代表取締役の住所非表示4&先例・通達をぶった斬る!4 令和6年1月29日東司総発第413号
2024/5/26 日曜日
前回からの続き。
まさか東京司法書士会がパブコメを出しているとは思わなかった。司法書士の団体なので、登記に関することについての声明を発することはいいことだとは思うが、こういうものはいわゆる各単位会が独自に行うのではなく、日本司法書士会連合会が行うべきようなものではないだろうか。このあたりの関係性はよくわからない。ましてや「ひそ」はこれまでの旧姓の併記やDV被害者等の非表示措置以上に賛否が分かれるものなんだから。
このパブコメは賛否というよりも「提言」である。確かに「ひそ」は賛否が分かれるので、「賛」とも「否」ともいいにくいであろう。ところどころで「賛」であったり「否」であったりと、読んでいて分かりにくいと思うところもある。まぁ、どっちつかずの単なる「提言」と割り切って読んだほうがいいと思う。
各提言には理由なようなことも書かれている。ここからは提言の内容や理由について一つ一つ見ていく。
まずは冒頭の「はじめに」という箇所から。
この「はじめに」を要約すると「法律(法改正)で規定すべきだ」ということである。
登記事項と登記事項証明書の記載事項の関係だが、商業登記規則31条によれば登記事項証明書には現に効力を有する登記事項を記載すべし、とある。登記事項は会社法に定められている。法律が定めた登記事項を規則(省令)により非表示にしては、登記事項から削除したことと等しいではないか、ということであろう。
あまりに原理原則に則った考ではあるが、まぁ、これはこれでそのとおりだ。ただし、賛否が分かれる以上、法改正ではいつまでたっても「ひそ」は実現しないかもしれないので、規則改正で乗り切ろうとする法務省の考えにも一理あるとも思う。
次に提言1
1 住所記載の登記事項証明書の交付および資格者代理人が確認できる仕組み
「ひそ」が講じられている会社でも当該会社や会社から委任を受けた者は勿論のこと、
資格者代理人にも住所が記載された登記事項証明書の交付請求ができるようにせよってこと。会社からすれば「ひそ」実施後も提出先や使用目的によっては住所が記載された登記事項証明書が手に入れば便利であろう。先に書いたような与信審査の場面を心配する必要がないので有用だし「ひそ」への心理的ハードルが下がるといっているが。都合が良すぎるとも思うが。
資格者代理人であれば交付請求できるというのは確かに便利である。登記申請書に記載する代表者の住所の確認や住所変更登記失念の有無を確認できる。しかしこれはこれで問題である。公開されないものをその者の承諾なく取得できるというのは、戸籍や住民票の「職務請求」に似ていると思う。であれば資格者代理人による住所の記載入りの登記事項証明書の交付請求を実現するのであれば、職務請求書取扱規程(こんな名称だったかは覚えてないが)と同様な規則のを制定が必要であろう。このような規則の準備も予告せずに、単に資格者代理人にも住所の記載入りの登記事項証明書をよこせ、というのは虫が良すぎるし、そもそも法務省から相手にされない。好き勝手に書いている私が言うことではないが、パブコメといえどあまり好き勝手に書いてはいけない。
提言2 申出のタイミング
登記申請時の限らずいつでも申出可能とせよ、ということである。
いいか悪いかは別として私は「ひそ」は例外的な制度なので、それ故に「申出」のタイミングも限定されていると考えている。なのでいつでもできるようにせよというのはお門違いである。ましてや旧姓の併記と同列に論じられるハズがない。
申出のタイミングが限定されている理由は登記所の事務手続を考慮した結果、と言っているが、私は新たに就任・重任するときに限定すべきという考えなので、このパブコメとは相容れない。まぁ、法務省が例外中の例外と考えているので、申出のタイミングが拡大することはこの先もないのではないだろうか。
提言3 期間制限
「ひそ」もDV被害者等の非表示措置と同じように時限措置にすべきということだろう。DV被害者等の非表示措置の方が非表示の要請が大きいにもかかわらず、時限措置なのだから。
まぁ、これはこれでそのとおりだが、余計なことが書いてある。
「ひそ」が実施されている最中でも、代表取締役の住所に変更がないことを登記所が積極的に確認できるようにするため、「ひそ」は2年間の更新制にせよ、とある。
「住所に変更がないことの積極的な確認」は「ひそ」が実施されていない会社でも同じである。「住所に変更がないことの積極的な確認」というのは言ってしまえば、変更のないことの証明を求めるである。これを敷衍すると変更がなくても変更がない旨の登記申請せよってことになりかねない。つまり「ひそ」を時限措置にせよ、ということの根拠でも理由でもない。
一般的に住所変更登記の失念は多いと思うが、「ひそ」が永続的に実施されると住所変更登記を失念するおそれが高くなる、とも言っているが、果たしてどうだろうか。この点も「ひそ」を時限措置にせよ、ということの根拠とも理由にはならないと思う。
提言4 「ひそ」の対象範囲の拡大
代表取締役だけでなく支配人も住所を非表示にせよ、と言っている。プライバシー保護の要請は支配人でも該当するかもしれないが、代表取締役のそれと比較するとどうであろうか。少々疑問ではあるが、支配人選任は業務命令なようなものだから、ある程度は理解できる。代表取締役だけ非表示で支配人が表示というのはあんまりである。まぁ、会社もある程度は配慮するだろうけど。
ところが条文で比較すると、DV被害者等の非表示措置では「登記簿に住所が記録されている者」としているので、支配人も含まれるのだが、「ひそ」では「登記簿に住所を記録すべき代表取締役等の住所」とされているので、代表取締役だけが対象であることを明示している。これも「ひそ」は例外中の例外という法務省の考の表れであることであろう。ということであれば、支配人も非表示にせよ、ってのは無理な注文ってところだ。
退任した代表取締役も非表示可能とせよ、と言っているが、私の考えでは「ひそ」の申出ができるときは「新たに代表取締役に就任(重任も含む)したときに限るので、過去に住所が表示されることを承諾している以上、今更「ひそ」の申出はできないと考える。なので、この点はお門違いである。
提言5 補正の促し
改正規則によれば「ひそ」が講じられている代表取締役等の住所と同一のものを登記するときは「ひそ」は継続するとしている。(31条の3第5項)念頭に置いているのは重任であろう。
ところが重任は登記されている住所と異なる住所でも可能である。前回就任時の住所はA地だったが、その任期中にB地に変更したがその旨の登記をせずに重任の登記をするときは住所変更の登記をしなくてもいきなり「住所 B地」として登記できる。不動産登記とは異なり変更の過程などはどうでも良く、今現在がどうなのかということが重要なのであろう。住所変更の登記申請にも住民票等の裏付け資料は不要である。「ひそ」の運用はかなり慎重なのに、住所変更に関しては割といい加減である。法務省は登記事項である「代表取締役の住所」ということについてどう考えているのか?これは「ひそ」に横たわる大きな疑問である。
本題に戻すが、就任時に住所A地について「ひそ」の申出をしたが、その後に住所をB地に変更し、その旨の登記申請をしないまま重任の登記申請をすると31条の3第5項には該当せず、住所B地は非表示とはならないし、後から「ひそ」の申出はできなくなる。
これは重大なことだから、登記上の住所と異なる住所で重任の登記申請があった際に登記官は「ひそ」の申出を促すべきだとしている。コレはコレで親切だが、商業登記というのは申請があればその旨の登記をするが、申請がなければ例え申請人の失念であっても登記しないということ鉄則である。「ひそ」に限り補正等を促すということは考えられない。
DV被害者等の非表示措置では終了間際に終了する旨をアナウンスするような取扱いだが、これは異例である。これと同じに考えてはイカン。登記所はそんなに親切ではないってことはイタいほどわかっているのに、このような提言をすることには理解に苦しむ。まぁ、登記官に親切になって欲しいと思うことには理解できるが。
提言6 本店所在地の実在性
実在性の確認には表札や看板の設置や郵便が届くなどの形式的なものではく、実質的なもの、例えば主たる事業所といえるような機能の有無を対象とすべきとしている。
う~ん、これは如何なものだろうか。表札や看板の設置や郵便が届くということでも会社の実在性アリといえるのではないだろうか。そもそも実在性の有無を要件とすることに疑問があるのだから、このあたりを指摘すべきではないだろうか。
主たる事業所といえるような機能があることの例として掲げていることも少々アヤシい。定款や計算書類等の備え置きがなされていることをあげているが、こんなものは電磁的記録で保管されているのだから、全国何処でも可能であろう。この程度で実在性ありとはいえない。主たる事業所といえるような機能の有無を要件とするとかえって混乱を招きかねないし、その確認方法や程度も一律ではなくなるだろう。登記官ごとに判断が分かれることだって考えられる。条文に規定されている以上に曖昧な要件を追加してはイカンということだ。
一方で、転送不要郵便とせよ、というのは大いに納得できる。ここに来てやっとまともな提言である。
提言7 第三者の申出による終了
「ひそ」が実施されてもその後に「実在性」が失われれば第三者による「ひそ」終了の申出ができるようにせよってこと。
「実在性」が失われたということは、条文の要件を逆に捉えれば、表札や看板の設置がなされなくなったとか郵便が届かなくなったということであろう。
実在性が失われるという表現はチョット正確ではない。実在性は最初からあるかないかのどちらかであり、その後に喪失することはない。想定しているのは開店休業になったというだけであろうが、これは実在する会社が開店休業状態というだけである。まぁ、どうでもいいことだが。
実在性がなくなったのだから「ひそ」を終了せよってのは分からんでもない。特に利害関係者からすれば尚更である。
しかし、第三者が終了させるには条文の要件を逆に捉えるだけでは足りないだろう。何らかの事情により看板が設置されなくなった状態のみをもって実在性なし、だから「ひそ」も終了というのは乱暴である。申出時は看板があるってことでもいいが第三者が中止させるには別な、もっと詳細な要件が課されるべきであろう。
第三者による終了の申出は必要かもしれないが、相当な要件や手続が必要となることを理解しているんだろうか。
登記官は「ひそ」を講じた会社の本店がその所在地に実在しないと認められるときには終了させる旨の規定があるのだから、当該第三者は自分なりに調査等をして登記官に「ひそ」を終了することを促せば事足りるのではないだろうか。
提言8 閲覧請求者
閲覧できる者の枠を拡大せよってこと。「ひそ」を認める代わりに住所が記載されている保管書類の閲覧可能者を多くしてバランスをとろうということである。まぁ、これはこれでそのとおりだ。
提言9 登記情報
「ひそ」が実施されれば登記事項証明書だけでなく、登記情報でも代表取締役の住所は非表示になっているのだが、会社や資格者代理人の請求により住所が表示されるような仕組みとせよってこと。これはシステム上かなり難しいんじゃないかな。夢物語である。
また、資格者代理人については住所記載入りの登記事項証明書の交付請求以上に、高度な職務上の倫理が求められることになる。パソコンとインターネット環境さえあれば誰にも知られずに「ひそ」となっている代表取締役の住所を知ることができてしまうのだから。やはり夢物語である。
提言10 施行時期
時期尚早なので施行時(予定では令和6年6月3日)を遅らせろってこと。
う~ん、問題点はいくつもあるが時期尚早とは思えなし、こんな提言は一蹴される。
※施行日は令和6年10月に延期されているが、この頁は延期が決定する前に書いているので悪しからず・・・。
とりあえず、東京司法書士会のパブコメについての私なりの意見である。
「ひそ」は賛否があることからいろいろな問題が含まれているので、施行後にも新たな問題も起きるかもしれない。資格者代理人としては万全な体制で施行を迎えたいところである。これを結びに変えて本シリーズを終える。
では。
