超難解!会社計算規則14条 その3
2025/2/20 木曜日
前回からの続き。主に自己株式を交付した場合である。
例1 現金出資100に対してすべて自己株式を交付する。この自己株式は以前株主から買い取ったものであり、その時の買取り価格は120であった。
この自己株式の買取り価格120のことを「自己株式帳簿価額」という。
この場合は仕入れ原価120のものを100で売ったようなものであるので、自己株式処分差損が20である。100-120=-20
この100のことを出資総額と言った。全部新株発行の場合は100が資本金等増加限度額となる。これは出資総額×株式発行割合=100×1.0だからである。
全部自己株式を交付の場合は100×0=0が資本金等増加限度額となる。(結局のところ資本金等増加限度額は増えない。何度も言うが自己株式を交付しても資本金は増えないのだ!)
株式発行割合に対して自己株式を交付する割合を「自己株式処分割合」という。
出資総額×自己株式処分割合=「自己株式対価額」という。
設例では自己株式対価額は100×1.0=100である。
自己株式を交付する場合はこの自己株式対価額に注目する必要がある。
一般的に利益・損失算定では「入-出」で算定する。
100で仕入れたものを120で売れば「入-出」は120-100=20である。
自己株式の処分(売買)でいえば、「入」は自己株式対価額であり、「出」は自己株式帳簿価額である。
さて、このように計算した結果、設例では自己株式処分差損が20発生し、その他資本剰余金を20減じる必要がある。現金は100入ってきて120で仕入れた自己株式は消えた。このときの仕訳は次のようになる。商品の販売のときと比較してほしい。
現金 100 / 自己株式 120
その他資本剰余金 20
例2 現金出資100に対してすべて自己株式を交付する。この自己株式は以前株主から買い取ったものであり、その時の買取り価格は50であった。
自己株式処分割合-自己株式帳簿価額は100-50=50なので、その他資本剰余金を50加算する。
現金 100 / 自己株式 50
その他資本剰余金 50
となる。その他資本剰余金は貸借対照表の貸方に計上されるものだから、その増加は貸方に、その減少は借方に計上する。
このあたりは日商簿記3級程度の知識である。会社の経理などに配属されている人であれば朝飯前である。司法試験や司法書士試験受験生であっても学習してほしい。簿記の知識は出題範囲ではないし、会社の計算はあまり出題されないが数日程度でマスターできるので、ぜひチャレンジしてほしい。
なお、余談だが自己株式を買い取る際の価格であるが、資本金1000万円、発行済株式総数1000株の会社の株式1株を買い取る際に価格は1万円とは限らない。
要は取引なんだから価格は当事者の合意で決めればいい。実際は会社と株主の力関係で決まるのだろう。株主がどうしても買い取ってほしい場合には1万円よりも低い価格になるかもしれないし、会社がどうしても買い取りたいときは1万円よりも高い価格となるだろう。もちろん設立後の会社の業績によって1株あたりの純資産額は変わってくるので、1万円という価格では妥当しないことも多いだろう。
増資に際して全部自己株式を交付すると資本金も増えないし、発行済株式総数も増えない。
ということは登記申請が不要なのだ。会社は経理処理や株主名簿の書き換えなど忙しいと思うが、我々司法書士は何にも仕事がない・・・。よって登記記録上は増資がなされたことは判明しないのだが、プレスリリースなどを見ていると上場企業ではちょくちょくあるそうだ。
やっていることは自己株式の売買ではあるが、これも増資である。なので会社法は増資のことを「募集株式の発行等」という。会社法施行以前は「新株発行」と「自己株式の処分」と別々の制度だったようだが、「これ、同じじゃね?」ということで会社法施行時に1つの制度に統合された。従来の新株発行を「募集株式の発行」として、これに自己株式の処分(新株が発行されないので)を「等」とした。
長々と書いてきて、しかも繰り返しだが増資の際に新株を発行すると資本金が増加し、自己株式を交付すると資本金は増加せず、自己株式処分差損益によりその他資本剰余金が増減する。
新株発行と自己株式処分を組み合わせると、資本金の増加とその他資本剰余金の増減が同時に発生する。すべて自己株式を交付するという場合よりもこのパターンのほうが多いのではないだろうか。
現金出資100に対して80株の新株発行、20株の自己株式処分を行う。
株式発行割合は0.8で自己株式処分割合は0.2である。
この場合の資本金等増加限度額は100×0.8=80である。
この場合の自己株式対価額は100×0.2=20である。
例3 自己株式20の帳簿価額は10だった
資本金等増加限度額は80
その他資本剰余金は20-10=10
仕訳はこんな感じ。
現金 100 / 資本金等増加限度額 80
その他資本剰余金 10
自己株式 10
例4 自己株式20の帳簿価額は50だった
資本金等増加限度額は80
その他資本剰余金は20-50=-30
仕訳はこんな感じ。これについては別の仕訳があるので最後まで読んでほしい。
現金 100 / 資本金等増加限度額 80
その他資本剰余金 30 自己株式 50
以上のことを規定したのが14条1項本文と4号である。
まずは出資総額×株式発行割合が資本金等増加限度額となる。これは自己株式の処分と併存する場合も同じだ。14条1項本文である。
次に4号を見ると
「当該募集に際して処分する自己株式の帳簿価額」と
「第一号及び第二号に掲げる額の合計額から前号に掲げる額を減じて得た額(零未満である場合にあっては、零)に自己株式処分割合を乗じて得た額」
が規定されている。
前者を(イ)、後者を(ロ)とする。
(イ)は自己株式帳簿価額である。今まで書いてきたところの「出」である。
(ロ)はチョット複雑そうだが、実は大したことはない。
出資総額×自己株式処分割合=自己株式対価額のことである。今まで書いてきたところの「入」である。
出資総額がゼロ未満とはなんなのかと思うかもしれないが、これは別の頁で触れる簿価債務超過の事業を現物出資する場合だと思ってくれ。
要するに4号は自己株式についての「出-入」ということである。一般的には「入-出」なのだが、この規定方法には少々複雑なところがある。この式で求められる数値は自己株式処分差益は負の値で、自己株式処分差損は正の値で求められる。この値がゼロ未満の時はゼロとしているので、自己株式処分差益が発生する場合は0となる。
自己株式処分差益が発生する場合は0を控除するので、結果として出資総額×株式発行割合=新株発行部分がそのまま資本金等増加限度額となる。自己株式処分差益は資本金等増加限度額には加算しないで別にその他資本剰余金に計上することになる。
自己株式処分差損が発生する場合は出資総額×株式発行割合=新株発行部分から自己株式処分差損を控除する。
一般的に差損は負の値であり、負の値を控除すると加算することになってしまうので、これではオカシイので絶対値を控除する必要がある。だから一般的には「入-出」なのだが、4号はこれを入れ替えて「出-入」としているのである。
自己株式処分差損は控除し、自己株式処分差益は控除しないということを表現するために、「出-入」として、さらに0未満の場合は0と扱うとしたのだ。
なかなかトリッキーな記載ぶりである。差損を控除するということを正確に表現するためなのだろうが、もう少し柔軟な規定でもいいのではないだろうか?しかしまぁ、よく練られた規定である。呆れとともに感心してしまう。
冒頭で条文を起案した官僚は「ヤバい」と言ったのはこういったことである。
ここまで書いてきたように増資の際には新株を発行するのか、自己株式を交付するのかで会計処理が異なってくる。異なるというよりも新株発行部分と自己株式交付部分に分けて考えるということである。これを按分処理という。
ここで次のような設例で考えてみる。
1億円の出資に対して新株発行800株、自己株式交付200株(自己株式帳簿価額は3000万円)
新株発行部分と自己株式交付部分にわけて考えるので、
新株発行部分=出資総額×新株発行割合=1億円×0.8=8000万円
自己株式処分差損(の絶対値)=3000万円-2000万円=1000万円
資本金等増加限度額=新株発行部分-自己株式処分差損(の絶対値)
=8000万円-1000万円=7000万円
7000万円という額は出資総額(1億円)から自己株式帳簿価額(3000万円)を控除した額と等しい。
なので、増資に際して新株発行と自己株式交付を併用する場合で自己株式処分差損が発生する場合は、出資総額×新株発行割合-自己株式処分差損という計算をする必要はなく、単に出資総額から自己株式帳簿価額を控除した額が資本金等増加限度額となる。
これは1項本文が「出資総額×株式発行割合-{自己株式帳簿価額-(出資総額×自己株式処分割合)}」なので資本金等増加限度額は、
出資総額×株式発行割合+(出資総額×自己株式処分割合)-自己株式帳簿価額
=出資総額×(株式発行割合+自己株式処分割合)-自己株式帳簿価額
※株式発行割合+自己株式処分割合は1なので
=「出資総額-自己株式帳簿価額」となることにも現れている。
新株発行部分で資本金等増加限度額発生し、自己株式対応部分でこれを減じるものであり、金子先生は本来の自己株式処分差損1000万円の一部を株式発行割合額=受入金額(8000万円)で穴埋めしている、と表現されている。これも秀逸な表現である。
新株発行と自己株式交付を併用する場合で自己株式処分差損が発生する場合でも自己株式処分差益が発生する場合と同様に新株発行部分をそのまま資本金等増加限度額とし、自己株式処分差益をその他資本剰余金として計上する按分処理をしてもいいのだが、自己株式処分差損が発生する場合には、「出資総額-自己株式帳簿価額」の通算処理でOKだ。
例4を見てほしい。これは按分処理をした場合である。自己株式処分差損が発生する場合でも按分処理をすると通算処理と比べると「損」である。
通算処理をしたときの仕訳は、
現金 100 / 資本金等増加限度額 50
自己株式 50
となる。
通算処理では資本金等増加限度額は50だが、按分処理では80である。当然だが会社に入ってきたお金は同じである。
資本金を多く計上する必要性は乏しく、登録免許税も高くなる。按分処理ではその他資本剰余金も減ってしまう。その他資本剰余金は剰余金として配当や損失処理の財源となる。
資本金は多く計上する必要はないが、剰余金はたくさん計上しておきたいところだ。
自己株式を保有していて、新株発行と自己株式交付を選択できるようであれば自己株式交付を選択すべきであろう。司法書士は仕事がなくなってしまうけど・・・。
次はその他資本剰余金とその他利益剰余金についてである。
これも複雑に見えるが実際は単純である。
では。
