超難解!会社計算規則14条 その5
2025/6/16 月曜日
前回からの続き。チョット間が空いてしまった。
2項2号はその他利益剰余金の増減についてである。前回「増減」と予告していたが、資本取引である増資でその他利益剰余金が増加することはない。減少する場合だけである。
具体的にはどのような場合であろうか?
「前項第一号及び第二号に掲げる額の合計額から同項第三号に掲げる額を減じて得た額が零未満である場合」にはその他利益剰余金を減少させるとされている。
要するに増資でその他利益剰余金が減少する場合は出資総額が負の値となる場合である。
1号は要するに現金出資であるから、日本円では1円以上となる。なので1号が負の値となることはない。
2号は現物出資である。どんな財産でも価格がマイナスということはない。市場では価格が付かないような物でも価格は存在する。なので単体の財産(不動産や有価証券や自動車など)の価格が負の値となることはない。
3号を控除するがこれは0なので関係なし。
2号が負の値となるのは、結論からいえば「事業そのもの」の現物出資の場合でもある。
事業とは積極財産、消極財産、営業上のノウハウ、従業員の雇用契約などの総体であり、これは会社分割の場合と同様に考えていいだろう。
価格を算定することができる限り事業そのものの現物出資も可能である。
事業を他の会社に譲渡し、その見返りに株式をもらうという構図は合併や会社分割に近い。
合併の場合、株式は事業を譲渡した会社(消滅会社)の株主に交付されるから、会社分割の物的分割に近い。会社分割との比較はこの後で。
事業の現物出資も企業結合の一種と考えられるので、その事業の価額は時価、簿価のどちらかとしなければならない。1項2号イは出資者と会社が共通支配下関係にある場合には出資財産を簿価で引き継ぐ、としているので出資が親会社間や兄弟会社間で行われる場合は簿価である。
簿価であれば、債務超過ということもあり得る。A事業とB事業を営んでいる会社で、A事業は赤字、ということはあるだろう。
出資財産を簿価で引き継ぐということを資産400、負債500(時価は資産1000、負債500)の事業を現物出資した場合で考えてみる。募集株式の「発行等」なので、債務超過事業の現物出資であっても株式を発行・交付しないということはできない。この点は合併等とは異なる。
なので、新株を発行する場合、自己株式を交付する場合がある。
簿価で受け入れるので発行会社もこれをそのまま貸借対照表に計上する。乱暴にいえば現物出資財産の簿価が取得原価になる。
まずは新株を発行する場合から。
新株を発行する場合は資本金等増加限度額を算定するのだが、14条1項本文に「零未満である場合にあっては、零」という限定があり、これが適用されるので資本金等増加限度額はゼロとなり、資本金は計上されない。この場合は5項が適用され、その他利益剰余金を減額する。
仕訳はこんな感じ。
(出資された事業の)資産 400 / (出資された事業の)負債 500
その他利益剰余金 100
つまり簿価債務超過事業を出資の対象として受け入れると赤字を計上することになるのだ。このあたりの会計処理は合併と同じである。
時価は500でも簿価は△100である以上、その他利益剰余金は減少する。逆に簿価は500でも時価が10だと実質的な純資産額以上の資本金等増加限度額が計上されることとなる(この場合は減損しなくてもいいんだと)のだが、会社財産と資本金、株式の関係は切り離されているから無問題であるらしい。(会社計算規則逐条解説 113頁 )
この「会社計算規則逐条解説 113頁」にはスゴいことが書いてあるので以下に引用する。
「実体としての取引(当事者間では、対価として株式が交付されているので、表示の問題は別として、一定の価値を見出している)と、これをどのように表示するかという問題とは、別の問題として捉えるべきものである。したがって、計算規則では、企業結合会計基準という公正妥当と認められる会計慣行を適用することができるようにすることを優先しており、表示の問題と実質の問題を混同した指摘に対しては特に対応していない。」
簿価△100、時価500のものを受け入れると会社には500の財産が入ってきたのに帳簿には△100と載せることが本当に許されるのかという問いに対して「知らん!とにかく簿価を引き継げ!」ということだろうか?
ちなみに債務超過となっていない事業を現物出資の対象とすると資本金等増加限度額が計上される。
(出資された事業の)資産 500 / (出資された事業の)負債 400
資本金等増加限度額 100
次に全部自己株式を交付した場合。自己株式帳簿価額は200とする。
入-出で求めるので、自己株式処分差損は-100-200=-300となる。
仕訳はこんな感じ。
(出資された事業の)資産 400 / (出資された事業の)負債 500
その他資本剰余金 300 自己株式 200
次は新株を80株発行、自己株式は20株交付(自己株式帳簿価額は1株5万円)
(出資された事業の)資産 400 / (出資された事業の)負債 900
その他資本剰余金 100 自己株式100
その他利益剰余金 500
このようにしたいところだが、これは組織再編の場合である。
新株発行と自己株式交付を組み合わせた場合は、新株発行部分はその他利益剰余金を減少させ、自己株式対応部分はその他資本剰余金を減少させる必要がある。
「前項第一号及び第二号に掲げる額の合計額から同項第三号に掲げる額を減じて得た額が零未満である場合」に株式発行割合を乗じた部分に対応した額がその他利益剰余金の減少となる。金子先生が合併と異なり増資なので新株発行部分と自己株式対応部分を分けて意識すべし、と注意を促している(これが会社計算規則だ株主資本だ ●頁)
新株発行部分 △500×0.8=△400
自己株式対応部分 △500×0.2=△100
その他資本剰余金は入-出なので、-100-100=-200となる。
その他利益剰余金は新株発行部分なので-400となる。
なので仕訳はこんな感じ。
(出資された事業の)資産 400 / (出資された事業の)負債 900
その他資本剰余金 200 自己株式100
その他利益剰余金 400
債務超過の事業を現物出資の目的としたり、会社分割の対象とすることができるのか?と思うかもしれないが、あくまでも簿価なので収益性とは別問題である。将来性や受入れ会社の事業との親和性で収益が期待できれば増資や会社分割の対象になり得るし、収益性がなくとも企業グループ内の再編の一環として行うこともあるだろう。
事業の現物出資と会社分割は似ているとしたが、手続には差異が生じる。どちらも手続き完了後に事業に含まれる個々の財産の移転手続をしなければならないが、特に債務については事業の現物出資であれば個別に債権者の同意を得なければならない。会社分割では債権者保護手続を行えば、個々の債権者の同意を得ずに債務の移転が実現できる。
債務者の数が多ければ会社分割を選択すべきだろうが、債権者保護手続には準備期間も入れると2ヶ月弱もかかるし、それなりの費用も要するので、債権者の数が少なければ事業の現物出資でもいいだろう。
一方で、事業の現物出資では資本金等増加限度額の2分の1以上を資本金としなければならず、登録免許税も資本金とした額に課税される。会社分割では資本金等増加限度額に相当する株主資本等変動額の全額をその他資本剰余金として、資本金の増加はゼロとすることもできる。当然この場合の登録免許税は最低額の3万円までにおさえることができる。
対象となる事業の価格が大きい場合には会社分割を選択してもいいだろう。
2項2号は主に共通支配下関係において簿価債務超過事業の現物出資を想定している。
共通支配下関係にない会社間での事業の現物出資については5項が規定しているので別の頁で扱う。5項はかなり異質の規定であるのでお楽しみに。
では。
