ひそ・リターンズ3&先例・通達をぶった斬る!5 令和6年7月26日民商116号
2024/10/06 日曜日
前回からの続き。
4 代表取締役等住所非表示措置の終了
「ひそ」を終了させるには、申出書に届出印での押印が必要なことから、印鑑提出代表取締役から申し出ることとなる。印鑑提出代表取締役以外の代表取締役が「ひそ」の対象となっている場合でも、当該対象代表取締役の同意や承諾などは不要なようだ。
これは会社側からの自発的な「ひそ」終了の申出であって、これは特に問題はない。
問題は、会社の本店所在場所における実在性が認められない場合、つまり会社の知らないところで「ひそ」が終了してしまう場合である。
登記官が会社の実在性について能動的に調査をするハズがないので、第三者からの通報や申出等の情報提供がなされ、登記官がこれを相当と認めたときに「ひそ」を終了させるものと思っていたが、その詳細が示された。
登記官が会社に実在性がないと認めて「ひそ」を終了させるに至るには2つのプロセスを経るようである。
ステップ1は第三者による「当該株式会社がその本店所在場所に置いて実在しない旨の情報提供(これは長すぎるので単にステップ1を「情報提供」と呼ぶ)」がなされることである。この情報提供には当該第三者から会社に宛てた郵便物が宛所不明により不達となったことを明らかにする書面(不達証明と呼ぶことにする)を添付しなければならない。 会社の実在性有無を郵便物が届くか否かで判断することは短絡的ではあるが、客観性という観点からはやむを得ないとも思う。
私は会社の存在と実在性は異なる概念であると思うことは以前に書いた。そして、何をもって実在性ありというのかについても思うところを書いた。情報提供に不達証明を添付するということから、実在性とは郵便物が届くか否かである。もっとも、絶対の基準ではないが、わかりやすい基準である。
問題は不達証明の具体的な内容である。「宛所に尋ねなし」でいいのか、それとも書留郵便が不在となり戻ってきてしまったことをいうのか?後者は民事訴訟の送達などで問題となるが、これは受け取らなかったことを意味するものであり、届かなかったことではない。やはり不達証明というのは、「宛所に尋ねなし」でなければならないのだろう。後述の会社法第472条2項の通知不到達との兼ね合いでも「宛所に尋ねなし」だな。
郵便の形式は普通郵便でいいのかそれとも書留郵便とすべきなのかは分からないが、届かなかったことが重要なので、形式は何でもいいのではないだろうか。配達証明郵便としたところで、配達できなかったことの証明ではないのだから。
情報提供者の属性は特に制限はないようである。情報提供者と当該会社との利害関係等があることは必要ないし、その旨の証明も求められていない。つまり、誰でもいいのである。
登記官がこの情報提供が事実である可能性が高いと判断すると次のステップに進む。登記官の判断、誤解をおそれずにいえば主観が入るので、不達証明があれば、必ず次のステップに進むわけではないということであろうか。郵便が届く届かないが唯一絶対の要件というわけではないということだろうか。
次はステップ2。情報提供につき真実であることの蓋然性が高いと判断した登記官は会社に実在しているのであれば一定期間内にその旨申し出るべき旨のお尋ね書を送る。
実在性有りの申出がなされなければ登記官は「ひそ」を終了させる。この一連のプロセスを「お尋ね書発送」と呼ぶ。
このように実在性なしによる終了は情報提供とお尋ね書発送の2つのプロセスを経るのが原則なのだが、これには例外がある。
弁護士や認定司法書士(以下「司法書士等」という)による情報提供の場合には、お尋ね書発送を省略して「ひそ」を終了させることができる。これは民事訴訟などで事実証明に長けているからなんだろうか?
気になるの点として不達証明を添付するには違いないものの、第三者の情報提供ではそのまま「情報提供」なのだが、コッチは「上申書」となっている点である。上申書には職印の押印と職印証明書の添付が必須なのだが違いはそれだけであろうか。つまり、上申書には「この会社実在性ないんで「ひそ」終了ヨロ!」だけでいいんだろうかってこと。
それとも実在性のないことについて郵便の不達証明以外の事実も列挙する必要があるんだろうか。それとも司法書士等による上申はそれほど重いということなんだろうか。そうであれば、「ひそ」を終了させられた会社(の代表取締役)が文句を言ってきても登記官は「知らん!文句は上申した司法書士等に言え!」ってことで済ませてしまうのだろうか。
全責任は司法書士等が負えってことなんだろうか。「ひそ」を終了させられた会社は大概ヤバい会社である。あちらこちらで債権者のヘイトを集めている会社であろう。反社かもしれない。こんな会社からの文句やクレームなどの逆ヘイトのターゲットにされては目も当てられない。司法書士等は運用には注意すべきである。消極的と言われようがヤバいと感じるときには第三者の情報提供の体をとることも検討すべきであろう。
この2つはいずれも会社に実在性がない旨の情報提供(上申)が登記官に寄せられたことを契機にした「ひそ」の終了である。会社の知らないところでの終了である。
会社の知らないところでの終了はまだある。そのうちの一つはこれは情報提供等の第三者からの通報を契機にするのではなく、登記所だけの手続や都合で「ひそ」を終了させてしまう。これは会社法第472条2項の通知の不到達である。休眠会社をみなし解散とするための通知である。これが届かなかった(ということは宛所に尋ねなしで返送されたってことだろうことをもって「ひそ」を終了させるものである。登記官が能動的に会社の実在性を調査することはないが、余所で起きた結果を「ひそ」終了の原因に用いてしまうということであろう。
気になるのはお尋ね書発送の場合は「返送がない」ときに「ひそ」終了とされているが、休眠会社の整理通知では「不達となった」ときに「ひそ」終了とされている点である。
不達も返送なしも大した違いはないようにも思えるが、たまたま到達したが返送しない場合は不達ではないが、返送なしではある。民事訴訟の送達では今まで届いていたものが突然受け取らなかったりなんてことは日常茶飯事である。商業登記においてはこのあたりはどの程度厳格にまたはゆる~く運用されるのかは分からない。
会社の知らないところでの終了はまだあるが、ここでは簡単に紹介する。
1つは上場廃止である。以前も書いたように、なぜ上場廃止が「ひそ」終了事由となるのかは不可解である。
もう1つは閉鎖された登記簿を復活させた場合である。これはパブコメを受けて新設されたものであろう。
ところで、この強制終了は申出時には実在性があったが、その後に喪失するということが有り得るということであるが、イマイチ腑に落ちない。実在性というものは当初はあったがその後になくなるということが有り得るんだろうか。なくなった後に再度復活するということもあるんだろうか?
実在性ということの意義や定義がしっかりと定まっていないような気がする。強制終了させた後に当該会社から再度の申出があったときはどうするんだろうか。
通達には終了する場合としては列挙されていないが、住所変更の登記を申請したときも再度の申出をしない限り、「ひそ」は終了する。これは会社の知らないところでの終了ではないが、会社からの積極的な申出でもないので要注意である。変更後の住所も「ひそ」のままと勘違いしていると会社の知らないところでの終了ともいえなくはないが・・・。
この他は取りあげるべくところもないのだが、最後にこの通達の「9 その他(2)官公署への対応」に不可解なことが書いてあるので紹介する。
「ひそ」が実施されている代表取締役の住所にかかる情報につき官公署から請求があった場合は、当該情報(文面からして代表取締役の住所だろう)を提供して差し支えないと書いてある。
官公署からの請求だからいわゆる公用請求であろうが、この場合は代表取締役の住所を開示するってことである。当たり前といえば当たり前であるが、どのように開示するのだろうか。代表取締役の住所が記載された回答書のようなものを提供するのだろうか。それとも公用請求の場合には代表取締役の住所が記載された登記事項証明書を発行するのだろうか。後者であれば登記所は代表取締役の住所が記載された登記事項証明書と記載されていない登記事項証明書を分けて交付できるということである。
パブコメには住所入りと住所なしを選択して交付請求できるようにすべきという意見があったが、法務省は「無理ぽ」としつつも「引き続き検討していく」と言っていた。パブコメと違うではないか!というか技術的に可能なのか?とも思う。できるんだったら会社も住所入りと住所なしを選択して交付請求できるようにしてほしいと思うところである。
おそろくは前者のような対応をするのだろうが、こればっかりは私には分からないし、今後も不明なままであろう。
以上が本通達の感想である。
次回は「ひそ」についての法務省のアナウンスがホームページに掲載されているので、これを見ていく。
では。
