならないハズである。
 しかし、なぜ代表取締役の実在性を求めるのだろうか?代表取締役の氏名や住所を会社の実在性の重要な要素と考えているんだろうか?登記申請後から登記上の住所と実際の住所に変更がないことを確認したいのだろうか。そうであれば住所変更登記が未了のときに前住所(登記上の住所)を非表示にするメリットがあるだろうか?

添付書類の趣旨のもう1つは実質的支配者の本人特定事項の実在がある。
 資格者代理人=司法書士は登記申請の依頼を受けたときは犯収法に基づき、依頼者や会社の実質的支配者の本人特定事項(住所や氏名)を確認して記録をしなければならないことになっている。
 「ひそ」の申出とセットの登記申請を司法書士が代理申請する場合は当該司法書士が作成した実質的支配者についての確認記録を提出せよっていうことだ。

 代表取締役の実在性も疑問ありだが、これもとても不可解である。実質的支配者の本人特定事項(住所や氏名)と会社の実在性に関連性はあるのだろうか。全くないとは言わないが、不可解である。
 しかも、これは資格者代理人=司法書士による代理申請の場合だけである。いわゆる本人申請、会社自身の申請の場合には不要である。この差はなんなのか?これは改正規則施行時の通達での説明が楽しみである。

 また、実質的支配者情報一覧の交付がされていればこれに替えることができるのだが、資格者代理人による実質的支配者の本人特定事項(住所や氏名)を確認したことと同視できるのか?これも不可解である。

 そもそも犯収法上、司法書士は依頼者についての本人特定事項を確認すれば足りるハズである。実質的支配者についての確認は不要なハズである。これはどういうことか?と思っていたのだが、どうやら「ひそ」についての改正規則施行時までに犯収法の改正があるようだ。この改正により司法書士の確認事項が増えたことによる。
 だいたい、こんなの厳守している司法書士などいるんだろうか?できもしないことをさらに加えても全く意味がないのではないか!  
↑ チョット問題あるので非表示!

ちなみに犯収法上の特定業務は「ひそ」に関して言えば設立と管轄外本店移転である。

ここからが令和7年3月12日の改定である。
犯収法の特定業務を改めて確認してみると、犯罪による収益の移転防止に関する法律4条に基づく同法の別表の第2条第2項第46条に掲げる者の欄の2号によると「会社の設立又は合併に関する行為又は手続その他の政令で定める会社の組織、運営又は管理に関する行為又は手続」であって、その政令とやらである犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令第8条によれば、株式会社の場合は①設立、②組織変更、合併、会社分割、株式交換又は株式移転、③定款の変更、④取締役若しくは執行役の選任又は代表執行役若しくは代表執行役の選定である。
この「法律の条文」が「法律の別表」を引用し、「法律の別表」が「政令」を引用するという複雑な構造は何とかならないだろうか!読みづらいことこの上ない。この複雑な構造は犯収法全体にあてはまるものである。

「ひそ」に関して言えば設立と管轄外本店移転(定款の変更)と代表取締役の就任と住所変更である(住所変更が含まれるかについてはビミョーではあるが)

よって設立と管轄外本店移転だけではない。以前はこの2つが特定業務であるとしたが誤りである。謹んでお詫び申し上げる。

次に上場会社
上場会社は「金融商品取引所に当該株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面」である。何をもって上場されていることを認めるに足りる書面なのかは不明である。有価証券報告書だろうか。結構な分量な書類だと思うが・・・。

チョット長くなったので、ここらで一息入れる。続きは次回。

では。