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ひそ・リターンズ2&先例・通達をぶった斬る!5 令和6年7月26日民商116号

2024/10/01 火曜日

前回からの続き。

2 代表取締役等住所非表示措置の実施

 本通達には「ひそ」が実施された場合の記録例が掲載されている。はじめて「ひそ」の申出をした場合に登記記録はどうなるのか。

 本通達別紙記録例の「1 商業登記規則31条の3第1項の申出があった場合」を見て思うことは、過去の記録については「ひそ」は実施されないということである。
 「過去の記録」という表現は少々適切ではない。正確には現に効力を有する事項以外の事項、回りくどい言い方だが、登記記録上、下線が引かれている事項と閉鎖された登記簿に記載されている事項である。「ひそ」の対象は現に効力を有する事項にかかる住所だけということである。

 これだとおかしなことが起きる。設立や新任の場合は特に問題はない。代表取締役の住所が東京都台東区鳥越一丁目30番8号であれば、「住所 東京都台東区」と表示される。
 ここで表示されるというのは発行される登記事項証明書に「住所 東京都台東区」と記載されるということである。
 少々おかしいのは住所変更の場合である。住所変更の登記申請と「ひそ」の申出がなされた場合である。住所が「東京都台東区鳥越一丁目30番8号」と登記されている代表取締役が「東京都千代田区大手町一丁目1番1号」へ住所移転した場合を考えてみる。住所変更の登記がなされると住所は「住所 東京都千代田区」と表示される。
 ところが、過去の住所である「東京都台東区鳥越一丁目30番8号」は下線が引かれるだけで表示されたままである。過去の住所がどこであったのかはまるわかりである。(通達記録例1(4)参照)。家族全員が引越をしたのであれば支障はないかもしれないが、代表取締役だけが単身赴任の場合は、家族の住所は現在の住所であるし、数年後には戻ってくるかもしれない。
 さらにオカシナことが起きるのは同一市町村内での住所変更の場合である。住所が「東京都台東区鳥越一丁目30番8号」と登記されている代表取締役が「東京都台東区小島一丁目4番8号」へ住所移転した場合を考えてみる。現在の住所は「住所 東京都台東区」と表示され、過去の住所である「東京都台東区鳥越一丁目30番8号」はそのまま表示される。コンピュータがバグったのかと勘違いしそうだ。「ひそ」が実施された旨は登記記録にはあらわれないので、この場合は住所変更の旨の登記原因などから「ひそ」が実施されたことを推測すべきである。

 もっとおかしいのは重任の場合である。
 重任の登記がなされると、前期にかかる住所と氏名は下線が引かれるが、それとまったく同じ住所と氏名が下段に登記される。まったく同じものが2つ記載され、一方には下線が引かれる。これで重任がされたことを表示するのである。もう少し簡略できないものかとも思ってしまう。まぁ、仕方がないのだがこの仕組みが「ひそ」だととんでもないことが起きる。「ひそ」では現に効力を有する事項だけが非表示なので、重任の記録のうち下段の住所だけが「住所 東京都台東区」と表示され、上段は下線が引かれるものの「住所 東京都台東区鳥越一丁目30番8号」と表示される。(本通達の別紙記録例1商業登記規則31条の3第1項の申出があった場合(4)住所変更を伴わない重任の登記と同時の申出を参照)
 これでは現に効力を有する事項は非表示となっていても住所はまるわかりである。過去の記録は非表示にする必要はないということなんだろうが、これでは「ひそ」の趣旨に反するのではないだろうか。
 私が指摘する重任の場合の問題は、その記載方法(上下二段方式)に起因するのである。

 現在事項証明書であれば下段部分だけが表示されるので問題はないかもしれないが、履歴事項証明書には上段部分も表示されてしまうので、結局のところ代表取締役の住所は判明してしまう。
 重任の登記申請時に「ひそ」の申出をしても、住所がわかってしまうのでガッカリする代表取締役も出てくるかもしれない。本当に「ひそ」を望むのであれば、設立や住所変更のときがいいってことになる。ただし、重任時に新住所で登記する場合はこのような問題は起きないハズである。

 ここで注目したいのは、前回の「ひそ」のシリーズで紹介したDV被害者等の非表示措置の場合の記載との比較である。これも過去に登記された住所を非表示とすることはできないとされている。令和4年8月25日民商411号の別紙記録例(2)は重任の登記がなされた後にDV被害者等の非表示措置の申出をした場合の記載例である。これを見てみると、下段の住所は「商業登記規則第31条の2の規定による措置」と表示されるが、上段の住所も下線が引かれているが、「商業登記規則第31条の2の規定による措置」と記載される。
 上段の住所も非表示とすることは技術的に不可能なのことと思ったが、どうやらそうではない。(手間はかかると思うが)やろうと思えばできるのである。

 この違いは何か?令和4年通達は「過去に登記された住所」という表現を用いているが、本通達ではそのような表現はなく、また現に効力を有する事項という表現は用いてはいるものの、上段住所についての直接の言及ではない。このあたりの違いなのか?
 もっともらしい理由としては、非表示によって保護すべきものの違いであろう。「ひそ」については代表取締役のプライバシーであるが、DV被害者等の非表示措置は代表取締役の生命身体である。重さが違う。これが実質的な理由だが、もう少し理論的な説明が欲しいところである。

 一度「ひそ」が実施されれば、その住所が現に効力を有する事項でなくなっても(登記簿の閉鎖や退任など)「ひそ」は終了しない。

3 代表取締役等住所非表示措置の継続
 一度「ひそ」が実施されれば、重任や管轄外本店移転の申請をしても「ひそ」は終了しない。同一のもの(同一の住所)が登記される場合は、「ひそ」が継続されるからである。
 管轄外本店移転の場合は問題はないが、重任の前後で住所が異なる場合(就任後に住所変更をしたが、その旨の登記がなされないままで重任した場合)は要注意だ。この場合は同一の住所が登記されるわけではないので「ひそ」は終了してしまうので、あらためて「ひそ」の申出が必要となる。まぁ、すでに「ひそ」が実施されている会社なので、再度の申出ははじめて申出をするときに比べればだいぶヌルゲーである。
 本来は住所変更の登記申請をして、そのときに「ひそ」の申出をして、その後に重任の登記申請をすべき(登録免許税×2はイタいが)なので、トータルでみればやるべき事は変わらない。再度の申出が必要なことを忘れなければOKだ。重任の登記だけ申請してしまい、これが完了してしまうと「ひそ」の申出はできなくなるので要注意だ。

次の「ひそ」の終了はチョット長いので、ここいらで一旦区切ることにする。

では。