司法書士法人履行体制基準改正2
2024/8/02 金曜日
前回からの続き
司法書士法人である法人正会員のLSへの業務報告は「事務担当者基準」がとられている。これについて語るにはまず、事務担当者というものを深掘りする必要がある。
事務担当者についての定義は曖昧なのだが、司法書士法人履行体制基準4条・5条を要約してみると・・・
資格としては次の2つである
①社員司法書士または使用人司法書士であること(いずれもLS会員であること)
②LSの名簿登載者であること
法人正会員の入会や会員資格維持の要件として、すべての社員司法書士と使用人司法書士がLS会員でなければならないわけではない。つまり、司法書士法人にはLSの会員である社員と会員ではない社員がいて、LSの会員である使用人司法書士とLSの会員ではない使用人司法書士がいるということである。そして事務担当者となることができるのはLSの会員である社員または使用人司法書士に限られる。代表社員といえど、LS会員でなければ事務担当者とすることはできないということである。
LSはLS会員ではない司法書士が成年後見事件に関わることを好ましく思っていない。これもポイントである。逆にいえば事務担当者は社員司法書士には限られないということでもある。
そして、事務担当者の役割を見てみると「受任事件に関する後見等の事務の遂行については、事務担当者が中心となり対応し、本人、親族、行政機関、介護従事者や医療従事者などの本人の支援者、家庭裁判所及び本法人との連絡調整についても、事務担当者が責任をもってあたるもの」とされている。
法人なんだから、具体的な事務を行う者がいることは当然である。会社だって、事務は生身の人間(法令上は自然人という)が行う必要がある。
なので、司法書士法人が成年後見人に選任された時点で、その事務を行う者を決めているハズである。司法書士法人履行体制基準が事務担当者を選任せよといっているのは当然のことである。
会社であれ、司法書士法人であれ、1つの事務や業務を複数の者が担当・分担することは当然にあり得る。なので、法人正会員も1つの成年後見事件を複数の社員や使用人で担当・分担することは許される。複数名で対応できることが法人の強みの一つでもある。
ところがLSでは事務担当者は1名と決まっている。規定はないが、1名しか選任できない仕組みになっている。
つまり、LSによって定められる事務担当者と実際に成年後見事件の事務を行う者と2つの概念が存在するわけである。もちろんこれらを同一人が兼ねることもできる。
逆に事務担当者と実際に成年後見事件の事務を行う者が別々の人ということも許されるハズである。事務担当者の役割や概念はとても曖昧だが、要は対外的な窓口を一本化せよということであろう。窓口が一本化されている限り、内部の事務を複数名で対応・分担することは許される。
窓口が一つであれば、個々の成年後見業務の情報や結果などな当該窓口=事務担当者に集約されるハズである。なので、事務担当者の所属する支部へ業務報告をせよってことなのである。提出された業務報告に基づきLSの支部役員が指導監督をする際にも事務担当者を窓口とすれば、同じ支部同士なので迅速に行うことができると考えられている。
これこそが事務担当者基準の意味である。事務担当者を選任することと事務担当者基準は必ずしも論理的な帰結ではないが、LSにとって指導監督がしやすいということがその目的である。事務担当者とLSの指導監督担当役員が同じ支部であれば、同じ家庭裁判所から成年後見人に選任されているであろうから、ある程度事情や業務遂行の方法も共通の理解があるだろうし、何かあれば面談等の方法もとりやすい。
このように司法書士法人履行体制基準はLS側の都合で決められており、個々の法人正会員の都合ややり方などはほとんど眼中にない。法人正会員といえどそれぞれ考え方や運営の方法は異なるだろうが、そんなものはおかまいなしである。1つの枠にはめようとするLSの姿勢は疑問があるところであるし、個々の法人正会員から不満も出ていたであろう。
LS執行部に限らず、司法書士会執行部にも共通することだが、彼らは司法書士法人というものを正確に理解していない。わたしも司法書士法人の会員ではないので人のことはいえないが、少なくとも彼らよりもいろいろな司法書士法人を見てきている。LSや司法書士会の事務職員であれば尚更である。執行部の多くは司法書士法人というものをいわゆる合同事務所(これも定義などが曖昧なので詳細は割愛する)と同一視、またはこれに毛が生えた程度としか思っていない節がある。合同事務所はどれだけ規模が多くても法主体、責任主体は個々の司法書士個人である。ところが司法書士法人は社員である司法書士の他に司法書士法人というべつの法主体が存在する。法主体というのは権利義務の帰属先と考えてもらえばいい。全く別の概念であるものを同一視して、規律を設けたり運営しようとするから、不都合や不可解なことが起きる。具体定例をあげればキリがないので今回は割愛する。
ところで、事務担当者基準では不都合が起きる。それは事務担当者が変更した場合である。
事務担当者の変更には2つのパターンがある。1つは事務担当者自体が別の者に交代した場合である。(事務担当者交代)もう1つは事務担当者の所属支部が変更する場合(事務担当者の支部間異動)である。1つ1つ見ていこう。
まずは事務担当者の交代から。
これまで東京支部所属の佐藤という司法書士が事務担当者であったが、この度東京支部所属の田中へと変更したという場合である。佐藤が退社・退職するということがその理由であることが多いであろうが、人事異動ということもあり得る。成年後見業務部署から不動産登記部署への異動である。まるで一般の企業や役所のようであるが、大規模な司法書士法人では定期的に人事異動や配置換えなどを行っているらしい。
成年後見業務は成年被後見人や親族などとの関係性や信頼関係が重要であるから、担当者の人事異動や配置換えということに馴染むかどうかについては疑問のあるところだが、司法書士法人の運営方針なのだから、頭ごなしに否定するつもりはないし、やむを得ない交代ということもあるであろう。
事務担当者間での引継ぎがキチンと行われていて、LSへも事務担当者が変更した旨の届出がなされていれば、田中も東京支部の会員であるから、業務報告の提出先に変更はなく、特に支障はない。支障はないハズなのだが、実際は届出懈怠やLS側の制度不備などによりかつては現場ではだいぶ混乱していたし、もしかしたら今でも混乱しているかもしれない。
次は事務担当者の支部間異動である。
この前提として、事務担当者と成年被後見人との物理的な距離が問題となる。
先ほど例に挙げた主たる事務所東京都内にあり、従たる事務所が大阪府内にある司法書士法人が、東京家裁から東京都内在住の成年被後見人の成年後見人に選任されたというケースで考えてみる。
この場合に事務担当者として大阪事務所に所属する社員司法書士や使用人司法書士を選任することはできるのだろうか?これはLS版「千載不決の議」といわれる(と勝手に思っている)もので、いまだに結論がでていないものである。千載不決の議とは古代中国・宋の太祖の急死とその弟の帝位継承を巡る疑惑についていまだに結論が出ていないことをいう。
東京在住の成年被後見人についての日々の業務を大阪在住の司法書士ができるのかという疑問はあるが、事務担当者とは別に実際に成年後見事件の事務を行う者が東京にいれば何かあったときにもすぐに対処できるし、仮にコレを禁止してしまうと、禁止されない範囲の定め方が難しくなる。成年被後見人と同一市区町村内?同一都道府県内?または隣接自治体までOK?などなど考えられるが、選任後に施設入所等で居所が変わることはよくあることである。なので、事務担当者と成年被後見人の物理的距離について可能や禁止を規定することはほぼ不可能である。なので、特にルールはない。賛否はあるところだが、私は成年後見業務に支障がなければ物理的距離は問題とならないと思う。
なので、東京事務所の事務担当者が大阪事務所への人事異動・転勤ということはあり得る。この場合は業務報告の提出先は大阪支部へと変更する。LSシステム運用開始前は変更前支部も変更後支部もかなり混乱していたはずである。これまで書面で提出されていた報告書を変更後支部へ送付するとともに必要事項などを口頭で伝える必要もあったであろう。そしてこれら引継ぎが上手くいかないが故に問題も起きていたであろうことは想像に難くない。なお、支部間異動は法人正会員に限られたことではないが、LS役員の話を聞いている限り、法人正会員で起きることが圧倒的に多いようである。事務担当者の変更と支部間異動のコンボだとさらに混乱する。
また、事務担当者基準そのものの問題ではないが、事務担当者の交代や支部間異動が繰り返されてくると、当該成年後見事件についての責任の所在が曖昧になるということも指摘されている。これを一番問題しているLS役員もいるし、今回の司法書士法人改正の大きな原因であろう。
よくよく考えてみるとコレは少しオカシイ。確かに成年後見業務のような長期間にわたる業務を複数人で行ったり、担当する者を定期的に交代させていると、引継ぎや情報共有が上手くいかないことが発生してしまうことは理解できなくもない。しかし一般の企業や役所で考えてみると、仮に担当者の交代で引継ぎが上手くいかなくとも、その法人や組織が責任を持って対応するだろう。区役所とかで「担当者が交代したので知りません。」といわれて、納得して引き下がるようなことがあるだろうか。まず、あり得ない。だったら「別の者が対応しろ」とか「責任者出てこい!」というだろう。責任の所在や主体はその組織や法人そのものである。「担当者が交代したので知りません。」というのであれば、その組織や法人の代表者に問い質せばいいハズである。もちろん、代表者がすべてを詳細に知っているとは限らないので、直ぐには回答できないのであれば「●日以内に回答せよ」でいいと思う。つまり、法人である以上責任の主体や所在は常にその法人そのものであり、それが曖昧になるということはあり得ない。
そもそも責任の所在が曖昧になるという指摘は、法人が受任しているのではなく、個人受任していると考えているからであろう。司法書士法人というものをいわゆる合同事務所と同一視、またはこれに毛が生えた程度としか思っていないからであろう。
また、法人正会員が「担当者が交代したので知りません。」とか「私は担当していないから分かりません。」などと言っているのであれば、それも司法書士法人というものをいわゆる合同事務所と同一視、またはこれに毛が生えた程度としか思っていないからであろう。こんなことを法人正会員が言っているのであればその法人正会員はかなりヤバい。私のような個人の司法書士が個々の受任事件について家裁等からの問い合わせについて「よく分かりません」などとぬかしていることとそう大きく変わらない。成年後見人を解任されても文句言えないと思う。そして1番ヤバいのはこれを許してしまうLSである。許しているわけではないかもしれないが、もっと厳しく指導すべきだし、場合によっては家裁等へ通報すべき案件である。
なので、私は司法書士法人において責任の所在が曖昧になるということは起きえない、それは追求する側があまいだけであると思う。まぁ、それでも対応に苦慮しているLS役員・委員はいるので、一応「責任所在曖昧事例」というものがあることは肯定する。それでもその実数や程度はほとんど分からない
少し長くなったが、ここまでを整理すると、事務担当者基準は事務担当者に変更があると
混乱が生じる。それは法人正会員にもLSにも生じる。
また、人の入れ替えが激しい法人正会員では「責任所在曖昧事例」が起きているようである。
ここまで書いたことが、令和6年3月31日までのことである。
LSもこれらの問題には頭を痛めており、いろいろと対策を考えていたようである。次の頁ではこれらの問題についての私の考えていた対策を紹介する。
では。
